監督:ピーター・ヘッジス 出演:ケイティ・ホームズ パトリシア・クラークソン デレク・ルーク、他 オススメ度:☆☆☆☆
【あらすじ】 感謝祭の朝、エイプリルは一緒に暮らしている彼氏ボビーに手伝ってもらって七面鳥のロースト作りを始めた。初めて家族をNYのアパートに招待して手料理でもてなそうという計画だ。家族とは何年も会っていなかったエイプリル、とりわけ母親とはソリが合わずに衝突ばかりだったけど、母親が癌で余命いくばくもない事を知った彼女は、家族揃って過ごせる最後になるであろう感謝祭を、母親が大好きな七面鳥のローストを食べて一緒に過ごしたかったのだ。
【感想】 サンダンス映画祭等で世界の映画人達から満場の拍手を持って大絶賛された作品。監督は「ギルバート・グレイプ」や「アバウト・ア・ボーイ」等の脚本を手掛けて評価の高いピーター・ヘッジス氏が初めてメガホンを取っています。
氏の脚本の手腕は織り込み済みですが、地味な作りながら実に見せ方がウマい! 映画冒頭、エイプリルが感謝祭の七面鳥料理に挑戦するくだりから始まり、場面が切り替わると同時刻の別の場所・・・郊外の閑静な住宅街からエイプリルの家族が車に乗って出かける支度をしているシーンを見せる。 エイプリル側の奮闘ぶりと家族の珍道中(謎)を交互に見せながら話は進むが、お互いの人間関係や家族の歴史・母親の病気の事等の説明は一切なく、見てる内に自然に観客が理解するように工夫されています。
話のネタというか筋は結構シンプルでしてね、 長年仲違いしていた家族(とりわけ母親)と主人公の女の子が、母親が癌で余命いくばくもないと知って、感謝祭をきっかけに和解しようというだけの話なんですが、これが和解する日が母親の誕生日でも両親の結婚記念日でもクリスマスでも独立記念日でもなくて、敢えて「感謝祭」というのがミソ。
映画中に、エイプリルが同じアパートに住む華僑のファミリーに「感謝祭」の由来を説明するくだりが出てくるんだけど、実はぴよも感謝祭の由来を知らなかったんすよね(^-^; 感謝祭というのは、最初にアメリカ新大陸に白人が入植して来た時、ロクに食べ物もなく大変な苦労をして、それをアメリカ先住民の皆さんに助けてもらって必死に頑張り、初めて秋に収穫出来た事を先住民のみんなと共に喜び感謝したという事から始まったそーなんです。
様々なエピソードをバラバラに見せながら、この「感謝祭の由来」の話に呼応するように話は収束していく。 エイプリルはそれまで全く交流のなかった同じアパートの住民と初めてコミュニケーションを取り、アウトローだった彼は彼女の家族を安心させる為にきちんと身なりを整えて花を買い、最大限もてなそうと努力する。 白人をある意味逆差別していた黒人ファミリーも、英語がロクに話せない華僑ファミリーも、そしてエイプリルを否定し続けた彼女の家族も皆、一つになって家族の大切さ・隣人との交流とそこから生まれる「愛」を感謝する。
並行してエイプリルの家族側の話が語られるが、この話のもう一つのキーになる母親の存在が際立ってた。 そもそもエイプリルも相当やんちゃな娘だったんだろうけど(苦笑)、言っちゃ〜なんだが「この母にしてこの子あり」状態の、自分の中の常識に凝り固まってて高圧的で辛らつで相当感じの悪い母親。彼女はエゴイスティックで一片からしかモノが見られず、自分の事しか愛せない人で、そんな母親に育てられたお陰でエイプリルの妹なんて正に母親の生き写し(笑) 妹はハスッパな姉を毛嫌いする事で、母親の愛情を自分のものだけにしようと躍起になっている。 「子は親の鏡」とはよく言ったもんだなぁ・・・
そう。「子は親の鏡」なんだよね。 ずっとエイプリルを否定し続けた母親は、死を目前にした自分の姿が写った鏡を見て考える。 自分を写した鏡の向こうには、母親に見捨てられた女の子が必死になって母親を追いかけようとしている。 目を背け続けた憎悪の塊のようなエイプリルという娘、その娘こそが自分の生き写しではないのか?彼女を許せない自分は、また自分の事すらも許せないのではないのか?彼女を受け入れる事が自分を受け入れる事ではないのか?
ラストは誰もが優しい気持ちになれる。 バラバラに提示されたエピソードは、感謝祭の七面鳥ローストがこんがり焼きあがって食べ頃になった頃、美味しくて切なくて優しくてステキなハーモニーを奏でる。
非常に地味な小品という印象だけど、良質で心温まる秀作です。
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