2007年03月19日(月) |
善き人のためのソナタ |
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 出演:ウルリッヒ・ミューエ マルティナ・ゲデック セバスチャン・コッホ、他 オススメ度:☆☆☆☆
【あらすじ】 1984年東ドイツベルリン。国家保安省(シュタージ)のヴィースラー大尉はガチガチの社会主義信望者。反体制者の監視と尋問に掛けて定評のある彼は、劇作家ドライマンと彼と同棲している恋人の女優クリスタを監視して反体制の証拠を掴めとの命令を下され、ドライマンの自宅に盗聴器を仕掛けて四六時中監視する事になった。ところがドライマン達の生活に触れる内に、次第にヴィースラーは自分の信じてきた体制に疑問を持つようになり、密かに報告書を捏造するようになる。
【感想】 今年のアカデミー賞外国語映画賞受賞作品。 過去ヒトラーやナチスを取り上げた作品は多く作られている。東西冷戦下の市民生活を描いた作品もない訳ではない。しかし旧東ドイツで国民を監視し反体制者をあぶり出していた「シュタージ」という存在を取り上げて題材にしている作品は、もしかしたらこの作品が初めてなのかもしれません。
主人公のヴィースラーは身も心もどっぷり社会主義に捧げていて、石頭で融通も利かなきゃシャレも通じない、本当に取り付く島もないという言葉がぴったりのイケ好かないオッサン。 映画冒頭、彼が「反体制者に対する尋問方法と相手のウソの見破り方」の講義をしているシーンが出てきますが、あまりに冷酷無比で情け容赦ない、およそ人間らしさのない様を見て、一気にこのオッサンが大嫌いになった!←をい
で、お約束通りこのオッサンが芸術家カップルを盗聴している内に、すっかりこのカップルにハマってしまう訳です(笑)
勿体無いなぁと思ったのは、今まで何度も監視任務はして来たであろうハズのヴィースラーが、何故今回に限り彼らに傾倒し、自分の身の危険を犯してまでも助けようと思ったのか・・・この部分の表現がアッサリし過ぎていたように思う。 もっとドラマティックに作ったって良かったんじゃないだろうかと思うんですがね。控えめな態度というのは世間では概ね好感が持たれるものですが、時と場合によりますよ(^-^;
これはぴよが勝手に「こういう事に違いない!」と解釈した事ですが・・・ ドライマンは盗聴され始めた頃は決して「反体制側」ではなかったと思う。友人には確かに思いっきり反体制思考のヤツもいるし、反体制ではないものの国のお偉方にうまく取り入れられずに仕事を取り上げられてしまった友人もいる。それでもドライマンの様子は「社会主義に多少懐疑的ではあっても国を愛している」というスタンスのように見えた。
だからこそ、社会主義に裏切られて絶望して自殺してしまった友人を思い、遂に国を見限ったんだろう。 そしてヴィースラーもまた、ドライマンの様子を四六時中監視している中で、ドライマンが迷ったり苦悩する様子を聞くにつけ徐々に自分もシンクロして懐疑的になっていったのではないか?と思った訳です。 きっと今まで監視して来た容疑者は、最初っからバリバリの反体制活動家達ばかりだったんだろう。お互い歩み寄る部分がなければ、人というのは最初っから完全拒絶してしまうものです。
ヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエ氏の演技は秀逸でしたね。 映画冒頭のシーンなんてビー玉みたいな魂の入ってない目なのに、ドライマンが尊敬する友人を喪って、失意の中でピアノを演奏する姿に涙するヴィースラーの表情と言ったら!一気に大好きになっちゃったよーう♪←をいこら(^-^;
当時のシュタージの様子や国の高官達の卑劣な行為を赤裸々に表現するのは、さぞかし大変な事だったろうと思う。 ベルリンの壁が崩壊して20年、まだ旧東ドイツ時代の当事者達の多くは生きている。そういう人達から取材をして本当のトコロを聞きだすのは並大抵の努力ではなかっただろうと思われますね。 多少手ぬるい?と思われる部分もありましたが、ここまで再現出来ていれば充分でしょう。
かなり地味で淡々と表現されている。映画の展開もトリッキーな部分はほとんどない、王道系ヒューマン。 でも何のヒネリもない王道系だからこそ感動出来る、本作はそんな作品だったと思います。 映画ラスト、ヴィースラーのあの清々しい表情には心の底からシビれました!本当に素晴らしい作品です!必見!!
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