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2007年12月29日(土)
「うずくまって泣きました」で激売れした本

『本の雑誌・増刊〜おすすめ文庫王国2007年度版』(本の雑誌社)より。

(「都内大型書店×2 対談◆文庫売れ筋ランキング Best 100 06→07」の一部です。対談されているのは、Jさん(ジュンク堂書店池袋本店)とMさん(丸善お茶の水店)のお二人)

【J:ひとつ悔しかったのはこれ。26位『生きる力がつく「孤独力」』。

M:何でですか?

J:これね、最近なんか売りたいと思って、ちびちび目立つところに置いてたんですよ。そしたら丸善さんでこんな上位にいる。そうか、すでにこんな売れている本だったんだって。

M:これは営業さんの力ですよ。お店に合いますよって提案されて、それで置いてみたら売れちゃった。

J:そうなんですか。実は僕もいま営業さんに言われて仕掛けている『モルヒネ』がそんな感じです。あれ? もしかして『モルヒネ』の帯にあるMさんって、Mさんですか。あっ、そうなんや。これ激売れしてます。ありがとうございます(笑)。

M:売れましたねえ。読んで面白かったし、これは売れるんじゃないかって、POP立てたんです。「うずくまって泣きました」って。そうしたらバーンと売れちゃった。

J:ああいうPOPって、迷います? 何種類か書きます?

M:一つのタイトルに一種類しか書かないですね。ただ1、2ヵ月経って古くさくなってくると、ちょっと書くとこ変えようかなって、書き換えることはあります。

J:POP立てて、失敗したものってあります?

M:ありますよ(笑)。

J:あるんだ。よかった(笑)。

M:やっぱりいろいろ書いてみて、反応見て。『煩悩カフェ』だって、普通に並べても売れないですからね。

J:あとPOPでこれ書いたら恥ずかしいってありませんか。

M:あります。「うずくまって泣きました」だって恥ずかしかったですよ。周りの人間にウソつくなとか言われましたもん(笑)。

J:ああいうの書かれへんなあ。一皮剥けないと。そもそも好きな本をみんなに薦めたいっていう気持ちがあんまりなくて、ただ買いに来たお客様が間違いなく見つけられればいいと思っているんですよ。

M:でも訊かれたりしないですか。うちなんか病院が近いんで、入院患者さんやお見舞いの人に何かない?って訊かれることが多くて。

J:ああ、ありますね。あれって困りますよね。

M:困りますよ。とりあえず主人公は死んじゃいけない。でも結局、死ぬの多いんですよ。

J:何かお薦めあります? 教えてください(笑)。

M:ええっと、まあ、これも死んじゃうんですけど『流星ワゴン』は、面白いからいつもお薦めしてますね。

J:やっぱり趣味が出るなぁ。僕、宇野千代が大好きなんです。だから何を訊かれても宇野千代。

M:それじゃあ来年はベスト100に宇野千代を。

J:そんな店、嫌ですよ(笑)。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕も『モルヒネ』の「うずくまって泣きました」という帯の言葉をはじめて見たときには、「いくらなんでもそんなヤツはいないだろ……」と心の中でツッコミを入れてしまいました。いやそもそも、「うずくまって泣く」なんてシチュエーション、人生でそんなに何度もあるとは思えませんし。
 しかしながら、確かにこれはインパクトがあるキャッチコピーだったのは事実で、『モルヒネ』という作品が売れる要因のひとつとなり、あの『世界の中心で、愛をさけぶ』の【泣きながら一気に読みました――柴咲コウ】と並ぶ、「名キャッチコピー」であったことは間違いなさそうです。

 でも、確かに書店員さんにとっては、こういう言葉をPOPに書くのはけっこう恥ずかしいのではないか、という気もします。
 僕も書店で気になったPOPを見つけるとついつい通りがかりの店員さんの名札をチラッと確認してしまいますし。Mさんも、うずくまって泣いたのは、この人?というような視線をけっこう浴びたのではないでしょうか。それでもやっぱり、自分が気に入った本を「売りたい」「読んでもらいたい」のが書店員の性なのかなあ。本当に、作家たちは彼らに足を向けて寝られませんね。

 そして、「お薦めの本」を聞かれたりすることもよくあるようで、「相手がどんな人で、どんな状況にあるのかわからない」にもかかわらず、何か本を薦めるというのはけっこう辛いものがありそうです。
 癌で闘病している女性にリリー・フランキーさんの『東京タワー』はちょっとまずいでしょうけど、世間に溢れている「感動小説」の大部分は、【でも結局、死ぬの多い】ですしね。
 ……って、Mさんも「死んじゃう話」を薦めているみたいですけど。