2004年01月06日(火) |
バティニョールおじさん |
監督:ジェラール・ジュニョ 出演:ジェラール・ジュニョ ジュール・シュトリック ミシェル・ガルシア、他 オススメ度:☆☆☆☆+
【あらすじ】 1942年夏、パリは独軍の手に落ちていたる所でユダヤ人狩りが行われていた。精肉惣菜店を営む「バティニョールおじさん」の家の上階には裕福なユダヤ人一家が住んでいたが、ある朝バティニョールは自らの手で一家を独軍に引き渡してしまう。同居していた娘の婚約者が独軍に密告をして、自分は彼に騙される形でその手助けをしてしまったのだ。 密告者として独軍に重用されるようになったバティニョールの元へ、ある日上階に住んでいたユダヤ人一家の息子「シモン」が収容所を逃げ出して戻って来た。バティニョールは悩んだ末、シモンをスイスに逃亡させようと決心するのだが・・・
【感想】 2002年フランス作品。日本での公開は2003年春でしたが、ぴよは劇場で予告編を見て「これ、絶対に見たーい♪」と思っていたのに、うっかりしている間に公開終了しちゃってたのね(涙) 正月明けの映画鑑賞第1弾として、DVD借りて来て自宅で鑑賞。正月ボケした体に劇場鑑賞は辛いのだ。(^_^;)
主人公はパリに住む生粋のパリっ子親父「バティニョール」 自宅は精肉惣菜店を営んでいる、どこにでも転がってるフツーの親父。聖人君子でもなければとりたてて極悪人でもない。
ある朝、この親父は自分ではそんな気はなかったのに、ユダヤ人一家を独軍に引き渡す為の時間稼ぎに一役買ってしまったのだ。自分は密告者のつもりはないのに結果的に密告者の役割を果たしてしまった親父・・・胸は少々痛むものの、日々の生活に忙しいし、何より密告の見返りに生活が断然優遇されるようになって家族が大喜びしているのを横目で見れば、そんなに悪い気はしない。親父はユダヤ人一家の事なんてすっかり忘れてしまうのだ。
実際この時代のパリ市民の感情はこんなだったんだと思う。 裕福な生活を営むユダヤ人とは住む世界が違うと思っているパリ市民。ユダヤ人とはご近所さんでも全く交流はないが、独軍のユダヤ人狩りはちょっぴり気の毒な事だと思っている。 そしてなるべく自分達はそういう戦争のゴタゴタに関わりになりたくないと思っている人が大部分だし、中には戦争特需にあやかろうと積極的に独軍に接近して、甘い汁を吸おうとしていた輩もいた事だろう。
バティニョールおじさんもそんなどこにでもいるありふれたパリ市民の1人。 ユダヤ人の子供「シモン」をスイスに逃亡させようとしたのも、「溢れ出る正義感」なんていうカッコいいもんじゃない。多少の厄介払いの気持ち、多少の同情、多少の罪悪感、そして多少の成り行き・・・そういう当たり前にある人間の感情の積み重ねが、バティニョールおじさんの心をいつしか突き動かしただけなのだ。
ユダヤ人少年「シモン」は、上流階級の子供としてきちんとした教育を受けたいかにも「利発なブルジョワの子供」として描かれているが、この手の映画にありがちな「同情を一身に集める健気で可哀相なユダヤ人」という役割はしていない。 シモン少年は、自分達家族が収容所送りになったのはバティニョール親父の密告のせいだと思って恨んでいるし、親父の事を「気持ち悪い肉をさばいて飯を食ってる胡散臭い野郎だ」くらいに思っている(笑) でも、収容所を逃げ出した自分をかくまってくれたのもこの親父だし、ご飯を食べさせてくれた上にスイスに逃亡するのを手伝ってくれるのもこの親父・・・そんなに悪い人じゃーないんだろうなぁ、くらいにも思っている。
ここら辺りの表現って非常に微妙なサジ加減だと思うんだけど、この映画は「パリ市民だから」「ユダヤ人だから」という民俗のカテゴリで分けずに、あくまでも「人間の感情」を大切にしている所が非常に感じがいいです♪
ナチス×ユダヤ人を題材にした映画というのは、直ぐに「ナチスは悪い人達、ユダヤ人は気の毒な人達、そしてユダヤ人を助ける人は聖人君子」という安直な記号に当てはめがちだけど、実際はドイツ人だってユダヤ人だってパリ市民だっていいヤツもいれば根性のひねくれたヤツだっていたでしょう。 そんなの当たり前な事なのに、どうして既存のこの手の映画は人種でキャラクターを分けてしまっていたのでしょうか?
いつの時代でも、どこの国の人でも、人間の感情というのは概ねこんなモノなのです。 いいヤツもいれば悪いヤツもいる。人の心の中だっていい気持ちだけじゃない。 そんな当たり前の気持ちの積み重ねと交流・・・ありふれた人間のありふれた感情のありふれたドラマが、実は1番面白くて感動出来るんだというのを教えてくれる。
実に気持ちのいい、見た後に優しい気持ちになって思わず微笑んでしまう・・・そんな質の高い作品。
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