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2006年12月03日(日) ■ |
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「たった1年で戦力外通告を受けた男」の逆襲 |
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『スポーツニッポン』2005年12月1日号のコラム「OH!サッカー」(内藤博也著)より。
【今季もあと1節を残すだけとなり、Jリーグの各クラブは選手個々に対し、来季の契約を結ぶ意思があるかないかを通達する時期を迎えた。既に横浜では元日本代表の4選手らに戦力外を通告。毎年恒例とはいえ、高年俸のベテラン選手や、あるいは芽の出なかった若手選手がチーム方針の犠牲となっている。 これも、プロの世界といえば仕方ないが、サッカー界は極めて狭い。現役なら選手として、あるいは引退しても評論家として、かつてのクラブの人間と顔を合わせることもある。”クビ”を通告するフロントが目を一度も合わさなかったり、凍った空気に耐えられず、説明もそこそこに話を打ち切ろうとしたら、それこそ、遺恨も残る。通達する側、される側、どちらにとっても、つらい話し合いだが、お互い誠意を持った別れが一度でも契約を結んだ間柄としての礼儀だろう。 '01年のシーズン終了後、神戸が笠岡工高(岡山)出身のFW難波宏明をわずか1年で戦力外としたことに対し、当時、チームメイトだったカズ(三浦和良)は「高卒選手を1年で切るなんておかしい。セカンドキャリアを考えても、クラブもプロならもっと責任を持つべき」と対応に苦言を呈した。現役でいられる時間は、引退してからに比べればはるかに短い。だからこそ、雇う側の責任は大きいというのである。 その、難波は栃木SCに1年所属した後、流通経済大でサッカーを続け、先日、来季からの横浜FC入りが決まった。絶望のふちから5年を経て大舞台に戻る権利を手にした姿は、今年、戦力外通告された選手にも大きな励みとなるはず。 再びカズのチームメイトとなった彼の努力と情熱には頭が下がるばかりだが、当時の神戸がもう少し我慢していれば、また違った選手生活が送れていたかもしれない。契約の解消は常に痛みを伴うが、選手、クラブ双方にとって、少しでも発展的な別れであることを願うばかりである。】
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僕自身も野球チームの1ファンとして、「もっとドラフトでたくさんの選手をとって、競争で勝ち抜いた選手を使えばいいのに」なんて思ったりもするのですけど、このコラムを読むと、「夢を追う職業」というのは、雇う側にも雇われる側にも、大きな「リスク」と「痛み」があるのだ、ということをあらためて感じさせられます。 「高卒選手を1年でクビにするなんて!」という三浦和良選手の憤りは最もではありますが、もし本当に「この選手はサッカーの才能がなさそうだ」というクラブなりの「結論」が1年間で出てしまったら、本人の第2の人生のためにも、「見切り」は早いほうが良いのかもしれませんし。明らかにモノになりそうもない選手を「まだ若いから」ということでずっと所属させ続けても、プロスポーツの世界というのは、ごく一部の頂点を極めた選手以外にとっては、そんなに条件が良いものではないので、それなら早く「第2の人生」をスタートさるべきだという考え方もあるでしょう。若い頃の「時間」というのは、後からは取り返すことができないものですから。もっとも、「そんな選手を採用してしまった」というスカウティングの失敗というのは責められてしかるべきだとは思うのですが。 チームに予算があり、モノになる選手が限られており、プロで通用しない選手にも「人生」があるということを考えれば、やみくもに沢山選手を獲得すればいい、というものではないし、きっとフロントのなかでも現場で選手と接する立場の人は、すごく悩んで選手を「切って」いるはずです。 この難波選手のエピソードを読んで、僕はいろいろなことを考えました。 彼は、もしそのまま何年か神戸でプロ生活を続けていれば、もっと早く頭角をあらわせたのかもしれませんし、逆に、たった1年でクビにされ、その悔しさをバネに、再度プロとして横浜FCに入れるくらいに実力をつけたのかもしれません。そもそも、ここで再度Jリーガーになれたとしても、そこで通用するかどうかは、また別の次元の問題です。結果的には、「プロとしては使えない」ということも十分にありえるでしょう。 華やかにみえるプロスポーツの世界、「夢を追い続ける」「夢をあきらめない」ということばかりが賞賛されがちなのですが、さて、それが本当に正しいのかどうか?ときには、「クビにする」ということが優しさである場合もあるのではないか?「才能」を判断するには、どのくらいの期間が必要なのか?まあ、それでもプロを目指す人は後を絶たないということだけは、確かなのですけど。
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