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2006年09月28日(木)
武蔵美の『裏ハチミツとクローバー』伝説!

「ユリイカ」2006年7月号(青土社)の「特集・西原理恵子」より。

(西原理恵子さんとみうらじゅんさんの対談「カルマは急に止まれない」の一部です。おふたりの共通の母校である武蔵野美術大学の話)

【みうら:武蔵美は今や『ハチミツとクローバー』ですよ。よく知んないけど(笑)。

西原:なんか、感じよくなっちゃってさ、カチンとくる(笑)。私は大学1年の頃からエロ本のカット描きをしてたから、私の『ハチクロ』なんて「エロ本描きと、バイト先のミニスカ・パブの往復」(笑)。

みうら:おれの『ハチクロ』は大学の3年で『ガロ』デビュー……したんだけど、金もらってないからまだ1回もちゃんとマンガ家デビューしてないんだよね。

(中略)

西原:『ハチクロ』ではセックスとかしてるの?(笑)

司会者:――してないです。

西原:フェラチオとかもない?

司会者:――ないです(笑)。

みうら:オレも母校のことが気になってパラパラと読んだけど、フェラチオ・シーンは残念ながら出て来なかった(笑)。青姦もなかったし、学祭のときにマリファナが回ってた話も出てなかったし、演劇部の女の子がステージで放尿した重要なシーンもなかったよ(笑)。

西原:勝手に武蔵美がモデルになっちゃっただけなのか。

みうら:武蔵美も「イメージ上がった」って言って喜んでるんじゃないの。西原さんの頃はまだ「カックン幽霊」の話ってあった?

西原:カックン幽霊?

みうら:一号館で前方を歩いている女の人の首がいきなり後ろ向きにカックーン!ってなるっていう。

西原:私のときは、「太宰犬」。玉川上水沿いを歩いている犬を「チッチッチッ……」って呼ぶと、振り返った顔が太宰治(笑)。

みうら:すぐにそれが太宰治だってわかるトコがスゴイね(笑)。太宰犬っていうんだ……。

西原:だから上水沿いを歩いて帰るときは気をつけろと。あとは、1年生は毎年必ず彫刻やらされるでしょ? それで1回「仏像」っていうテーマが出ちゃったらしいんだ。そしたらもう60何人がみんなでブッサイクな仏像を彫っちゃって、出来上がったあと家に持って帰りたくないんで、バンバカ玉川上水に投げ捨てて行った。それを地元の老人会が「仏像がこんなところに〜!」って、きちんと祀っちゃったことがあった。それが八百羅漢みたいで、もんのすごくイヤな感じだった(笑)。

みうら:久しぶりに日本も廃仏毀釈があったと思ったんじゃないの(笑)。

西原:おかげで夜の玉川上水がすっごい怖い。「探してると絶対に自分に似た顔があるんだよ」って……違うだろ!みたいな(笑)。

みうら:オレらの時の彫刻のテーマは「自分の顔」だった。そんな課題できやしないんで、似たような課題が出てた多摩美に夜忍び込んで、自分に似たようなヤツを持って来て。上からちょっとだけ彫ったのを提出したら「あまり似てないな」って言われた(笑)。でも一応それで単位取ったよ。

西原:私の時の課題は、アフリカの仮面みたいなのを彫れってヤツで。隣の木工科に行って糸ノコを貸してもらって丸く切って、1日でちょいちょいとやるだけの要領のいい奴が続出(笑)。そしたら「世界の安田」って言われてる教授が「このエッジをこうして切るのは非常に繊細な過程で素晴らしい」と。違うよ、糸ノコで切ってんだって。老いたな安田も(笑)。】

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 人気マンガ『ハチクロ』こと『ハチミツとクローバー』の舞台の美術学校のモデルとされている武蔵野美術大学出身の2人による、『ハチクロ時代』の話。いや、『ハチクロ』みたいな大学生活なんてありえねえ!という点では同感なのですが、西原さんとみうらさんみたいな学生時代というのも、それはそれで「一般的」とは言い難いような気もしますけど。
 でも、ここで語られている「武蔵美伝説」の数々は、豪快でバカバカしく、それでいて「太宰犬」みたいに、「いかにも美大らしい」要素も含まれているのですが、こういう「大学時代のバカバカしい思い出」って、きっと、誰にでもひとつやふたつはあるのではないかと思うのです。糸ノコで切った「仮面」を「繊細な過程が〜」なんて絶賛する偉い教授の話なんて、似たような話は僕の大学時代にもありましたし。
 外部からみれば「高名な教授」であっても、学生にとっては、「ちょっと変わったオジサン」でしかなかったりもするんですよね。卒業して同じ世界に入ってみてはじめて「教授と自分とのあまりにも遠い距離」を僕も実感したものです。
 誰の人生にも『ハチクロ』は、あるのかもしれません。それが、あのマンガみたいにピュアなものだとは限らないとしても、ね。