| 2003年03月31日(月) |
14.ビデオショップ |
お薦めソフトを買ったらビデオの代わりに豆腐が入っていた。店に戻って文句を言うと「それでいいんです」と店員が言うので仕方なくビデオデッキに豆腐をセットする。ヌルヌルしているがかまわず再生すると一瞬、顔のようなぼやけた映像が流れてすぐにデッキが火を噴いた。再び店に戻って文句を言うと「デッキに入れちゃったんですか？」と呆れた顔をされる。「なんで豆腐をデッキに入れるんですか？ 豆腐は食べ物ですよ」「パッケージに入ってたから…」「入ってても豆腐は豆腐です」「ここ、ビデオショップですよね？」「そうですよ。ビデオショップで豆腐売っちゃいけないんですか？」
何も言い返せなくなった
仕方ないのでもう一本購入した
（親切な店員は割引してくれた）
帰り際、「ちゃんと醤油かけてくださいね」とその親切な店員は言ってくれたが、なんか納得がいかない。しかたないので店員の顔を思い浮かべながら豆腐を食べる。店員の顔は少しぼやけていた。
深夜番組
4本の腕を持った赤ん坊が泣いている
部屋は暗く、広さが
よくわからない
シーツは清潔そうで一見病院内に
見えなくもない
4本腕の赤ん坊は成長し始めている
足も含めて6本なので
他の赤ん坊よりも“はいはい”が早いと
ナレーションが入る
赤ん坊はそのまま夜の屋外へ出て
成長し続ける
“はいはい”のスピードが速くなる
夜は寒く、赤ん坊は素手素足のまま
“はいはい”のスピードが速くなる
“はいはい”のまま速くなっていく
途中でカメラが追いつけなくなり
赤ん坊は夜道を消えていく
CMに入る
シーンが変わり
赤ん坊は住宅街を“はいはい”している
地を這う虫のように素早く動き
ドアをひとつずつノックしていく
カメラはそれを追いきれず
カメラマンもナレーターも疲弊したまま番組が終わる
と同時に
私の部屋のドアを
ノックする音が聞こえる
ガードレール
山道のガードレールには血糊が付いていて
取れなくて
「そこは出るんだよ」と誰かが言っていて
こびりついていて
なめてみると埃の味がして
夜になって
誰もいなくて
寂しいけれど
離れられなくて
時々人が通るけれど
呼びかけると
逃げていく
仕方ないので
血糊をなめている
ずっとここにいる
柔らかい殻
揚子江の上流に見慣れない生き物がいて
現地の人は成人の儀式にそれを食べる
雨の降る夜はいつも
腹の中で卵が孵って
鼻の穴から糸が
するすると
巻き付いて
柔らかな
殻になる
殻の中は暖かいらしく
雨の降る夜はいつも
まるくなって
うずくまって
夫婦は抱き合って眠る
ひとつの殻に入るので
婚姻を結ぶことを現地では
「同殻」と呼んでいる
幼虫は糞と一緒に出るので
便所はなく
揚子江に垂れ流す
殻は湯で煮て
繊維をほぐして
織物に加工され
市場に出荷される
| 2003年03月15日(土) |
10.トランキライザー |
トランキライザー
病院に行ったら精神安定剤をもらったのでさっそく飼い猫に使ってみることにして細かく砕いて餌に混ぜて食わせたらそのうち動かなくなりそのままずっと全然動かないので安定しているのだなと思ってそう思ったら僕も安定してきた
よく効く薬だ
かみなり
あなたは
かみなりにうたれたように
ふるえていました
ほんとうの
かみなりなんか
うまれていないのに
ほんとうに
そんなもの
どこにもないというのに
パチンコ
★
「パチンコ」でなんか書けと言われて
パチンコなんてほとんどしないので
困ってしまってパチンコ屋に行った
きれいなお姉ちゃんが働いてた
びっくりした
世の中にはまだ知らないことがたくさんある
世の中にはまだ知らないお姉ちゃんがたくさんいる
◆
「パ」の字が光らない電光掲示板
店長は面白がって直さない
郊外のパチンコ店
駐車場はまばら
ヤンキーの溜まり場
店長と仲良し
店長もヤンキー
●
優秀なセールスマンを辞めて
パチプロになった人を知っている
パチプロになっても勤務時間は変わらない
朝、仕事場に行って
夜、家に帰る
朝、行って
夜、帰る
▲
名刺の肩書きはアナリストになっている
ゲームアナリスト
パチンコのゲームもいっぱい出る
アルゼとかサミーとか
泥臭い話もいっぱい聞く
アナリストはそれを分析し
真っ白い場所に置く
アルゼとかサミーとか
真っ白い場所に置かれる
★
お姉ちゃんにびっくりしていてもしかたないので
物語など考えてみる
ヤンキーのたむろう郊外のパチンコ屋
きれいなお姉ちゃんが頑張る
パチプロも出てくる
パチプロは颯爽と出てくる
◆とか●とか
いろいろ組み合わせる
アナリストは出てこない
▲は組み合わせない
アナリストは
分析し
真っ白い場所に置いていく
それがアナリストの仕事
パチンコは分析されるためにある
真っ白い場所に置かれる
毀れた弓
毀れた弓は
矢に寄り添うことができない
射手に馴染むことができない
弓が弓であることを拒み、忘れ
自分が毀れていることを知らない
私は弓ではない他の何か
私を弓と定義するのは
いつも他人で、私ではない
毀れた弓はそして
自分がもう
何をも傷つけないことを知っている
| 2003年03月11日(火) |
昼、ネギを持った男が |
昼、ネギを持った男が
