探偵さんの日常
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探偵ファイルより抜粋です。
このころ、男は探偵だった。仮に名前を桜木としよう。 私の部下になって1年。ようやく、少しは使い物になってきたかな、 という程度の探偵である。身長は170cm、体重は60キロ。 いわゆる中肉中背の、どこにでもいるような若者の一人だった。
当時、桜木は24歳。大学を卒業してなぜか私の事務所の門を叩き、「すぐ辞め るだろうな」という私の予想を嬉しく裏切ってくれた、桜木とはそんな男である。
そんな桜木にも、忙しい探偵稼業の中、心に決めた女性、というのであろうか、 結婚までをも視野に入れていた彼女がいた。桜木の彼女は看護婦さんで21歳。 中規模の総合病院の病棟勤務だった。
ある日、私と桜木はコンビを組んで調査にあたっていた。 車の中での張り込みだったが、なぜ私が現場にいたかというと、 その時期は丁度口コミで調査の依頼が重なり忙しく、 私が自ら現場で調査の責任者にならなくてはならない状態だったからだ。 (調査員の人数が多い場合、年季にかかわらず誰かが責任者となるシステムを 採用していた)
おりしも季節は秋。依頼者は私の友人である国会議員秘書の坂田。 坂田は結婚していたが、妻の様子が怪しいということで私に調査を 依頼してきたのだ。
坂田には許可を得てあるので公開するが、結論とすれば、 妻は浮気をしていたわけではなく、むしろ夫に尽くそうとのけなげな思いから、 風俗勤務をしていた。多少足りないところがあった坂田妻であったが、 坂田が余りにも忙しいのを見るのにつれ、二人だけの生活を作れるように、 と坂田の奥さんなりに考えた風俗勤務だった。調査の過程で坂田の妻本人を 問い詰めたところ、
「おカネを貯めて、夫婦水入らずの生活を送りたいんです。夫が忙しすぎて・・」
と私に話したのが印象的だった。
その後、坂田の自殺未遂や坂田妻の病死など、不運が続いたが、この調査にはもう一つのドラマが進行していた。
そう、一緒に調査をしていた桜木が恋に落ちたのだ。 相手は坂田妻と同じ店で働いていた風俗嬢の奈美という女。 坂田の妻に接触する前、予備調査の際に接触した・・・ というかそこで最初に肉体関係をもってしまったのが原因である。
風俗店は、当然、本番行為を禁じてはいたが、なぜか始めてのヘルスで 本番まで至った。風俗嬢の好意によるものか、それとも桜木の巧みな話術によるものか、私は野暮なことは聞いていない。当時の私は、
「調査が成功さえすれば、法を犯さない限りやり方は問わない」
と公言しており、調査員(探偵)たちが自らの機転で探偵としてのスキルを学ぶよう指導もしていた。
桜木には彼女がいたわけだが、やがて桜木は 奈美の家に入り浸るようになった。 若い桜木の事、心境に変化でもあったのだろうと思い、 仕事には何ら影響がなかったので私は何も言わなかったが、 飲みに言った時に桜木の方から私にこう言って来た。
「代表(私のこと)、あの看護婦の彼女、私が潜入した風俗店で働いていたんです よ。待合室に写真があったときには腰が抜けました。。。 それでやけになり調査中に奈美を口説いてしまいました。 後日問い詰めると、『将来のために貯金していた』、 と本人は言ってました。事実預金通帳にもかなりの額が入っていたのですが、 割り切れなくて別れちゃいました。探偵じゃなければ、気がつかず幸せに結婚してたかもしれません。探偵って因果な商売ですよ。」
そう言ってウオッカを流し込む。
探偵業とは因果な商売だ。 − 人の動静を密かに調べ上げ、報告する − 時には自分がストーカーに会うこともあるし、危険なこともある。
桜木はやがて,風俗嬢の奈美とも別れたが,別の依頼者だった 貿易会社社長に気に入られ,探偵を辞めて婿入りした。今は後を継ぎ,社長に。
人生,どこでチャンスが落ちているか分からないものだ。
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