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【沙亜子はいまだ、水の中】





◆ さよなら、ピーターパン



幼い頃は、誰よりも身軽であることが自慢だった。


運動会のリレーの選手に毎回選出され、
校内1高いと言われた樫の木に、真っ先に登り、
鉄棒だって誰もしないような技に、掌の豆をこらえて次々と挑戦し、
中学の時、垂直跳び60cm近くも飛んで、
走り幅跳びでは上級生達を押しのけて大会で入賞したりもした。




栄養もろくろく取れないような貧乏な家だったのに。


それは確実にやってきた。
"脂肪"。


そいつは私から、誇れる象徴を奪っていった。




中学3年にもなると、脂肪を身にまとう私の体は。
重力に縛られ、運動能力が停滞し始めていった。
悔しくって、毎朝夜明け前に走ったり。
近所の小学校の校庭に忍び込んで、走り幅跳びの練習をしたり。
膝を壊すほどに努力もした。


でも、やればやるほど成果は下がった。




胸囲は、小6で既に78cmで。
中学で84cmになった。
体重は標準値なのに。




「女になっちまったか」
白けた。
自分の中に育った女に。






ピーターパンがどこか遠くへ。
私の中から羽ばたいて行った気がした。





2003年09月08日(月)






   


   

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