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2006年05月26日(金) ■ |
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リリー・フランキーに嫉妬する男たち |
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「週刊現代」(講談社)2006年5月27日号の酒井順子さんのエッセイ「その人、独身?」より。
【最近、周囲の同年代男性と話していてしばしば感じられるのは、 「彼等は、リリー・フランキーに嫉妬しているのではないか……?」 ということなのでした。 リリー・フランキーさんといえば、『東京タワー』が大ベストセラーになった他、イラストレーターなどとしても活躍している、今をときめく40代。アイドル好きとしても知られ、様々なアイドルとの親交も伝えられます。 アイドルからはモテモテ、本もバカ売れというリリーさんに対して、今時の同世代男性というのは、ある種のいまいましさ、焦燥感、ちょっとした腹立たしさ……のようなものを感じてしまうらしいのです。『東京タワー』を読んで涙をふりしぼりながらも、 「リリー・フランキーだなんてふざけた名前しやがって、ちぇっ」 などと、思っている。 30代後半とか40代前半の男性といえば、今まさに働き盛りで分別盛り、家庭でも職場でも重く責任がのしかかってくる世代です。それだけでなく、昨今はお洒落もしなくてはならないしシングルモルトの一杯も飲んでモテたりもしなくてはならない。……ということで彼等は、日々大変なプレッシャーと戦っているのでした。 そんな彼等からしてみると、意味のよくわからないカタカナ名前でモテたりもうかったりしているリリーさんは、とっても自由そうで楽しそう。羨ましさのあまりつい、 「けっ」 みたいな発言をしてしまうのだと思うのですが。 男性の嫉妬は、時に女性のそれよりも激しいということは、よく知られています。特にこの年代になってくると、「確かにそうかもしれないなぁ」と思うことが、私にもよくあるのでした。それというのもこの年頃になると、仕事における成功度合いというものが、次第にはっきり見えてくるからなのだと思うのですが。 働き盛りの年代においてモテる男性というのは、明らかに「仕事で成功している人」です。いくら遊び上手でもお洒落でも格好よくても運動神経が良くても、仕事がパッとしないと「いい歳して何やってるんだ」という風に見られてしまう。 反対に、若い時にどれだけモッサい生活をしていようと、仕事で成功さえしていれば、この時期にぐんと、異性からだけでなく、年上の人からも若者からもモテるようになるものです。服装などは後からどうとでもなるのであり、パリッとした服さえ着ていれば、多少の造作の難などどうということはない。 若い頃にモテていたのに、中年期になってどうにも仕事の面で難があるという男性は、「中年期になって仕事が成功したが故にモテだした男性」のことが、許せないようです。その手の男性を見ると、没落した貴族が新興成金を悪しざまに言うかのように、 「あいつなんか昔、すっげぇダサくてみんなに馬鹿にされてたんだぜ。俺、サッカー部で一緒だったけど、あいつは卒業するまでずっとレギュラーになれなかったし、けっこうな大人になるまで童貞だったんじゃないの?」 などと、相手を馬鹿にしようとするのでした。すなわち「あいつはかつて性的弱者だったのだ。その点俺はスゴかったね」という、相手を貶めるついでに自慢する、という手法であるわけですが。 こちらとしては、 「そうなんだー」 と聞いているものの、心の中では 「でも今となっては、あちらの方がずっと頼もし気あるし、どちらかと食事するっていったら、あちらを選ぶなぁ。現在の時点で性的弱者は、むしろあなたなのでは?」とつぶやいている。】
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男同士の嫉妬というのは、ときに、女同士の嫉妬よりも物悲しいことが多いというのは、酒井さんより少しだけ下の世代の僕にも、なんとなくわかってきました(ちなみに酒井さんは1966年生まれ)。ついこの間まで、「ミラクルダイブ」とかで「変なエロオヤジ」として取り扱われていたはずのリリー・フランキーさんが、『東京タワー』の大ヒットで、いまや「時代の寵児」で、グラビアアイドルにもモテモテとなれば、そりゃあ、イヤミのひとつも言いたくなります。あいつは、「どうしようもないオッサン」だったはずなのに、って。 それがまた、こうして売れっ子になったとたんに、リリーさんの生きざまとかキャラクターなども、なんだかすごくカッコよく見えてくるんですよね。リリーさん自身はそんなに変わっていないはずなのにねえ。 まあ、リリーさんというのは、『東京タワー』での成功とは関係なく、女性にものすごくモテる人だったのではないかなあ、と思うのですけどね。アイドル的なモテかたではないけれど、ある種の女性に対して、すごくフェロモンを出している人のような気がしますし。
それにしても、【働き盛りの年代においてモテる男性というのは、明らかに「仕事で成功している人」です。】という文には、「やっぱりそうなんだよなあ」と思わず頷いてしまいました。僕の周りの人を見ていても、30代〜40代くらいになると、ルックスよりも「仕事ができて、自信が伝わってくる人」のほうが、モテているようです。もちろん「仕事が全て」ではないのだけれど、「仕事人間はつまらない」なんて言いながらも、女性の多くは「仕事ができる人」を好むのですよね。それこそ、頭髪に難があったり、体重増加に悩まされているような人でも、仕事ができる人は、女性にモテるのです。もちろん、同性からみても、「成功している人」というのは魅力的な存在です。ヒルズ族がモテるのは、「お金を持っているから」というのもあるのでしょうが、お金そのものよりも「成功している人のオーラ」みたいなものが大きいのかもしれません。 そして、同性からみても「昔のアイツはダメだったのに…」なんていう人は、かなり情けなくみえるのです。もっとも、僕の場合は、昔も今もモテないので、「昔自慢」そのものが不可能なのですけど。
酒井さんは、このエッセイの末尾を【リリー・フランキーさんの活躍に対してキーキー言っている人を見ると、「モテないかもうけてないかのどちららか、もしくはその両方なのだなぁこの人は」と思えてくるものなのであり、まぁ多少羨ましくても男の子はグッと我慢、ということで!】と締めくくられています。 しかしながら、リリーさんの生きかたって、ほんと、ものすごくリスキーですよね。あのやりかたで成功できるのは、マンボウの卵が成魚になる確率くらいなのではないかと思うし、簡単に真似できるようなものではなさそう。ひとりのリリー・フランキーの陰に、何百倍、何千倍もの「ダメな面だけのリリー・フランキー」の屍が、累々と転がっているような気がしてならないのは、僕の嫉妬なのでしょうか。
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