a Day in Our Life
結局、どっちでもええんやろ?と中間は言った。
中田大智の事である。今、目の前にいる相手の腹の底を探ってみる。年若くして(自分だってまだ十分に若いのだが)関西ジュニアの中ではやや風格が漂いつつある未来の仕切り役は、目指すポジションに必要な表裏を身につけようとしていた。 だからMCとして、中田が今一番尊敬してやまないという村上信五の事は、敬愛を感じているというが、尊敬なのだか愛情なのだかはっきりしない。その証拠に彼の言う”憧れの先輩”は時どきで呆れるほど変化して行くのだ。 要するに、憧れはあくまで目標であり、越えるべき照準である。彼らは絶対ではなくて、だから移り変わりをしていくのかも知れない。中田の中で、確実な地位を築く事がないのだ。 では、村上はどうだろう?と中間は思う。 中田にしては珍しく、思いつめたような顔をする。必死な目線を向ける。それは、自分も同じだからよく分かる。例えば村上を挟んだ両端から、同じ目線を向けるお互いと視線が絡む。はっとすると同時に、安心もする。一蓮托生ではないけれど、恐らく手強い相手に挑む、自分達は一種、戦友のような。中間にとって中田は、そういう意味で認めた相手だった。 けれど、と最近思う。 中田にとっての”村上信五”は、どのような存在か。 例えば、濱田崇裕。 濱田といる時の中田は、不思議と雰囲気が柔らかい気がする。本人が自覚しているかは分からないけれど、何か険しい顔をした中田が、濱田の姿を視界に認めて、表情を和らげる。入所日も同じ、すぐに同じグループの初期メンバーとして現在まで、変わらず共にあり続ける。他より少し密接した関係が、彼らをそうさせているのかも知れない、と思うけれど。 やや斜に構えて世の中を見ているイメージの中田が、濱田にだけまっすぐな目線を向けるのを、不思議な気持ちで見る。らしくないと言えばらしくないし、実はそれが一番らしい姿なのかと思えば、そうなのかも知れないとも思えた。 だから、問うてみたかった。些細な興味であったけれど。 中田にとってより大事なのは、村上なのか?濱田なのか? 「そんなの、どっちでもええやん」 淳太くんには関係ない話ちゃうの。と、突き放したような答えが返る。中間を前にして、機嫌がよければ笑うけれど、愛想笑いをする事はない。だから、中間の前にした中田は、常に素の姿を晒していた。 「そう言ってしまえばおしまいやけど。単純に、興味が沸いたから」 村上が今、中田の中で神聖視されているのは知っている。逆を言えば中田にとって、どれほど濱田が大事なのかを知りたかった。 「さぁ…どうやろ」 どちらだ、と言う事も出来たし、どちらでもない、と言う事も出来た。だから中田は、 「別に淳太くんでもええんやけど?」 そう言って薄笑いを浮かべてみる。そんな答えが中間を喜ばす気がして。 「俺はお断りやわ」
言葉とは裏腹に、中間は満足そうに笑って見せた。
***** 甘受松竹紺お疲れ様記念。
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