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2004年12月22日(水) ■ |
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そのドッジボールから、「屈折」が始まった。 |
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「桜玉吉のかたち」(コミックビーム編集部著・エンターブレイン)より。
(漫画家・桜玉吉さんと現コミックビーム編集長・O村さんの対談。玉吉さんが小学校時代を振り返って)
【桜玉吉(以下:玉)あと、もうひとつ人格形成に影響を及ぼした事件はね、小学校のときの転校生で、一点の曇りもないぐらい、顔もダンディーで、体格もオレよりもよくて、勉強もまたよく出来てっていう、非のうちどころのないヤツがいたんだよ。
O村(以下:O)すげえな、許せねえけど。
玉:それで、運動も出来んだよな、家が商社か何かに勤めているところの息子で、いっぺん遊びに行ったことあるけど。
O:いいヤツ?
玉:非の打ちどころがなさ過ぎてつまんないっていうのはあるんだけど。それでも、一緒に遊んだりはしてたわけで、小学校ぐらいだとさ。で、ドッジボールがあって、相手のチームになってて、オレが外野にいてさ、ぶつける側。相手方の方も10人くらいいたんだけど、次々に当てられて、最後にそいつだけになったのよ。ところが運動神経いいから、どんな球投げても捕るのよ。
O:憎いぐらい。
玉:憎いよ。オレ、結構球投げるの大好きだからさ、いいタイミングでボールがパスされて、パッて捕って、そのときに彼がさーっと逃げてったところで、スリップして、オレの足元のところでこけたのよ。で、倒れてるそいつに、もう無慈悲に思いっ切り振りかぶって、ボールをバーンとぶつけた!でも………そいつ捕りやがんの。
O:格好わるーーっ!。引き立て役じゃん。
玉:そのときから屈折が始まったと言ってもいいかもしれないな、もしかしたら。
O:いつもより4割増し力入れたのに、捕りやがんの。
玉:こっちは卑怯なことやったのに負けてる。あれは、その後の人生ですごい影響与えてるような気するよ、オレ。卑怯つっても、オレもバカ正直だから、ちゃんと上から振りかぶって、倒れてるのにお腹めがけて投げてるところも、バカなんだけどさ。】
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ごく日常的な場面のようでも、本人にとっては、衝撃的な「負け犬の刻印」を押されることもある、という話。他人からすれば「たかがドッジボールの中のひとつの出来事」なのですが、玉吉さん御本人が、このエピソードを20年くらい経った時点でもこれだけハッキリと覚えているということは、やっぱり忘れられなかったんでしょうね。 この話を読んでいて、確かに、僕にもこういう同級生とかいたなあ、と思い出していました。勉強もスポーツもできて、生徒会の役員とかやっていて、バレンタインデーのチョコレートを独り占めするようなヤツ。それでまた、そいつが性格の悪い男ならまだ(嫉妬心を打ち消すという意味では)救いようがあるのですが、また「いいヤツ」だったりするんですよねこれが。ほんと、そういうのって本人のせいではないと頭では理解しつつも、自分のコンプレックスが刺激されまくるので、内心「コノヤロー!」とドス黒い感情を抱いていたりするのです。まあ、僕の場合は、そういう「チャンス」が訪れなかったので、このような「復讐の記憶」というのはないんですけどね。 しかしながら、このせっかくの「チャンス」に全力投球をしたにもかかわらず捕られてしまうなんて、確かに玉吉さんは、「自分の卑怯さ+カッコ悪さ+無力感」によって、かなりのダメージを受けたに違いありません。このあとの2人の対談にも書かれているのですが、大きく振りかぶって投げたために、かえって向こうも体勢を建て直す時間ができて、さらに球筋が読みやすくなってしまったのだとしても。それこそ、倒れているところに足とか狙ってコツンと当てにいったら、まちがいなく「競技的には勝てた」んだろうけど、やっぱりそれじゃあねえ… 「自分は生まれつきの『引き立て役』なのか」と子供心に深い傷を負ってしまったという気持ち、同じようなコンプレックスのカタマリの「負け犬」の僕にはわかるような気がします。 実際は、こういうのって、大人になって話してみると、「出来杉くん」だって、当時はいろんな悩みやコンプレックスを抱えていたりしたものみたいなんですけど。
ほんと、子供の頃は、こういう、端からみれば「ドッジボールの普通の場面」の中にも、大きな葛藤とトラウマの種が潜んでいたんですよね。 子供は子供で大変なのです、たぶん。
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