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2011年06月14日(火) ■ |
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悩みに悩んで、最後にパッと浮かんだ結論が、「ああ、これはもう一回エヴァンゲリオンをやるしかないんだな」というものでした。 |
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『40歳の教科書NEXT』(モーニング編集部&朝日新聞社[編])より。
(各界の著名人に「40歳」という年齢をどう乗り越えていくべきか?について、さまざまなテーマで聞いたインタビュー集より。映画監督・プロデューサーである庵野秀明さんの回の一部です)
【『エヴァンゲリオン』については思い入れも強かったし、テレビ版の制作当初から「これは自分の最高傑作になる」という予感がありました。ほかの作品と比べてどうというよりも、一試合完全燃焼としてこれができれば、もう作家として十分じゃないかと思っていました。 そしてありがたいことに予想以上の評価や反響があり、客観的には大成功だったと思うのですが、そこから先がたいへんでした。 『エヴァンゲリオン』の評価が高まるほど、周囲は「次もエヴァっぽい作品を」と期待してきます。そして実際、世の中には「エヴァっぽい作品」が溢れるようになる。 でも、そうやって周りがエヴァに傾いていくほど、僕はエヴァから離れたくなるんですよ。作家として同じテーマや手法をくり返すのも嫌だし、もっと別のものにチャレンジしたくなるわけです。 それで実写映画(『ラブ&ポップ』『式日』など)を監督したり、ほかの企画もやってみたりするんですけど、どうも呪縛から解かれていないし、新しい企画も作品として形にできない。エヴァを否定しようとすればするほど、自分の中でエヴァが顕在化してくる。 考えてみれば、当然の話でした。 当時の僕がやろうとしていたのは、ただ「エヴァじゃない」というだけの作品で、むしろ、ひたすらエヴァを否定することで、逆にエヴァの呪縛に囚われていたんです。 また、当時の苦しさは、アニメ業界の閉鎖性に幻滅していたことも大きかったと思います。このままアニメ業界の閉じた世界にいても、新しいものは何も流れてこない。新鮮な水がいっさい流れない、狭くてよどんだ沼にいる魚になったかのような感覚です。いまにも窒息しそうで、とにかく外に出て新鮮な空気が吸いたかった。 それでほかのジャンルの方々と接したり、自分にとって未知の分野に足を踏み入れたりしてみたのですが、結局、どこに行っても閉塞感はあるんですよ。アニメ業界ほどではないにせよ、それぞれ閉じた世界になっている。故郷の山口から大阪の大学に出たとき、そして東京へと出て行ったときと同じ感覚でした。場所が変わったところで、自分の感じる息苦しさは同じなんだなって。 苦しかったですよ。この地獄からどう抜け出せばいいのか。どうすれば自分はエヴァの呪縛から逃れることができるのか。 悩みに悩んで、最後にパッと浮かんだ結論が、「ああ、これはもう一回エヴァンゲリオンをやるしかないんだな」というものでした。もう一度、ゼロから出なおして再構築すれば、さすがに決着がつくだろうと。いま制作している『エヴァンゲリオン』の「新劇場版」は、そんなこともあって始めたんです。 なんだか、迷いも気負いもなかったですね。さっさと終わらせて次に行こう、というくらいに考えていました。】
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とはいえ、やりはじめてしまったら、「さっさと終わらせて次に行く」というわけにもなかなかいかず、「新劇場版」は、当初の予定よりも、制作がだいぶ遅れてしまってはいるようです。 まあ、いいかげんなものをさっさと作られるよりは、時間をかけて納得が行く作品となることを、庵野さんだけでなく、多くの観客も望んではいると思うのですが。
この庵野秀明さんの話を読んでいると、庵野さんの代表作であり、大きな名声をもたらした『エヴァンゲリオン』は、それゆえに、その後の人生を大きく変えてしまったのだということがよくわかります。 僕は庵野さんが『ラブ&ポップ』とか『式日』なんて映画をつくったという話を聞いて、後日、その映画を観て、「ちょっと有名になったからって、ネームバリューを利用して、しょうもない作品で遊んでばかりだな……」なんて思っていたんですよね。 たしかに、これらの実写映画は、「『エヴァンゲリオン』の庵野秀明」でなければ、商業作品として制作されることはなかったように思われますし。 ところが、庵野さんにとっては、とにかく、『エヴァンゲリオンの呪縛』から逃れるために、これらの新しい世界を模索していたわけです。
【当時の僕がやろうとしていたのは、ただ「エヴァじゃない」というだけの作品で、むしろ、ひたすらエヴァを否定することで、逆にエヴァの呪縛に囚われていたんです。】
というのは、いま、その「呪縛」を乗り越えつつある庵野さんだから、ようやく見えてきた当時の姿で、その当時は、とにかく試行錯誤の連続だったのでしょう。 とにかく、自分の最高傑作とは違うものをつくらなければならない、というのは、本当につらかったのではないかなあ。 「あの『エヴァ』を作った人が、迷走してしょうもない作品ばかりをつくっている」という「世間の声」も、当然、耳には入っていたでしょうから。
そして、「アニメ業界の閉鎖性」についての言葉は、身につまされます。 結局みんな、いつも「自分の業界」は実像以上に「閉鎖的」だと思い込んでしまいがちで、外に出ては失望することの繰り返しなのかもしれませんね。
これを読んで、「世間に評価された作品をつくった人」も、それはそれで大変なんだなあ、と思いましたし、庵野さんが『エヴァンゲリオン新劇場版』の後、どこに向かうのかが、楽しみになってきました。
まさか、また一周して、『新々劇場版』なんてことはないよね……
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