* 世界一ついてない日常
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2004年12月06日(月) 冬の風物詩

橙色がつやつやと美しい。
皮をむくまで生きている、と聞いたことがある。
さわると、ひんやりしている。
確かにそこに息づいている、何かの生き物のようで、
オレンジのような作り物めいた蝋っぽさはない。
へその少し横、軽く指の爪を立てる。
皮をむくと、真綿にも似たふかふかの白。
甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。
半分むいただけで、待ちきれずに、
しっとりみずみずしい房を、つぶさぬようにひとつ抓んで、
注意深くはがす。
白い筋がついてくるが、構わず、口に放り込む。
ふやっとつぶれて甘さが、一瞬遅れてすっぱさが満ちる。
それが終わらぬまま、二房目をはがす。
今度は白い筋をきれいにとってしまう。
薄膜に包まれたそれは、今口中にあるその味の、結晶だ。
そのまま食べてもよかったが、ふと思いついて、薄膜をはがす。
思った以上に鮮やかな色。
つやつやと光を受けて、一粒ずつが輝いている。
そっと舌に載せる。
粒々とくすぐったい感触だ。甘い。
しばらく舌の上で温めていると、じわじわと舌の横から
すっぱさがこみ上げる。
つぶす。なまぬるい甘さが広がる。
今度は薄皮がない分、するりと喉に通った。
気持ちは二房で満足している。手元にはまだ半分以上残っている。
それほど食べたいとも思わないが、後に残しておくほどのものでもない。
あとは惰性で食べてしまう。
橙色の皮が残る。
一瞬ためらったのち、ゴミ箱に投げる。
ぼすっと軽い重さの音がして、
私と有田みかんとの甘美なひとときは終わった。


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