探偵さんの日常
DiaryINDEX|past|will
| 2002年11月30日(土) |
雇われ探偵シリーズ 愛を急げ |
探偵ファイルより抜粋です。
この物語は、実在する探偵の自伝に若干の脚色を加えた セミ・ノンフィクションである。
一匹狼の雇われ探偵、清水亮は夜の湾岸道路を走っていた。 時速は110キロを超えている。 亮はナナハン、向こう(ターゲット)はベンツのSLだ。 「これ以上スピードを出されるとついていけない・・・」高速道路の場合、 違う車線で約50ないし60メートルの距離を取るのが普通だ。 つまり、オートバイの強みである、コーナーリングの加速で距離を 詰めることができない。110キロ以上では直線で大きく引き離されるのだ。
ベンツのテールが点になった。「仕方ない、危険を冒して距離を詰めよう・・・」と 思った矢先、ハンドルに鈍い違和感を感じた。瞬間、大きくコースを外れ、 左側の遮音壁に激突した。
倒れた亮の頭のすぐ上を大型トラックが爆音を上げて通り過ぎていった。 意識があるとか、そんなことを考える余裕は無かったが、 その爆音のおかげで目が覚め、体を安全地帯に寄せられた。 あちこちに激痛が走る。亮はヘルメットを脱いで亀裂を見た。 無傷だ。「頭が大丈夫なら・・・死ぬことはないな・・・」 次第に意識が薄れていく・・・・・・。
次に気がついたのは、病院の処置室だった。目を凝らして体を見る。 血だらけだが、骨は出ていない。ほっとして、また気を失った。
病院のベッドだ・・・・・・夕方まで眠っていたのか・・・・・。 窓から西日が差し込んでいる。
「気がついた?よかったぁ!」
見知らぬ若い女が叫んだ。
「誰だ・・・君?」 「ひょっとして、記憶喪失!?」 「・・・・・・転んだのは覚えてる」 「名前は?」 「覚えてるよ、全部」
彼女は白い手を伸ばし、派手なボディランゲージで事故の様子を説明した。 どうやら、彼女の車がジャンクションから合流してきたのを避け切れなかったらしい。 「ドジだな俺・・・」亮は聞こえない舌打ちをする。
「私のせい、本当にごめんなさい・・・・・・」
亮は「俺が無灯火だったから」と喉まででかかったが、 声を飲み込んだ。真実を言えば面倒なことになる。
「大丈夫だよ、人身事故にはしないから」 「え、どういうこと?」 「このまま俺が帰っちまえば、君の免許は大丈夫だってこと」 「何言ってるのよ、あなた、鏡、見る?」
額や鼻がガーゼで覆われ、目や口も大きく晴れ上がっている。
「全部で18針ですって・・・」 「そうか・・・・・・悪いけど、看護婦さん呼んでくれ」
亮は彼女にそう伝えると、急いでボロボロに破れた皮ジャンとジーパンに着替えた。 痛みをこらえ、ナースセンターの横を何食わぬ顔で歩いて過ぎようとすると、 看護婦と話していた彼女が亮に気づいた。
「え!?どこ行くの!!」 「俺、退院するわ、なんとも無いから」
亮はそれから医者や看護婦とひと騒動を起こして、強引に病院を出た。
「ちょっと待ってよ、病院代とか、警察とか、どうなるの!?」 「その前に煙草とコーヒー!」
亮は病院の目の前にある喫茶店に入った。両目が腫れているため、 前がよく見えない。近くの客がジロジロと亮を見る。 女は周囲の目を気にしながら恥ずかしそうに亮の前に座った。 邪魔なガーゼを半分ずらして、煙草をくわえ、大きくケムリを吸い込んだ。 「ふー・・・うまい!」頭が余計にクラクラする。 亮は財布から数枚の万札を取り出した。
「ほら、これだけあれば足りるだろ、看護婦さんに謝って、 抗生物質だけもらってきてくれ」 「どうして?」 「傷が腐るから」
彼女は半べそをかきながら亮の顔をにらみつけている。 少し垂れている大きい瞳に、ぽってりした下唇。上品なエポカのワンピース。 世間知らずのお嬢さんのようだ。亮は少し意地悪そうに
「わかった、俺が行くから君は帰っていいよ・・・・・・ところで、 お嬢さんのお名前は?」
「佐藤・・・佐藤美奈です、えーと、英和女子短大の、一年生です!」 「俺、急ぎの用があるんだ、だから、ほっといてくれないか。 これで・・・何かあったら連絡してくれ」 「え?・・・あ・・・」
亮は店のナプキンに電話番号を書き、美奈に手渡した。
亮には、すぐにクライアントに会わなければならない理由(わけ)があった。
調査受付&無料相談はこちら
|