初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2008年10月22日(水)
一流セールスマンの「お客に信頼されるための会話術」

『営業と詐欺のあいだ』(坂口孝則著・幻冬舎新書)より。

【信頼を形成するために、セールスマンがお客について知るべきことは三つです。

・「お客の属性」……どんな組織に属する、どんな立場の人か
・「お客のセンス」……どんな能力・才能・趣味・タイプの人か
・「お客の敵」……どんな人間関係を持った人か

 この三つを、自分は知っている、分かっている、と思わせればお客と信頼関係を形成することができます。「お客の属性」は当然として、「お客のセンス」と「お客の敵」については説明が必要でしょう。

 他人のセンスなどというものを、どうやって知るのか。私は、「この人は分かってくれているな」とお客に思い込ませればよい、と言いました。では、どうやって思い込ませるのか。
 早い話が、その人を褒めるのです。
 想像してみてください。あなたがどこかのブランド時計の新製品を腕につけていたとします。どちらのセールスマンに好印象を抱くでしょうか。

 一人目「その時計のデザインはカッコいいですね」
 二人目「その時計を選ぶなんてセンスいいですね」

 間違いなく後者でしょう。
 前者が対象物を褒めているのに対して、後者はその人自身を褒めているからです。その時計は良い、だけどもっと良いのは、それを選んだあなただ。そう後者は言っているからです。
 誰も分かっていないかもしれないけれど、私はあなたのことを分かっていますよ。そういうメッセージを暗に示しているのです。
 人間は自分の内なるセンスや才能が、世の中に正当に評価されていないという感覚を常に持っています。だから、それを評価してあげるのです。
 私の知り合いのセールスマンは、商談の時に相手が机に置いたものを褒めることから始めるといいます。机にわざわざ置いたものは、その人が大切にしているということの表れなので、「これって新商品ですよね」とか「これって××というブランドのやつでしょう」とか言って「こだわる人はこういう人を選択なさるんですよね」と付け加えるのだとか。これだけでその後の会話がまったく違うのだそうです。
 小売業のバイヤーから聞いた話です。商品にはどうしても一定の割合で不良品が混じってしまい、「せっかく買ったのに使えないじゃないか」とお叱りを受けるようです。数年前、返品にやってきたお客が新作のスウォッチをつけていたので、クレームを聞き終わったあとにその気づきを伝えると、怒りがウソのように静まり、むしろ他の商品を買って帰ってくれたとか。
 この派生として、「ここだけの話」というのがあります。話す相手を限定している=あなたは話す価値がある、というセリフは掌握術の一つとして昔から使われてきました。
「頼りにしているのはお前だけだよ」「理解してくれるのは君くらいだよ」という言葉も相手の仕事のセンスを認めているという意味で、非常に有効な言葉なのです。
 あなたもテレビで有名人の売れなかった時代の貧乏物語を見たことがあるでしょう。世間に受け入れられなかったお笑い芸人や歌手。そのときに必ずその人を支えてくれる恋人がいるものです。彼・彼女は何と言いますか?
「あなたは絶対才能があると思う。私だけは分かっている」】

〜〜〜〜〜〜〜

 これを読みながら、僕は「こんなミエミエの『お世辞』に騙されるヤツなんて、そんなにいるわけないだろ……」と思ったのですけど、実際はこういう一工夫があるかどうかで、その後の相手の態度はかなり違ってくるそうです。
 それだったら、いっそのこと「うわーなんてカッコいい人なんだ、福山雅治も裸足で逃げ出しますよ!」くらいのことを言ったらすごい効果ではないかとも想像してみるのですが、そういう「目に見えて、自分でも客観的に評価できること」だと、かえって逆効果なのでしょう。
 そういう意味では「その時計を選ぶなんて、あなたのセンスはすばらしい」っていうのは、まさに「ちょうどいい褒め言葉」のように思われます。
 「センス」っていうのは可視化・数値化できるようなものじゃないし、「これってセンス悪いなあ……」と自認しているモノをわざわざ買う人はいないはずなので、「他人から褒められて悪い気はしない」ですよね。

 誰かの信頼を得ようとするとき、「相手を褒める」なんていうのは、「おべっか使い」のやることだし、そんなヤツはかえって信頼できない、と僕も思うのですが、「机の上に置いてあるフィギュア」とか「棚に並んでいる本」を見て、さりげなく「これに目をつけるなんていい趣味だなあ」とか、「この本を読んでたなんて勉強家なんですね」とか言われたら、たしかにちょっと親近感を抱きそう。
 大人って「誰かに褒められる」って機会はほとんどないので、基本的に「褒められることに飢えている」のかもしれません。

 「買い手の側」からすれば、「こういう態度を自分にとってくる人は、(それが善意によるものか悪意によるものかはさておき)自分に近づきたい、信頼を得たいと考えている」ということです。
 「あなたは絶対才能があると思う。私だけは分かっている」
 そう言って近づいてくる人は、ものすごく「あなた」のことが好きなのか、自分の利益のために「あなた」の信頼を得ようとしているのかのどちらかなんですよね。
 本当は、「私だけにしかわからないくらいの才能」では、芸能界で成功するのは難しいはずなんですけど。

 とりあえずこの話、「他人とのコミュニケーションのきっかけに迷っている人」にとって、けっこう役に立つのではないかと思います。

 モノだけを褒めるくらいなら、まず、「それを選んだ人のセンス」を褒めてみるべし。
 少なくとも、「いい趣味してますね」って言われて、「これがいい趣味なはずないだろ、この大嘘つき!」って言い返す人は、あまりいないでしょうから、試してみる価値はありそうです。