2004年10月02日(土) |
フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白 |
監督:エロール・モリス 出演:ロバート・S・マクナマラ オススメ度:☆☆☆+
【あらすじ】 ロバート・S・マクナマラ。1916年カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ88歳。ハーバード大学院を卒業後第二次世界大戦を経験した後フォード自動車会社社長、更にはケネディ・ジョンソン両大統領下で国防長官を務めてキューバ危機やベトナム戦争に大きく関わった、アメリカ政財界の重鎮として君臨し続けた男。 彼は人生の晩年になりかつての日々を振り返り、そして人生の歩みから11の教訓を語る。
【感想】 第76回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門受賞作。 マクナマラ国防長官と言えば「独裁者」「戦争屋」等の数々の批判を浴び、ベトナム戦争で失脚した重鎮。 彼はその後世界銀行総裁に就任して財界の甘い汁を吸い尽くし(←これはあくまでぴよの私感。苦笑)、現在はもっともらしい顔で貧困にあえぐ子供達の為に尽力している・・・というフレコミの、「アメリカで最も胡散臭いオヤジ」にインタビュー形式で独白させるドキュメンタリー作品。
それにしてもこのマクナマラという御仁、歳は食ってもまるで食えないオヤヂです(笑) インタビュアーがベトナム戦争の核心に触れようとすると「あぁ、その話をする前に言っておきたい事があったんだ」等と巧みに(つーか、明らかに「その話には触れるな」と言わんばかりのパフォーマンス)ネタをはぐらかしてみたり、「私がこれ以上語るのはやめておきましょう」と勝手に話終わらせちゃって、結局自分の政策や助言・主張に間違いはなく責任は全て大統領(特にジョンソン大統領)にあったんだという事を主張しまくるという、とんでもない責任転嫁野郎でした(^-^;
とは言うものの、このオヤジはやはりとんでもなく頭のいい男です。 彼の主張する言葉の端々に過去の正確なデータとその分析が散りばめられているし、その分析から得た結論というのはかなり的を得ていて納得出来るモノが多いのです。 日本人のぴよにとっては、第二次世界大戦での東京大空襲〜日本全国の都市の壊滅状況、そして原爆投下に関する所見等の回想や分析の恐ろしい程の緻密さには「ほぉ〜」と声をあげてしまいました。
面白いのは、教訓1で語られる「敵の身になって考えよ」の引き合いに出されたキューバ危機の話と、その後の教訓7辺り以降から語られるベトナム戦争に関する話から引き出される話の矛盾。 キューバ危機ではキューバ側の気持ちに立ってうまく立ち回り、最終的に流血なしに事を収める事に成功したマクナマラ氏だったが、ベトナム戦争では「アメリカの大義」を全面に押し出して全く見当違いの派兵を繰り返す事になった。
キューバ危機が平和的解決に到ったのはケネディ大統領の英断ではく自分の尽力だと言わんばかりだし、ベトナム戦争に関してはマクナマラ氏の主張ではなく、あくまでもジョンソン大統領の独断で傷の深追いをしたと言い訳している辺り、このマクナマラという男の狡猾でありながら明晰な頭脳の持ち主である特徴が現れているじゃないか。
ウマイ事に、彼は表面的には自らの非を認める事で話をリードして行くのだ。 「キューバ危機の時にはキューバ側の立場で考えられたのに、ベトナムの時にはそれが出来なかった」と素直に認める事で、一見すると矛盾するかのような教訓の数々をさも辻褄が合うかのようにまとめてしまう。 教訓9の「人は善をなさんとして悪をなす」、そしてシメの教訓11「人の本質は変えられない」に到ってはお笑いでしかないけれど、彼の理屈で言うと教訓1から11までの全てがスッキリと1本の線で結ばれてしまうのだ。
この作品を見て誰もが思うのは、このA級戦犯(と言って差し支えないだろう)のマクナマラ氏が導き出した教訓を、今のアメリカはどう受け止めているだろうか?という事でしょう。 ブッシュはこの作品を見たのだろうか?そしてケリーはこの作品を見たのだろうか? 更には日本の官僚・閣僚にこの作品を見た人間は、果たして何人いるのだろうか? 彼らはイラクの立場に立って今戦っていると、胸を張って言えるのだろうか?
ぶっちゃけ「NHKスペシャル」程度のインタビュー番組で流せば充分な作りですが、そこから導き出される教訓にはなかなか考えさせられるものがあります。
ただ、マクナマラは最後の最後まで「本当のトコロ」を語ってはくれなかった。この狸オヤジめ(^-^;
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