「ファースト・コンタクト」を題材にした『太陽の簒奪者』読了。
長らく弱っていて入力停止状態にあり、現在も暖機に近い低速運転であって精力的に情報を取得することはできない。休み休み、ときには途中で放り出したりもしながら本を読んでいる。 しかしこの本は冒頭から引き込まれ(良い香り、美味しそうなSFの匂いがぷんぷんするのだ、食指が動かないわけがない)、比較的短い期間に読んでしまった。通勤電車の中(バスは車酔いするから読めない)、歯医者の待ち時間、ちょっとした暇を見つけて、読み進むのがもどかしいほどの期待感とともに。そして期待は裏切られることなく、物語は見事に着地した。
カバー裏の解説のとおり「クラークの直系の子孫」という印象。あまりに淡々と進むストーリーに物足りない思いがしないでもないが、書き込みすぎて辞書みたいに分厚くなるよりは、細部を想像で補う省略の美学を良しとする。
女性科学者・白石亜紀は「メカや科学に強い女の子」という野尻作品に多く見られる主人公の類型であり、一種の理想像であろう。ハードな作品を追求するならば主人公は男性であっても構わない(というか、そのほうが自然な)はずであるけれど、この作品では主人公が女性であるがゆえの暖かみが魅力ともなっている。
--- 21世紀になり、古いSFが描いてきた「未来」の年代を通り越して、地球にはまだ異星の客は訪れていない。自分たちが存命のうちにそれが起こるのかどうか、起こったとして双方に幸福な結果となるのかどうか。この目で見、脳で知ることはあるまいと思うが、読み終えた本を膝に置き、しばし空想する。
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