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2009年03月13日(金)
ホリエモンが「フジテレビを買収して実行したかった、たったひとつのこと」

『徹底抗戦』(堀江貴文著・集英社)より。

(「ホリエモン」こと堀江貴文元社長が「ライブドア事件の真相」を語ったという本の一部です。ニッポン放送買収について)

【私はニッポン放送の社内をどうにかしようとも思っていなかったし、リストラをするつもりも全くなかった。実際、ライブドアがこれまでに買収した会社でリストラを行ったことはない。それは当時も言っていたが、マスコミにはスルーされていた。
 そもそもニッポン放送のことはフジテレビの持株会社としてしか見ておらず、ニッポン放送の事業そのものにはあまり関心はなかった。もちろんネット事業とシナジーがある部分は積極的に仕掛けていくし、経費など共通化できるものは共通化したいと思っていたが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
 とはいうものの、フジテレビ側の拒否反応は、凄いものがあった。
 私としては、全く悪気がなかったのだけれど、フジテレビ側は「とんでもないことをしでかしてくれた」と思ったようで、早速私が出演していたフジテレビの番組は放送中止になってしまった。私は正直「参ったな〜」という感じだったのだが、始まってしまったものはしょうがない。最後まで頑張ることにした。
 繰り返すが、こちらとしてはニッポン放送やらフジテレビやらにドカドカ乗り込んでいって、やれリストラだ、などとやるつもりは全くなかった。だけど向こうはそうは思っていない。狙いがフジテレビのコンテンツだとか、全くピントのずれた見解を示されたりもしたので、困ってしまった。
 実を言うと、テレビ放送にライブドアのURLを貼り付けるのが、私がしたかった唯一のこと。なのに、そのことを伝えると「え? そんなこと?」という風で完全に相手にされなかった。「あいつは裏の野望を隠している」みたいな穿った見方をされた。ネット業界の人もその本質をわかっている人は少なかった。
 さらに、コンサルタントの大前研一さんなんかも、私のやりたいことを勘違いされていたらしく、
「ポータルサイトは複数媒体のコンテンツを並列に出せるのがメリットで、ひとつの放送局に偏るのは間違いだ」
 というような全く本質を突いていない見解を堂々とコラムに出されたりしていて、
「まったくしょーがねーなー」と思ってしまったのだった。
 そもそもライブドアのポータルサイトのページビューが「ヤフージャパン」に大きく離されているのだから、そのページビューを増やすために放送の圧倒的なリーチを使うというこんなシンプルな発想が、なぜ、みんな理解できないのか。そのことが、理解できなかった。】

〜〜〜〜〜〜〜

 堀江さん自身の言葉ではありますが、これを読んだあとも、「当時も本当に画面にライブドアのURLを貼るだけでいいと思っていたのだろうか?」とは感じてしまうんですよね。

 あのときのライブドアの「ニッポン放送買収劇」はニッポン放送・フジテレビ自身をはじめとして他局や他媒体を巻き込んでの大騒ぎになりました。僕が記憶しているところでは、「オールナイトニッポン」などでおなじみのニッポン放送の有名パーソナリティたちが「ライブドアがニッポン放送を買ったら、もう出演しない!」というメッセージを出していましたし。
 この堀江さんの話を読むと「悪気はない」のだろうけど、ここまで「ニッポン放送の事業そのものにはあまり関心はない」と言われてしまうと、そんな人に買われたくはないだろうなあ、という気もします。
 「お前らはフジテレビへの足がかりでしかないから」って明言している堀江さんですが、それってニッポン放送に対しては「逆効果」だったのではないかなあ。これでは、ニッポン放送は、何かあったらすぐ見捨てられそうですよね。
 余計なお世話ながら、「表向きだけでも、『新しいニッポン放送をつくってみせる!』とか言っておけばいいのに……」と思ってしまうのですが、そういう嘘がつけないところがまた、堀江さんらしいといえばらしいのかも。

 僕がこの「ライブドアのニッポン放送買収、フジテレビを傘下に」というニュースを聞いたとき、ホリエモンは、あのFOXテレビを擁するメディア王、ルパート・マードックを目指しているのではないか、と考えました。
 「アメリカで最も人気があるテレビネットワーク」であるのと同時に、「タカ派の偏った報道で世論を動かしている」FOXテレビ。
 そんなのが日本にできたらたまらんなあ……と恐れていたんですけどね。

 堀江元社長は、「実を言うと、テレビ放送にライブドアのURLを貼り付けるのが、私がしたかった唯一のこと」だとこの本のなかで仰っておられます。
 もちろん、本当に「支配」したら、それだけでは飽き足らず、FOXみたいになっていったのかもしれませんが。
 
 最初にこれを読んだとき、言い方は悪いのですが、「そんなチンケなことしか考えてなかったの?」と僕は拍子抜けしたのです。
 でも、「テレビの画面にずっとURLが表示されている」というのは、たしかに「ライブドアのポータルサイトを宣伝するには、いちばんの近道」ではあるでしょう。
 なんのかんの言っても、「テレビ」の影響力はまだまだ大きいのです。
 ラジオでは、「(人気の高い)オバケ番組」と言われている伊集院光さんの番組でさえ聴取率1%。新聞は部数のわりに広告を読んでいる人は少ないでしょうし(宮沢りえのヌード写真集の宣伝とかなら別として)、若者たちへの影響力は小さい。「テレビ」の場合、視聴率1桁の「不人気ドラマ」が話題になりますが、5%でも、「ラジオのオバケ番組の5倍」です。田舎なら、深夜番組や教育番組でも、テレビに出ればちょっとした有名人。

 やっぱり、「テレビの画面にライブドアのURLがずっと貼られている」というのは、かなりの影響力があるはずです。あの「アナログ」が見たくもないのにいつも目に入ってくるのと同じで。

 ただ、これが「ライブドアの宣伝のためには最良の方法」であっても、それ以上の「野心」を持たない、あるいは持てないところが、堀江さんの善いところでもあり、「限界」だったのかな、とも僕は感じるのですけれど。