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2007年04月04日(水) ■ |
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『14歳の母』を生んだ脚本家の「取材力」 |
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「日経エンタテインメント!2007.4月号」(日経BP社)の特集記事「ヒットメーカー列伝〜時代を動かす100人」から、脚本家・井上由美子さんの項より。
【妊娠した中学生を題材にした『14歳の母』は、志田未来という若手女優抜てきのもと、マンガ原作でも、リメイクでもなく、オリジナルで描ききった。その作家魂は高い評価に値する。 「物語は私からの企画提案で、お話を先に考えてから、志田未来さんにお願いしました。ドラマはキャスティングが先に決まっていることが多いので、珍しいケースでしたね」 「骨太な筆致の社会派」と言われることが多いが、実は作品傾向がつかみづらい作家だ。自身も「コメディの三谷(幸喜)さん、ラブストーリーの北川悦吏子)さん、というトレードマークが私にはない。あえて言うなら、働くことをテーマにいろんな人間をテーマに書いていきたいタイプ」と語る。 エピソードに対する共感度が深いのが井上作品の特徴だが、それは徹底した取材に基づいているから。 「プロデューサー手配による表の取材以外に、個人的な裏の取材をしつこくします(笑)。たとえば航空会社取材だと広報の方が立ち会うから、くだけた話は聞けない。雑談ベースで話をしてくれる人を探しては、飲みに行ってコツコツとヒントをもらいます。
真実味があったらあったで、その反響も大きい。なかでも『14歳の母』は賛否両論がすさまじかったそうだ。「寝た子を起こすな、といわれたけど、”寝た子”なんていないんですよ。親が知らないだけで」。 妊娠した中学生といえば、かつてならまずは友達に相談して、そしてカンパ、という流れだったはずだが、この作品では友達の力を頼りにしなかった。それも取材から得た収穫。「妊娠したら、一番知られたくない人は誰かと聞いて回ったら友達ということが分かった。知られて仲間はずれにされたくない、人間関係を失いたくないって」。10代から高い共感を得たのは言うまでもない。】
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以前、三谷幸喜さんが、「今、注目している脚本家は?」という質問に、この井上由美子さんの名前を挙げておられました。井上さんは『14歳の母』以前にも『GOOD LUCK!!』『白い巨塔』『エンジン』『きらきらひかる』などのヒットドラマを書き続けている脚本家なのですが、御本人もおっしゃっておられるように、作品には「専門職ものが多い」という他には目立った「トレードマーク」はないんですよね。作品の知名度のわりには、井上さん自身はあまり知られていないようですし。
このインタビューを読んで、井上さんというのは、ものすごく「聞き上手」なのだろうなあ、と感じました。そして、自分の力を過信していないというか、良い作品を書くためには、骨惜しみをしない人なのだということも伝わってきました。いくら一緒に飲みに行ったところで、「じゃあ、仕事での面白いエピソードを教えてください」なんて不躾に訊ねても、そんなに簡単に「使える話」なんて聞けるはずもありません。僕だって、「『取材』なので、病院での面白いエピソードを教えてください」なんて頼まれても、守秘義務もありますし、後で問題になる可能性だってあるのですから、そう簡単にベラベラ喋ったりしないでしょう。いや、饒舌な人というのは、どの業界にもいるものなのかもしれないけれども。
この話のなかで僕が最も印象に残ったのは、井上さんが「妊娠したら、一番知られたくない人は誰かと聞いて回った」ということでした。「友達」という答えは、自分が14歳のときだったら確かにそうだろうな、と思い当たるものではあるのです。でも、大人になってしまった今、同じことを問われたら「親」や「先生」と答えてしまいそうです。もし僕が脚本家ならば、「3年B組金八先生」を観て育った影響もあり、「妊娠した14歳の女の子を助けるために、友人たちが立ち上がる感動のストーリー」を何の迷いもなく書いてしまいそうな気がします。そのほうが「ドラマチック」だろうと思い込んで。しかしながら井上さんは、そんな「大人からみた、脚本家からみた『常識』」を疑って取材をすることによって、あの『14歳の母』というドラマを書き上げたのです。そもそも、そこに疑問を持つことができるかどうか?というのが「センスの違い」なのかもしれません。
中学生に「妊娠したら、一番知られたくない人は誰?」なんて聞いて回るというのは、思いついても実行するのは大変な作業だとも思うんですけどね。僕がやったら、セクハラで捕まるかもしれない……
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