|
|
2009年05月17日(日) ■ |
|
「なぜだ? おまえは自分の評価をしすぎるよ」 |
|
『NHK「トップランナー」仕事がもっと面白くなる「プロ論」30』 (NHKトップランナー制作班著・知的生きかた文庫(三笠書房)) より。
(NHKのインタビュー番組『トップランナー』のダイジェストを文庫化したものです。映画監督・行定勲さんの回から。「」内は行定さんの発言です)
【行定勲は1968年8月3日、熊本県生まれ。郷里の高校を出て上京し、テレビ映像の専門学校に入った。初めて現場を見たのは、堤幸彦が撮っていた本田美奈子のプロモーションビデオの撮影だった。そのとき、堤に手伝わせてもらえないかと頼んだところ、運転免許証を持っているかどうか聞かれ、「ある」と答えると、次の日から制作部の車両部になり、機材を運ぶ車の運転手になった。そして、ある制作会社に寝泊まりしながら仕事を覚えていく。
「最初に現場を見たときはわけがわからなくて、何もできませんでした。車だけ運転していればいいと思って、しばらくその仕事だけをしていたのですが、頭でっかちだったので、とにかく早くわかるようにならなければならないと思っていましたね。ついていけないと思ってその会社はやめて。専門学校に戻りドラマのほうの仕事をやらせてもらえるように頼んだら、運よくやらせてもらえたんです。最初は演技のスタートのきっかけの合図を出すような小さな仕事からやらせてもらったのですが、合図ひとつでも、今度は緊張してうまくできなかった。そのときは自分の能力のなさを思いました。 自分の能力に絶望して、チーフプロデューサーに向いていないのでやめたいと伝えると、「なぜだ? おまえは自分の評価をしすぎるよ」と言われました。「評価が他人がするものだ。俺はお前をやめさせるような評価はしていない。続けろ」と言われたのです。そのことを言われて続けたから、今の僕がいるのだと思います。いまだにその人には感謝しています。今ではスタッフのひとりがそうやって僕のところにきたときは、同じことを言っていますよ。 映画の評価も同じで、放っておいても、他人が評価してくれます。それが怖いならやめることです。評価を自分でしていても発表なんてできないし、作れなくなるんですよね。だからこれはすべての創作において通じる言葉だと思います」】
〜〜〜〜〜〜〜
行定勲監督は、1997年に『OPEN HOUSE』で監督デビュー、2001年に『GO』で日本アカデミー賞などの数々の賞を獲得、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)などのヒット作もあります。 僕の個人的な印象としては、けっこう当たり外れが大きい監督さんではあるのですが、この話にはとても考えさせられました。 日本アカデミー賞を獲るような監督になる人でも、最初は「合図ひとつも出せない」ものなんですね。いや、「誰でも最初はそんなもの」なんだよなあ。
僕がこの話のなかでもっとも印象に残ったのは、チーフプロデューサーの「おまえは自分の評価をしすぎるよ」という言葉でした。 僕も「この仕事は自分に向いていないんじゃないか……」と働きはじめたときには悩みましたし、いまでもそう感じることってあるのです。そう言いながらも、10年以上仕事を続けてきたのですが、毎年入ってくる新人たちも、みんな同じように「自分はこの仕事に向いていないんじゃないか……」と悩んでいるんですよね。先輩としてみると、「新人なんだから、できないのが当たり前」のことなのに。 逆に「自分は向いていると信じ込んでいる人」のほうが、傍からみていると、かえって危なっかしく感じたりもするのです。
もちろん、「精神的にもたない」とか「仕事がイヤでイヤでしょうがない」という場合には仕方ないと思うのですが、仕事をはじめたばかりの人では、「仕事がうまくできない」のがむしろ当たり前。 そういうときには、周りの意見を聞いてみるべきなんですよね、恥ずかしいけど。
「自分で自分の評価をしすぎる」ために、何もできなくなってしまっている人というのは、けっこう多いような気がします。 何かをやろうという場合には、あまり「自己評価」を信じすぎないほうが良いのかもしれませんね。最終的には、イヤでも他人が評価してくれるわけですし。
|
|