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2008年08月03日(日)
空港の出発ロビーが到着ロビーよりも上にある理由

『お父さんのためのゲーム企画講座』(斉藤由多加著・デジトイズ出版局)より(この本はニンテンドーDSの『ザ・タワー DS』の購入特典として企画制作された非売品のオリジナル書籍です)。

【かつて挫折し、いま再着手している企画に、「空港」があります。
 そもそもこの企画を着想したのは、10年以上前のこと、グアムの空港で入国審査をまっているときです。
「グアムは東京から3時間半。飛行機がお好きな方はハワイへどうそ」といいう見事な広告に載せられて家族とグアムにいったことがあります。3時間半で到着したにもかかわらず、入国審査ゲートが整備されてなかったせいで、到着してから2時間も待たされたときのことです。
「待たせない空港にするにはどうすればいいか――?」とひたすら行列の中で考えたわけです。

(中略)

 さてグアム空港での体験から、「混雑しない空港」とはどういう構造をしていればいいのか、それが着想の原点です。そして、プレイヤーがそれをつくれる場を提供しよう、それがこの「空港ゲーム」のコンセプトです。
 ですから、このゲームの基本構造は「人を待たせない空港は、そのグレードが上がってゆく」というものです。

(中略)

 空港にはどんな要素があるのか、私は書き出してみることにします。
 ここでは、空港の待ち時間に影響するもの、という基準で書き出してゆく必要があります。

(中略)

どこの空港も、なぜか出発ロビーは到着ロビーよりも上にある……。

 なぜでしょうか?
 この答えのヒントは預け荷物のルートにあります。
 空港の要素で決して忘れてはならないのが預け荷物です。
 前にリストアップした空港のアップした空港の要素に、この重要な要素がまったく入っていないことに私は気づきました。これはそれまで私が表面的な空港しか見ていなかった、という事実の表れです。
 預け荷物というのは、一度カウンターで預けたら、到着するまで乗客と接することはありません。
 では荷物はどうやって振り分けられるのでしょうか?
 荷物につけられたバーコード札? そんな機械式の読み取り方法で大小すべての荷物が間違いなく無事に届くと思いますか?
 あるいは、空港の中のどこのルートを辿って同じ飛行機に乗せられるのでしょうか?
 こうやって、新たな素朴な疑問はゲームのヒントへと向かい始めるのです。
 その答えは必ずあります。なにせ日々実際に運営されているのですから。
 この答えをずらずらと書くことはここでは割愛します。文章で書くにはとても複雑ですから。
 ただ冒頭のロビー階の答えだけはお教えしておきましょう。
 荷物をのせたコンベアーが移動する向きは、常に下向きのほうが安全面で確実性が高いからです。だから出発ロビーは上にある。荷物をのせたコンベアーは下りながら機体までたどり着くのです。】

〜〜〜〜〜〜

 『ザ・タワー』『シーマン』などのオリジナリティあふれるゲームの作者である斎藤さん、次の作品は「空港」を題材にしたものになるようです。
 ゲーム作家というのは、どんなきっかけで新しいゲームのアイディアを思いつくのだろう、と僕は疑問だったのですが、この文章を読んでみると、彼らにとってのきっかけは、「特別な体験」ではなくて、日常生活のなかのちょっとしたインスピレーションのようです。

 言われてみれば、僕の知る限り、世界中のある程度大きな空港はどこでも、「出発ロビーは到着ロビーよりも上にある」のです。でも、それを「なぜだろう?」と考える人は、そんなに多くはないはずです。案内表示に従って荷物を預けて手荷物審査を受け、飛行機に乗るだけ。あまりに当たり前のことになりすぎていて、そこに疑問を感じるのはなかなか難しい。
 その「理由」にしても、「言われてみれば、それが合理的」ですよね。「荷物をのせたコンベアーが移動する向きは、常に下向きのほうが安全面で確実性が高い」というのはよくわかります。しかしながら、こういう「理由」を問われたときって、ついつい、「人間」のことばかりあれこれ考えてしまって、「荷物」のことは頭に浮かんでこないものです。

 こういう「日頃当たり前だと思っていること」に疑問を持つトレーニングをして、その理由を突き詰めていくのが、新しいアイディアを生み出すための秘訣なんですね。アイディアが出ないのは、「環境」のせいではなくて、「ものの見方」の違いなんだよなあ……