僕の、場所。
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僕の、場所。

今日の僕は誰だろう。



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Shall We Dance?

五線譜のストライプをまとって踊る君
直線的な曲線に惑わされて
白と黒に色づけされた音色に惹かれて
僕は
僕は

さあ踊ろう
君の手をとって
神も天使も畏れない
鬼も悪魔も怖れない
さあ踊ろう
誰も知らないリズムで
誰も知らないリズムで

シンデレラチャームも聞こえないほど
無情な鐘なんかに邪魔されないよう
こっちを見ていてよ、ねえお姫様

さあ踊ろう
君の手をとって
誰も知らないリズムで
誰も知らないリズムで


松林の向こう、君の足跡

sea2
海、海。

彼女が愛してやまなかった海。

彼女が好んだのは月の輝かしい夜の海だったが、今は昼。

昼でもないと、私にとって海は怖い存在だった。

自分の目で波の動きや砂浜が見えていないと、背中を向けた途端に得体の知れない怪物となって襲い掛かられそうで、彼女の前でその子供じみた恐怖心を殺すのに精一杯だったのを覚えている。

数日続いた好天気のおかげで、水は透明度も高く空のように藍く青く。

襲い掛かってくる気配はなかった。

海なんていつ以来なのだろうか、かつては二人で来たのに今は一人で。

人目を忍ぶようにそっと凭れかかる髪の香りもまだ覚えているのに。

長い黒髪の女の子がいいなんて古典的だろうか、まあ彼女なら茶色でもショートでも似合うだろうけれど。

カモメが一羽。あの配色は淑やかで良い。

なんてのんびりした空間だろうか。犬の散歩、ランニング、営業回りの車。

缶コーヒーの休憩用がよく似合うような時間の速度。

水平線の向こうに何があるんだろう。澄んだ水に触れたくて、つい。

海に住む魔物は昼寝でもしているのだろう。きっとそれは夜行性。
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その力に魅せられたのは彼女で、それは私の彼女に対する引力より勝っていたのか。

その証拠に私は今も夜の海を畏れて晴れた昼間しかここに来ない。

彼女もいない海辺に一人ただひたすら波の動きを目で追い続ける。

きっとこの向こうに彼女はいる、のだから。


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 咄嗟に出た手は届かなくて。僕は息を飲む。

 つい昨日出会った女の子なのに、もうずっとずっと一緒に居るような錯覚に目が眩む。どうした、しっかりしろ。馬鹿馬鹿しくもお前は今ヤスハラアキトを演じているのだから。さあ行け。
「カヤ! カヤ」
 足を一歩踏み出したカヤは、そのまま地面より十数センチ上に立つ。更に一歩、一歩。カヤと僕の視線が同じ高さになったとき、それはそれは微笑ましくも微笑んでみせた。
「アキトさん、見てください。ほら」
「…鍵」
 ペンダントのように首から下げられた鍵。風にまかれて軽く浮いていた。そして、困ったことに空中に扉。何だよ。分かってたけどこんな事って有って良いのかよ。なあカヤ? それで満足なのか?
「そんな顔しないで下さい、アキトさん…」
 少し上から伸ばされた、僕の頬に触れるか触れないかの距離、カヤの手。
 信じられないくらい臆病に、その手に触れようとするのに。腕が、指が、動かない。
「カ、ヤ」
 ふわり。ふわり。髪が揺れて。ばたばたと音を立てるのは僕の上着。カヤには大きすぎて、丈も袖も余っている。寒いくらいなのに、僕の頬には何故か汗。
 どう、すべきな、の、だっけ。
 …落ち着け。

「カヤ、なあ、僕は」
 僕の声に振り向く彼女の表情すら眩んで見えて。
「僕は、君と生きたい」
「……えっと」
「どうしても、行くのか」
 じっとこちらを見る瞳に圧倒されながら僕は。
 カヤのように登ろうとして、やはり適わず。
 もう残りわずか。

「ごめんなさい」

 ああ、そうか。そうだった。僕は僕でカヤはカヤだった。ほんのり香る夜のように。その名前の通り、もうカヤには触れられることなく。
 僕の目の前からカヤは消える。消える。もう。
「……アキトさん!」
 いつのまにかもう頂上に居るかのじょは。
「ありがとうございました」
 にっこり微笑んで寄越す。頬笑んで寄越す。
 なんて返して良いのか分からないでいる僕を残して、カヤは消えようとしている。
 だって扉なんて彼女と僕にしか見えていない。だって彼女は空に居て。恥ずかしそうにスカートの裾を押さえなければならないような高さで。カヤ、カヤ。僕はなんて。役目を忘れた役者なんてもう要らないのに。




 ふ、と、風が止んで。急に寒さが身を蝕んだ。
 何をしているんだ僕は。
 遠くで誰かの悲鳴が聞こえて僕は瞬きをしてそれから。
 カヤは上空で一歩足を踏み出して、そこには彼女を支えるものは何も無くて。
 もちろん、待っているものは落下しかない。



 君は幸せだったのだろうか。悪あがきをした僕を笑うだろうか。それとも僕の悪あがきすら、君の守りたかった筋書き通りなのだとしたら。僕を残してひとり結末を迎えた君、なら僕はこれから一体どうしたら。

