橙色がつやつやと美しい。 皮をむくまで生きている、と聞いたことがある。 さわると、ひんやりしている。 確かにそこに息づいている、何かの生き物のようで、 オレンジのような作り物めいた蝋っぽさはない。 へその少し横、軽く指の爪を立てる。 皮をむくと、真綿にも似たふかふかの白。 甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。 半分むいただけで、待ちきれずに、 しっとりみずみずしい房を、つぶさぬようにひとつ抓んで、 注意深くはがす。 白い筋がついてくるが、構わず、口に放り込む。 ふやっとつぶれて甘さが、一瞬遅れてすっぱさが満ちる。 それが終わらぬまま、二房目をはがす。 今度は白い筋をきれいにとってしまう。 薄膜に包まれたそれは、今口中にあるその味の、結晶だ。 そのまま食べてもよかったが、ふと思いついて、薄膜をはがす。 思った以上に鮮やかな色。 つやつやと光を受けて、一粒ずつが輝いている。 そっと舌に載せる。 粒々とくすぐったい感触だ。甘い。 しばらく舌の上で温めていると、じわじわと舌の横から すっぱさがこみ上げる。 つぶす。なまぬるい甘さが広がる。 今度は薄皮がない分、するりと喉に通った。 気持ちは二房で満足している。手元にはまだ半分以上残っている。 それほど食べたいとも思わないが、後に残しておくほどのものでもない。 あとは惰性で食べてしまう。 橙色の皮が残る。 一瞬ためらったのち、ゴミ箱に投げる。 ぼすっと軽い重さの音がして、 私と有田みかんとの甘美なひとときは終わった。
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