猫を拾った。
目つきの悪い猫だ。
拾ったというのは不正確かもしれない。本当はただの近所をうろついているノラだ。
ただ、一階角部屋、俺の窓から手が届く地面に皿を置いただけ。
煮干なんて大層なものは無いから、コーンフレークを一掴み。
気がつくとガツガツ音がして、そいつが一心に食べていた。
窓の縁にもたれて、紐をたらしてやると、じゃれつくのだ。
室内に閉じ込めるでもなく、首輪をつけるでもなく、
しかしそいつは夜になると必ず現れる。
灰色と茶色が混ざった毛並みに、首の付け根だけ白い。
喉を撫でてやると気持ち良さそうに目を閉じる。
あたたかい。あたたかかった。
日曜の昼下がり、コンビニに出るとそいつが後をついてきた。そういえば昼間にこいつを見かけるのは久しぶりな気がする。…仕事だからか。
ん?と振り返ると、ぴたりと止まって俺を見上げた。
「おい。どーした」
にゃーぅ。
「腹へってんのか」
にゃー。
「ついてくんのか?」
なーぅ。
「おい?」
……。
意志の疎通なんてできやしない。まあいいやと徒歩5分、青と白の看板に辿り着く。
サンドイッチとコーヒー。ついでに煙草。河原で寝たいが、それが似合うほど青春してない。
一人寂しく海辺へ向かった。
いや、違った。後ろにあの猫。毛並みもふさふさ、長い尻尾をゆるやかに振りながら。
「お前ついてきたのか?」
なーなー。
「俺の事が好きなのか?」
にゃぅー。
「残念だったな、俺には彼女がいるぞ」
にゃー?
…こいつ今疑問形じゃなかったか?
役立っていないテトラポットの上。隣に猫がちょこんと座った。
「お前目つき悪いなー」
……。
無視された。
飼ったら大家さんに怒られるだろうか。
ノラに餌付けしただけなら平気だろうか。
ていうか日曜の昼間っから猫と海見てる俺ってどうなんだ。
なあ?と問い掛けるのも猫。
「せつねぇー…」
にゃー……。
続く?
黒い服の背中は
大きいくせに
悲しそうで
何を考えているんだろう?
「優しい人だった」
とお前が言う存在を
なくしてもう6年目
泣きそうになるのを
こちらが堪えながら
その背中を見ていた
低く重い金属音が響いて
天に吸い込まれていった
夏のある日遊びに行った
部屋の中
たくさんの星の本
壁にかけられた
星の写真
大きな大きな望遠鏡
全部全部 お前を育んだもの
もういないんだなぁ
きっと嬉しそうに楽しそうに
今度見える箒星の話をするんだ
会いたかったなぁ
これが「いない」ということ
君に会いたいです
会いたいのです
悩みながら服を選んで
鞄に詰め込んで
早起きをして電車とバスに揺られながら
君がくれたバンプオブチキンを延々と聞くのだ
そんな想像をしながら
夏は過ぎ夏は過ぎ
夜風が肌にひやりと刺さり
胸がチクリと痛むのだ
大切な君に 触れられないまま
こうやって一人夜を過ごすよ