 僕に残されているのは何ページだろうか。
 目を、瞑る。





…終


新生活応援フェア

淡いピンクのジャケットに
春の訪れ感じる街中、交差点
引越しトラック忙しそうに右折左折

今ならきっと、きっとさ
陽気のせいにして
恥ずかしいラブソングでも書けそうだよ
書かないけどね書けないけどね
君への思いがあふれるばかり

言葉になんてならないよ

梅林から淡い香りが漂う遊歩道
ここは
いつ誰と歩いた道だっけな?
引越しトラック迷う意識、右往左往

段ボールいっぱいの思い出と
バックミラーに映る町と
行き先も言わずに旅支度の僕
春、春、春
引越しトラック出発進行

ほら、今年も始まりの季節
誰より君の笑顔を願って


定休日

ふらり
青空に誘われて
靴を履いて階段下りる
マフラーは留守番

ちょっと風は冷たいけど
気持ち良い

すれ違う人
どこへ行くの
どこへ行くの

僕はどこへ行くの

立ち読みしかけの本を探しに
入ったつもりが
B級映画の原作見つけて
ついつい2時間立ちっぱなし

鈴木さんの書いた『ロックンロールミシン』
16ビートでカタカタいうロックミシンは刃持ち
ああ僕も
僕も釦付けでも覚えようか

気が付けば陽が長い
3月
そうか
もう冬は終わるのだろうか
午後6時、藍色の空が美しくて

焼き鳥の匂いがする通り
老舗屋の秘伝タレ
そんないい味の出る女の子と話がしたい

晴れの天気予報
揚子江高気圧
ばいばいシベリアまた来年

どうしようか
定休日定休日

ひとり
ふらり
ふわり
ひらり

のらりくらりと足を運ぶ


過去のこと

「チクリとくるんだよ」なんて

そんな殊勝さ

もっと早いうちに見せてくれてたら

こんなに狂わなくて済んだかもしれないのに



チクリともこないようなら

僕はなんて都合の良い相手でしかなかったのだろうかと

ザクリといきたい所だったけれどね



良心の呵責、とやらが

痛ましくも心地良い

そんな馬鹿馬鹿しいスローモーション



さあ、悪いのはどっちだ?


Sunday―日の日―

一人の日曜日に、身を包む
冷たい空気が僕を責め立てる

お前なんか、お前なんか、お前なんか

成績だとか
能力だとかそんな、さ
くだらないことでなんて
人生変わらないんだよ

そんなこと分かってるけど、でも

起きられなくて
ただ何度も寝返りばかり
溜息ばかり、もう何度目だろうか
ルームメイトは今日もデートか
おめでたいことで
ただ純粋に良いなぁと思ったり

僕は一人だなと
改めて思ったりして

お前なんか、お前なんか、お前なんか

届かなかった想い
何度も思い出して悲しくなる
予定のない日曜に
あのコは何をしてるだろうか

ほら起きろ、起きてみろ、いい天気だ
こないだ買ったばかりの靴が
玄関で出番を待っている

ほら、いい天気だ
冷たい空気の中で一人
生きていこうじゃないか


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 手を、つないでいた。隣に少女。僕の服。制服のひだスカート。素足に靴下。まだまだ幼い顔つき。時々不安そうに、時々愛らしく。…これは。この情景は、誰かが僕に与えたものなのだろうか。答えは「応」らしい。僕は僕だが、僕のものじゃない。誰かの意識内で生まれた僕には自由がない。それはこの隣にいる少女も同じ。そして、彼女は結末を迎えたいと望む。

 歩く。特に何も考えていない。ただ、何かに誘導されるように足が勝手に進む。よく知った町なので困らないし構わない。曲がり角や交差点で、時折カヤが僕の方を見てはどちらに進むのか尋ねる。ちょっと考えて僕は指差す。
「…多分、こっちだと思うんだけどね」
「多分ですか?」
「きっと」
「えー」
「おそらく」
「そんな…」
「…大丈夫だよ」
 手を、ぎゅぅ、と。少し強めに握って。小さな手、白く細い指。
 この年端もいかない少女が、カヤが、数時間後に迎える結末を僕は知っている気がする。だけど分からない。知っているんだけど思い出せない、見えているのに見えない、認識できていない、頭の中に幾重にも薄い帳がかけられたような変な感覚。僕は。僕は。

「アキト、さん」
「ん」

 ほら。いつの間にか僕はただっぴろい草原に立っている。カヤと二人で。言ったろ、大丈夫だって。吹きさらしの広場は一段と寒く、周りの喧騒も少ない。ここは何処だっけ。この町にこんな場所あっただろうか。切なく枯れた薄茶色の波が揺れている。辺りの民家から、そろそろいい匂いが漂い始め、空がほんのりと暮れかけている。
 一陣の風が、ふわりとカヤの髪を揺らす。ふわり。ふわり。寒いのに寒さも感じないくらい神秘的。けれど少し不安そうな表情は、やけに現実的で。

 僕は、つい、カヤを抱き締めた。

 ポケットに突っ込んでいた片手で、カヤの髪を撫でる。驚いた瞳が眼鏡越しに見えて。苦笑を零した。
「えと…何を笑ってるんですか、女の子抱き締めといて」
「うん…ごめん。つい、ね」
 本音。特に理由もなく。僕は何がしたいのだろう? つまり、何をすることになっているのだろう? 誰かが呼ぶ。誰かが呼ぶ。ページを捲る。
「私」
 薄い木箱を、僕の胸に押し当てて。カヤが僕から離れる。
「私、行きます」




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204号室

I never be able to give up on you, so never say good-bye and kiss me onece again...

風向きが変わる前に走ればまだ間に合う
胸の中しまい込んだ想いを君のもとに

もう二度と君のぬくもりを ああ 思い出さない

あなたを知ってしまった我儘なこの手
聞き分けのない指あなたを探してる


…………

君がうたう一言一言
誰か
宛てる人でもいるのだろうか

髪を思いきり短くした君

気付かない鈍感さ装って
ピザなんて勧めてみる


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