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2006年10月10日(火) ■ |
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就職の面接で、「すごくおっぱいが大きいけど、得するの?」と聞かれたら…… |
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「週刊SPA!2006.10/10号」(扶桑社)の鴻上尚史さんのコラム「ドン・キホーテのピアス・587」より。
【ここんとこ、ワークショップっつうのをやったり、新しい劇団のオーディションをしたりしています。 ちょくちょく書いている、僕が司会の『クール・ジャパン』というNHKBS2の番組で、面接の違いについて欧米人と盛り上がったことがあります。 ドイツ人もイギリス人も、そしてアメリカ人も、就職の面接の時は、「かなり攻撃的なことを聞く」んだそうです。 ドイツ人の説明が一番過激でした。 「離婚歴なんかがあると、『どうして離婚したの?』って突っ込まれますね。会社をいっぱい変わっていると、『なにかまずいことでも起こしたの?』って言われますね」 ちょっと信じがたかったので、「それは、なんのためなの?」と、素朴に聞けば、「とにかく相手を怒らせるのが目的なんですよ。怒った時に、相手がどうふるまうか、面接官はそれが一番、見たいんです」と、教えてくれました。 セクハラまがいの質問も飛ぶそうです。 「すごくおっぱいが大きいけど、得するの?」 なんて質問です。 で、こんな失礼な質問に対して、どう反応するかを面接官は見るわけです。 「そんな質問してて、侮辱されたって訴訟問題にならないの?」と、びっくりして聞けば、「うん。よくなります」とドイツ人は普通に答えました。 イギリス人は、「一度、面接で、『どこから来たのか?』って聞かれたから、出身の地名を言ったら、そのまま、面接官はなにも言わないで、じっと僕を見るんだ。3人の面接官が、一言も言わないでじっとだよ。もう、ドキドキしてさ、なにが起こったのかと思ったよ。でも、それが面接官の狙いなんだ。黙ってじっと見られ続けるとどうするか、それがテストなんだよ」 と説明してくれました。 これ、長い間、面接を続けてきた僕が言うのもなんですが、目からウロコの画期的方法です。 普通の質問にニコニコしながら答えて、穏やかに面接を終わらせても、相手のことはほとんど分からないわけです。 マニュアルが一杯出ていますから、面接の間の何分か何十分かを演じることぐらい日本の若者の常識です。 で、そうやって入った新入社員が、危機に直面した時、意外な行動を取ります。その時、初めてみんな、「お前は、そういう奴だったのか!?」となるのです。 だから、面接官が一番知りたいのは、「パニックに陥った時に、あなたは、どうふるまうか?」です。 仕事のプレッシャーとか、対人関係のきしみとか、睡眠不足とか、仕事にはさまざまなストレスがつきもので、優秀な社員かどうかは、じつは、切れ者だとか仕事の処理がはやい、なんてことじゃなくて、ストレスにどううまく対処できるか、ということが一番なのです。 これ、部下を持っている人なら、みんな、うなづくと僕は勝手に思っています。 だって、仕事をバリバリやっても、ストレスに弱くてすぐにダウンするなら、本当の意味で戦力にならないでしょう。少々、仕事の速度が遅く、精度が低くても、タフで粘り強く仕事を続ける部下の方が、はるかに頼もしいのです。 だから、欧米の面接官が編み出した方法はすごいなと思うのです。】
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こういう「面接のときの質問」に関しては、欧米のほうが日本よりはるかに「セクハラ発言は慎むように」徹底されているのかと思っていたのですが、実際は「窮地に陥ったときの『パニック耐性』を知るために、あえてそういう質問をぶつけてみることもある」らしいです。 まあ、面接というのもいろいろな目的があって、僕の出身大学で面接官をしていた先生は、以前、「うちの大学の『面接』っていうのは通過儀礼みたいなもので、明らかに対人コミュニケーションに問題がある人を除外できればいいんだよ」と仰っていましたから、必ずしもすべてのケースで、この「攻撃的な採用面接」が必要というわけではないのかもしれません。あまりに対象の人数が多いところでは、時間もかかるし面接をする側も消耗しますから、この方法は、なかなか難しいでしょうし。
しかしながら、ここで鴻上さんが書かれている「優秀な社員の条件」は、僕にとってはパニックに陥りやすい自分自身への反省も含めて、大きく頷けるものでした。一瞬のキラメキの強さが重要な芸術家でもないかぎり、多くの「職場」では、「ストレスに強いかどうか?」というのは、本当に大事なことなのです。すごい才能があって、やる気があるときは素晴らしいアイディアをどんどん出せる人でも、締め切りが迫ると煮詰まってしまって周囲にあたりちらしてしまうとか、仕事を投げ出して逃げ、言い訳ばかりしている人では、安心して大きな仕事は任せられません。病院での仕事でも、いくら普段は患者さんに優しく接していても、キレたら悪態をつきまくるような医者では、「あいつはすぐにキレるからダメだ」と言われてしまいます。周囲にとっては「99%のがんばっている時間」ではなくて、「1%のキレている、ネガティブな時間」に対する印象のほうが、はるかに強くなりがちなのです。パイロットでも、本当に大事なのは「フライトが順調なときの仕事ぶり」ではなくて、「トラブルが起こったときに、いかに冷静に最善の対応ができるか」なんですよね。もちろん、トラブルを起こさないというのが一番なのですけど。 重要な仕事であればあるほど、「ストレスとどう付き合っていけるか?」というのは、非常に大事になってきます。「できるときは100の力だけれど、ダメなときは0になってしまう人」というのは、自分では100のほうを「実力」だと思い込んでしまっていることが多いだけに、周囲にとっては、扱いにくかったりもしますしね。 ちなみに、鴻上さんは、「おっぱいが大きいけど、得するの?」と聞かれたときの応募者のとるべき「反応」について、次のように書かれています。
【面接を受ける側は、怒ってもいいと、僕は想像します。 例えば、ドイツ式の「すごくおっぱいが大きいけど、得するの?」って言われた応募者のうち、「ふざけるな!」も「……(無視)」も不合格ですね。 「あははははっ、そんなあ」も、不合格です。 この方法だと、間違いなくストレスがたまり、仕事を続けていくことができないからです。 「御社のような立派な会社の面接官が、どうしてそんな質問をするのですか?まったく、納得できません。どうか、説明して下さい」と、怒りながら、論理的に抗議する人がいたら、即、合格ですね。 怒って席を立つのでもなく、愛想笑いで無理して受け入れるのでもなく、ちゃんと怒りの感情を持ちながら、相手とコミュニケイションしようとする人材ですから、かなり優秀な人材です。どこの会社も欲しがるでしょう。】
確かにそうなんだろうなあ、と僕も思います。実際に面接の場で臨機応変にそんな対応ができる人は、ごく少数なのだとしても。 「優秀な人材」には程遠い僕としては、一緒に働く人がこんなふうに理路整然と行動できる人ばっかりだったら、それはそれでキツイだろうなあ、という気もするんですけどね。
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