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2004年07月13日(火) ■ |
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それはただ、個性の違いに過ぎない。 |
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「もし僕らのことばがウイスキーであったなら」(村上春樹著・新潮社)より。
(村上さんが、スコットランドの「シングル・モルトの聖地」といわれるアイラ島の「ラフロイグ」の蒸溜所で、10年ものと15年もののウイスキーを飲み比べてみたときのエピソード)
【「どっちがいいとは言えない。どちらもうまい。それぞれにテイストの性格がpalpableだ(はっきり触知できる)」と僕は正直に言った。 イアンはそこではじめてにっこりと笑った。そして頷いた。「そうなんだ。頭であれこれと考えちゃいけない。能書きもいらない。値段も関係ない。多くの人は年数の多いほどシングル・モルトはうまいと思いがちだ。でもそんなことはない。年月が得るものもあり、年月が失うものもある。エヴァポレーション(蒸発)が加えるものもあり、引くものもある。それはただ個性の違いに過ぎない」 話はそこで終わる。それはある意味では哲学であり、ある意味ではご託宣である。】
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村上さんは、10年ものと15年ものの味わいの違いを【音楽でいうならば、ジョニー・グリフィンの入ったセロニアス・モンクのカルテット。15年ものは、ジョン・コルトレーンの入ったセロニアス・モンクのカルテットに近いかもしれない。どちらも捨てがたく素敵だ。そのときどきの気分で好みがわかれるだけだ。】と書かれています。残念ながら、ジャズに疎い僕としては、その「違い」を実感することはできないのですが、「同じ本質は持ちつつも、それぞれすばらしい個性を発揮している」ということなのかな、と思います。 僕はお酒は嫌いではありませんが、味の違いは「美味しい」「普通」「まずい」の3段階評価+「強い酒」or「弱い酒」というくらいしか正直なところよくわかりません。 高いお酒を口にするときは「美味しい」と言いながら、内心「こういうのが美味しいお酒、なんだろうなあ…」なんて「学習」していたりもするわけです。 それでも、ちょっと洒落た席で「こちらは、20年もののワインでございます」なんて言われたら、それだけで「いくらなんだコレは!」とドキドキしてしまいますし、口に入れたら「美味しい!」という気分になってしまうのです。でも、そういうのって、自分の感覚というよりは、思い込みの要素のほうが強いのかもしれませんね。 「高級だから」「長い間寝かせているんだから」という先入観って、けっこう味覚に影響を及ぼしているような気がします。
もちろん、あまりに若すぎるとまともなウイスキーの味がしないでしょうし、あまりに寝かせておくと、飲めなくなってしまうこともあるでしょう。 でも、ある程度の期間であれば、必ずしも「年数が多いほどうまい」とは言えないみたいです。最終的には、飲む人の好み次第。
「年月が得るものもあり、年月が失うものもある」 もちろんこれは、ウイスキーに限ったことではないんですよね。 若ければいいってものではないし、年をとっていればいいというものでもない。 それぞれの年齢や経験において、それぞれの魅力があるのですよ、たぶん。 もちろん「キチンと作られ、熟成されたウイスキー」でなければ、何年も寝かせたものであっても、不味くて飲めたものではありませんけどね。
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