男の昼はネギで始まると信じているわけでもなかろうに
君は駅のホームでネギを振り回している
君が普段ネギを買えるほどの暮らしをしていないのは
君のその身なりからすぐに推察できるけれど
駅員は遠目から苦々しく観察しているだけで
決して君を排除しようとはしない
その態度が意味することはおそらく
君が金銭授受を伴う正規の手続きによって
そこにいることを許される権利を獲得したということ
今の君には自由が約束されている
ネギを振り回す自由さえ今の君は手に入れている
他人から奇異な眼差しで見詰められる自由さえ
君は享受している
薄汚れた生のネギを食べる自由さえ
手に入れようとしている
君がそのネギをどこで手に入れたのか
それは推測の域を出ない事柄のひとつ
ホームの柱にもたれかかりうずくまり
薄汚れた生のネギの汚れを
薄汚れた君の手の甲で落とす
つもりでさらに薄汚れていくそのネギを
少しずつ
一口ずつ
君は口に含んでゆく
君の目にうっすらと涙が見えるのは
揮発する催涙性刺激物によるものか
それともまったく別の理由によるものか
それも推測の域を出ない事柄のひとつ
長い時間をかけて
君はネギを食べ終わる
駅員を含むすべての他人はすでに君への興味を失い
自分たちの職務及び生活の維持に翻弄されている
（彼らは基本的に実害がなければたいていの事象を受け入れる）
君はゆっくりと立ち上がり
食べられない部分をきちんと燃えるゴミ用のゴミ箱に捨て
そして
ホームがさらに混雑し始める夕暮れ
奇声を発しながら電車へ飛び乗る君へ
彼らは声をかけることができない
声をかける自由を奪われていることに気づかない
| 2003年03月10日(月) |
6.ポラロイドカメラ |
ポラロイドカメラ
数分の後に
過去が切り取られ
思い出よりも
色褪せない
美化されない
Be careful!
過去のみを写す装置に気をつけなさい
甘美な時間は感光前の黒いフィルムのみが持ち
過去の浸蝕によりそれは
剥がれ落ちてゆく
失われてゆく
釣りをするひと
かわいいとか好きとかそんな
実態のないものを餌にすると
飢えてる人ほど
よく引っかかります
花束とかプレゼントとか
疑似餌（ルアー）がよく効く人もいます
小魚はリリース。
たいてい集団で動いてるので
後をつけると大物に出くわします
小魚についていけば警戒心も緩く
乗り換えるふりをすれば
プライドが満たされるせいか
独りでいるときを狙うよりも
よく引っかかります
釣った後で持ち帰るのなら
定期的に餌を与えましょう
餌を与えないと
愚痴愚痴うるさくなります
餌は市販のもので充分です
ときどき釣ったつもりが
釣られてたりするので
気をつけましょう
マルボロ
マルボロを吸うと
「わかりあえない」ことを思い出す
マルボロ
おまえはアメリカで生まれた
煙は翼となって
知らない街を
爆撃している
マルボロ
おまえは自由の国で生まれた
荒野
生き残れそうにないので
穴を掘って眠ってみるが
呼吸する、その音が邪魔で眠れない
生きている、そのことが
苦しみを産み続けている
階段
踊り場の小人が
陽射しに紛れて泣いていると
「幸せ」という、よくわからないものが
暖かさを抱きしめてやってくるので
階段では
ときどき
「告白」という、よくわからない儀式が
執り行われます
小人を
踏みにじりながら
小人
踊る小人
踊り場で踊らされる
かわいそうな小人のおかげで
ぷかぷか日和
◆
プラスチックの
アヒルの
行列
生まれてこないものは死ぬことができません
◆
「あなた」という言葉が
決して「あなた」だけを示すものではない
という事実が
浮かぶかどうか
実験してみる
「あなた」
もう一度
「あなた」
◆
川に沈んだものが
浮かんでくるかどうかも
実験してみる
「あなた」
もう一度
「あなた」
◆
プラスチックのアヒルの行列
生まれてこなかったものたち
浮かんでるのにね
光ってるのにね
クレヨン
絵を描くと
絵になるけれど
その人を描くと
それは絵にならないまま
くちづけてみると
苦かった
クレヨンの味しかしなかった
さんさんと よるべなく うたうたい さすらいの ほうろうの
むねに なまめかしく はびこる やまに かわに たにぞこに
いつまでも なすすべもなく つづくのは それは いつまでも
そのように なりたいと あのように ありたいと ゆめをみる
らいらっく あれはらいらっく のような ひとときの ゆめが
のきしたで ねがえりをうつ まさに そのときを ひるがえす
しゅんかん うたうたいは めざめ よるにめざめ さまよえる
たび はじまり べつのたび おわり であって しまうのです
であって おわり はじまる それは さむいそらのした そう
あのさむいそらのした あのさむいそらのしたでであってしまう
いくつかの わかれみち めを つむり むねに しまい たび
たったいま はじまる わかれではなく わかれみちを すすむ
いつしか はじまりつづける おわりつづける うたを おくる
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アクロスティックです。
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