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2007年07月06日(金) ■ |
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「司馬遼太郎の『龍馬がゆく』は、誤読されている!」 |
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『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)の'07/7/16号の対談記事「帝王降臨。 倉科遼VS.輝咲翔」より。
(倉科遼さんは、『女帝』や『夜王』などの作品で有名なマンガ原作者、輝咲翔さんは、ビッグコミックスピリッツ連載中の『帝王』というマンガのモデルとなった、13店のキャバクラを経営する青年実業家です)
【倉科遼「彼(輝咲翔さん)は、すごく普通の人間でしょう。偉ぶらないし、ギラギラもしてないし。そういう意味では、彼とぼくの生き方は似てますよ。ぼくもそういうタイプなんです。ぼくも『マンガ界で一発当てて、ビッグになるぞ!』とか、一度も思ったことがない(笑)。そのかわり目の前の仕事は一生懸命やってきたつもりです。みんなが遊んでいるときにも仕事をして」
輝咲翔「でも、それが苦痛じゃないんですよね」
倉科「そう! 初対面のときから輝咲さんと波長が合ったのは、こういうふうに似ているところが多かったからだと思いますよ」
輝咲「たぶん感性が一緒なんでしょうね」
倉科「いままでの成功者と違うから、描写の仕方も変えなきゃいけない。いままでの成功者の伝記にありがちな≪この男は、若い頃からどこかが違っていた≫みたいな司馬(遼太郎)先生の劣化コピーのような描き方はしたくなかったんですよ。しかもね、そんなの、たいていが嘘ですから(笑)。だって自分が子供の頃を振り返ってみても、まわりに神童なんていなかったでしょう。成功すると、あとからそういうふうに描いてもらえるんです(笑)。そもそも司馬先生の『龍馬がゆく』自体、世間では誤読されてると思うんですよね」
司会者「えー、間違ってますか!?」
倉科「少年時代の坂本龍馬なんて、どう考えても、ただの金持ちのボンボンでしょう。親の持ち物をくすねて、質に入れては、友だちと遊びまわって」
司会者「勉強はしないくせに、夜這いだけはしっかりして(笑)。
倉科「親も親で、デキの悪い息子にポンと金を渡して、江戸に留学させたり、将来は地元で道場でも開かせてやるか、とか甘いことを考えたりしてる。ぼくは、あの本をそういう読み方をしちゃうんですよね」
輝咲「(ポツリと)ぼく、坂本龍馬と同じ誕生日なんですけど……」
倉科「いやいや、龍馬が後年、大事をなし遂げた、というところが輝咲さんと通じてるんです(笑)。龍馬は、とにかくまわりの人の話をきいてやって、彼らの希望をかなえるための努力を惜しまなかった。だから、龍馬の周囲には、ひとが集まってきたわけでしょう。そこが輝咲さんと一緒なんですよ」
輝咲「よかった(笑)」
倉科「だけどね、ひとに優しくするとか、信義を守るとか、実は意外に大変なことなんですよ。人間って感情の生き物だから。ぼくなんか、すぐに激昴してしまうけど(笑)、輝咲さんが声を荒げるのは見たことがない」】
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この一連の倉科遼さんの発言を読んでいると、「売れる」っていうのは、ここまで人間に過剰な自信を与えるものなのか……と、正直唖然としてしまったりもするのですが。
まあ、それはさておき、現在でも「日本の小説オールタイムベスト10」というような企画をやると必ず上位にランクされる司馬遼太郎の名作『龍馬がゆく』に対する倉科遼先生の感想はなかなか興味深いものでした。 【「少年時代の坂本龍馬なんて、どう考えても、ただの金持ちのボンボンでしょう。親の持ち物をくすねて、質に入れては、友だちと遊びまわって」 「親も親で、デキの悪い息子にポンと金を渡して、江戸に留学させたり、将来は地元で道場でも開かせてやるか、とか甘いことを考えたりしてる」】 というのは、確かにまぎれもない坂本龍馬の「少年時代」のひとつの解釈ではありますし、もし生家が経済的に恵まれていなければ、龍馬は「維新回天の英雄」となることはできなかった可能性が高いでしょう。
考えてみれば、龍馬の少年時代というのも、彼が成長して「偉人」になったからこそ「伝説化」されたわけで、全く同じような少年時代をすごしていても、大人になって劣化してしまった人というのは、けっして少なくないのではないかと思います。
例えば、『ドラえもん』のジャイアンが、大人になって偉大な政治家にでもなれば「彼は子供の頃から仲間内で圧倒的なリーダーシップを発揮し、みんなを引っ張っていた」と語られることになるでしょうし、逆に、暴力による犯罪を引き起こせば、「彼は子供の頃から粗暴で、友だちの嫌がることを平気でやっていた」と言われるはずです。 同じ人間の同じような行動も、それを描く人の「解釈」で、全然違ってくるものなのです。
僕自身は、『龍馬がゆく』は良質のエンターテインメントであり、多くの人に元気を与えた名作だと思っていますし、司馬遼太郎さんだって、物語を面白くするために、ああいう「解釈」をしていたのだと考えているんですけどね。
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