The World


僕の世界は
掌に収まるけれど
少しはみでて
そこが少し
痛い

のどあめ


街路樹の陰から
人のようなものが
半分だけ
はみ出ていて
手招きするので
怖くなって
目を瞑ると
吸い寄せられ
息を吐きかけられる
気配が
半分だけ
して
口を
こじ開けられて
のどあめ
のような丸いものを
突っ込まれる
それは
熱く
焼け爛れた
のどあめ
のようなもの
蒸発して
気管から
蒸発して
空に
舞い上がる
半分だけ
残る
私と
結合する
手招き

ガムテープ


最初に手を縛ってはいけない
まずは目隠しをする
髪も一緒に巻くと絡まって取りづらい
それから口を塞ぎ
足を縛り
手は最後
ぐるぐる巻きにする
これで準備完了
簀巻きにされた姿を見ながら
一服してみる

中国系の人たちは
すぐに逃げ出せないように
着ている服を脱がせ引き裂いてそれを巻きつけたりするらしい
合理的だが
全然スタイリッシュじゃない

とりあえず何を盗ろうか考える
最初に盗るものは決まっている
ガムテープ
次の仕事のために

パステルエナメル


象はいなくなる
象牙はなくなる
色彩だけが残る
パステルエナメル
象牙色の未来に
墓場はあるのか

クラッシュ


壊れゆくものはとても美しい
なんてあたりまえのことを叫んだりはしない
毎日が間違っていく過程だとすれば
それはとても正しいことに違いない

壊れる
という状態を恐れない
恐れない、という状態が一番恐ろしいことを
誰もが気づいていない

（すでに壊れているものが多すぎるので）
（知ったものはすでに壊れているので）

ときどきには「私」の話をしてみたりもする
それはもしかしたらいつもかもしれない
「君」にとっては
それは同じことなのかもしれない
もしかしたら
私も君も

（そういえばあれはどちらが私だったのだろう）



命題１
何をもって壊れていると定義するのか



世の中（あるいは私以外の何か）にはよくわからないことが
それはもう喩え話をするまでもなく散乱していて
輪廻のスピードに耐えられないものたちがそれを
鼻歌混じりに踏み潰していく
粉々に
壊れていくこれは喩え話なのでしょうかそうやって
はぐらかされて
よくわからなくなっていく



命題２
定義したとして、その定義が壊れていないことをどのように証明するのか



ときどきには
美しいと叫んでみたりもして
それはもしかしたら
いつものことで
私も君も廻り続ける世の中の
残骸の瓦礫の
欠片を補い
私も君も
逸脱しながら
「君」という概念の
美しさに間違いながら

MD


MDというとふつうミニディスクなんだけど、
ごめん。
俺は、メガドライブ。職業病。

はさみ


切れ味が良くても
切るものはそんなにない

紙とか
髪とか
焼肉も切れるけど
縁は切れない
手首も切れない
せいぜい
刺すくらい
刺すほうが早い

合わせ鏡


鏡を合わせて道を作ると
奥から歩いてくるので
ちょうど出てくる瞬間
鏡を逸らして捕まえる

「帰してください」と泣いているが
とりあえず監禁する
9年ほど監禁してみるが
「帰してください」とまだ泣いているので帰さない
鏡はそのまま
もう合わせることはない
あちらでは
もう諦められている

ナンバリング


番号で
管理されても
輝くものは
輝いている

ハーモニカ


ここだけの話
ひげ部とふえ部が合併して
ハーモニカ部ができたのさ
だから部長のハーモニカ
あんなに艶やかな音色なんだよ♪

√


割り切れないものを√で示すことにする
√あなた
√人生
√愛
これらの√は使い古されている

時々は割り切れるものもある
√仕事
√生活
などが有名

√詩
の答えは？
これが今日の宿題

あなたの左手


薬指の付け根に舌を這わせる
あなたは黙って
煙草を吸いながらそれを許す
それから
第１関節と第２関節の狭間
指の腹を舌の先で舐め上げながら
上目遣いにあなたを見上げる
あなたは目を瞑っている
だからもう一度
薬指の付け根に舌を這わせ
指輪を抜き取る
指輪を抜き取って
上目遣いにあなたを見上げる
するとわたしの髪を撫で始めるので
涙が出てくる
泣きながら舌を這わせる
口の中で指輪をもてあましながら
この後わたしは抱かれるんだと頭の隅で考える

シャム双生児


人生を受け止めることにおいて
何も変わらない
何も違わない
それどころか
私たちは独りぼっちだ

幾度かの空襲を逃れた街なので
道は乱雑に敷かれている
路地と路地が出会う場所で
いくつかの立ち話が行われる

（太くなる／細くなる）路地の揺らぎ
（昼の／夜の）求心力
立ち会う人の数は会話の濃度に影響を与え
時々には
空襲の話も出る
時々には
空襲の後の
整地の話も

そしてまたいつものように
幹線から外れた路地の裏では
電気信号になれない情報が渦を巻いている