2005年08月29日(月) |
ライフ・イズ・ミラクル |
監督:エミール・クストリッツァ 出演:スラブコ・スティマチ ナターシャ・ソラック ヴク・コスティッチ、他 オススメ度:☆☆☆☆−
【あらすじ】 1992年ボスニア。国境近くののどかな村で鉄道技師の仕事をするセルビア人のルカは、息子のミロシュが徴兵された上に敵国の捕虜になってしまっていやがおうにも戦争に飲み込まれて行く。ある日友人トモがムスリム人女性サハーバを連れて来て「彼女とミロシュとの捕虜交換に使おう」と提案、サハーバを預かる事になったルカだったが・・・。
【感想】 「アンダー・グラウンド」「黒猫・白猫」等の名作を次々と発表し、2005年カンヌ映画祭で審査員長に選ばれたヨーロッパ映画界の巨匠エミール・クストリッツァ監督最新作。 監督の祖国・旧ユーゴスラビアの内戦時代を舞台にした作品。氏は過去にも祖国を題材にした作品を発表し続けていて、本作もそんな氏の一貫したメッセージ性の色濃い作りになっていると思う。
映画が始まってからまったりほのぼのとしたエピソードが延々続きましてネ、一体いつ予告編で見たような話の展開が起こるんだろう?と思いながら見ていたんですが、最初は「どーでもええやんか。こんなエピソード」と思ってた数々の小ネタが、見ている内に段々ハマって来て面白いんですわ。
この「まったりほのぼの」ってのが、本当に当時の現地の人達(特に田舎の人)のリアルな状態だったんだろうと。 彼らにとって戦争は決して身近なものではなく、どこかの国の絵空事でしかなかったんだろうと。 だから実際に爆撃が始まってドッカンドッカン砲撃されても、まだどこか他人事状態の主人公ルカ。 それが「たった1人の大切な息子が捕虜として捕らえられた」と知らされて、ようやく現実のモノとなる。
何となくこういう感覚、判らなくもないなーと思った。 例えば国内でとてつもない大災害が起こってTVの報道番組でリアルタイムに様子が伝えられても「まー、気の毒にぃ」と思いながらも、どこか「自分とは関係ない話」と冷めた目で・・まるでパニック映画のワンシーンを見ているような感覚でTV画面を見ている自分がいたりする。この作品の主人公も正にそんな状態だったんだろう、と。 自分の身内や知り合いが巻き込まれてみて、初めてその災害・事故・事件の当事者になるという感覚。
冷静に考えると物凄く切ない話なんだけど、この監督さんは自国の痛ましい過去を決して「お涙頂戴」にしない。 むしろ非常にユーモラスに、そして終始瑞々しく牧歌的な雰囲気で観客を楽しませてくれるからスゴイ。
美しい風景、ノスタルジックでいつまでも耳に残る音楽、ほのぼのとした素朴な人々のやりとり、妙に芸達者で思わずニックネームを付けたくなるような可愛らしい動物達。 何もかもが牧歌的なのに、それが「戦争」「内戦」という殺伐としたネタの中で繰り広げられる不思議。
もっとも不思議でも何でもないのかもしれない。 映画中でも「これは俺たちの戦争ではない」というようなセリフが出て来るけど、所詮戦争ってどこかの国のどこかの政治や経済や宗教のぶつかり合いから派生するもので、本来そこに息づいて穏やかな小さな幸せを願って生きている市井の人達には関係のない「遠い国の絵空事」でしかないのかもしれない。
この作品は「ロミオとジュリエット」的な恋愛を軸に描かれているけど、そこに描かれているのは紛れもない「戦争」に翻弄される市井の善意の人々の姿だったように思った。
2時間半近い割と長尺の作品なので、ダレる人も多いかもしれない。 でもこの作品が発するメッセージには妙に奥深いものがあって、本当に切ない話だったなーと思う。 見て損はないと思いますよ。妙に残虐映像を出して啓蒙しまくる反戦映画より、よっぽど説得力があります。
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