監督:ミロス・フォアマン 出演:ステラン・スカルスガルド ハビエル・バルデム ナタリー・ポートマン、他 オススメ度:☆☆☆☆−
【あらすじ】 18世紀末スペイン。カルロス4世に宮廷画家に任命されたフランシスコ・デ・ゴヤは、王家や富豪から依頼された絵を描く一方で貧しい人々を描く風刺画家の一面も持っていた。教会ではロレンソ神父の煽動で異端審問の強化が進む中、ゴヤが依頼されて描いていた富豪の娘イネスが、豚肉を食べなかっただけでユダヤ教徒の疑いを受けて投獄されてしまう。たまたまロレンソ神父の絵も依頼されて描いていたゴヤは、イネスの父親からロレンソと渡りをつけて欲しいと頼まれる。
【感想】 「カッコーの巣の上で」「アマデウス」で2度のアカデミー賞を受賞した巨匠ミロス・フォアマンの最新作。 本作、予告編を一度も見た事がなく、タイトルだけを見て脊髄反射状態で鑑賞。ゴヤ好きですよー♪ゴヤと言えばスペインが数多く輩出した巨匠画家の中でも1,2を争う巨匠中の巨匠。
そんな訳で、タイトルを見て勝手に「ゴヤの半生を描いた作品?それともゴヤの名画に隠された秘密でも解き明かすの?」等と脳内で激しく妄想しつつ、ウキウキしながら映画を見てみたら・・・ぜーんぜん違った(^-^; ゴヤは確かに登場するんだけど、ゴヤが主役という訳ではない。ある意味このタイトルは非常に丁寧な邦題ですね。 本当に「ゴヤは見た」だけ。市原悦子さんは家政婦しながら思いっきり事件に絡んでくれるけど、ゴヤは宮廷画家をしながらあくまでも単なる傍観者・その1でしかなかった(涙)
要は「ゴヤがたまたま知り合った2人の人物の数奇な運命」を、ゴヤを通じて観客に見せる、という話です。
何かつまんなそーに書いてしまいましたが、コレがなかなかどうして!見応えのある人間ドラマになっていましたヨ この時代のスペインの混沌と言ったら、他のヨーロッパ諸国の追随を許さない程だったでしょう。もっともスペインはその後も混乱しまくった挙句にフランコなんて独裁者まで輩出してしまう「トンデモ王国」な訳ですが・・・ と、脱線しましたが、そんな混乱した時代に翻弄された2人の人物の愛憎劇と、彼ら+ゴヤを取り巻く背景を赤裸々に描いた時代絵巻という趣の作品でした。
ゴヤは勿論実在する画家ですが、本作に登場するイネスもロレンソも架空の人物。 イネスもロレンソも共にたまたまゴヤに依頼して自画像を描いてもらっていて、イネスは富豪の娘でロレンソは異端審問を推し進めるカトリック教会の神父という横顔。 ロレンソはゴヤのアトリエでたまたまイネスの自画像を目にしていて気に留めていたという背景があるのですが、これが偶然に偶然が重なって、イネスはユダヤ教徒の疑いを掛けられて拘束・拷問され、そしてその拷問の片棒を担いでいたのがロレンソだったという皮肉。
拘束・拷問されて極限状態まで追い詰められたイネスにとって、ロレンソは「家族と自分を繋ぐ唯一の光」だったろう。 まさか自分を助けてくれるかもしれない「唯一の光」が、自分の体目当ての生臭神父だとは、あの極限状態ではイネスには判断が付かなかっただろうというのは想像に難くないです。 彼女の心理は、実際は強姦だった行為を自らの精神状態を保つ為に「コレは恋愛なんだ。愛された上の事なのだ」と自分に言い聞かせているようなものでしょう。余りに痛ましくて見ているのが辛かった。
イネスは結局ナポレオン侵攻によって異端審問から開放されるまで、15年も幽閉されて心が病んでしまう。 15年という歳月はイネスから輝く美貌も、優しかった家族も、潤沢な後ろ盾も何もかもを奪う。心を病んだイネスの元に残ったのは「私を愛したロレンソと、彼との間に出来た生き別れのどこかにいるはずの我が娘」だけだった。
何とも悲しい話なんだけど、このイネスを演じたナタリー・ポートマンの迫真の演技は半端なく凄かった。 ハリウッドの「美貌の女優」というのは、時として自らの美貌を封印したがる傾向があるのでしょうか?かつて体重を激増させて特殊メイクまで施してアカデミー主演女優賞を獲得したシャーリーズ・セロン嬢然り、本作のナタリー嬢も顔をゆがませて髪を振り乱し、朦朧とした目付きで薄汚い姿を堂々と晒す。 もしキャストクレジットがなかったら、この女を見ても誰もナタリー・ポートマンだとは気付かなかったハズ。
彼女の演技がなければ、本作はこれ程まで憂いを帯びる事はなかっただろうと思う。 ロレンソを演じたハビエル氏も味のある演技でキラリと光っていましたが、とにかく本作の中でナタリー嬢が負った役割は余りに大きく、余りに観客を圧倒させましたね。 彼女がイネスを演じていなければ、ゴヤ目当てで見に行ったぴよは「なんだよ。ただのメロドラマかよ」という感想になってしまったかもしれません。それ程彼女の演技は凄かった。
正直、内容自体は個人的に好きではありませんが、ナタリー嬢のあの演技が見れただけで満足出来る作品でした。 彼女の事を「ああ、あのカワイコちゃん女優ね」と勘違いしている方、本作を見て軌道修正しましょうよ!
|