小説集
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2005年10月11日(火) : お題で作品を書く
 

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何かをくす一歩手前の30祥

11/20 7指きり 追加

まだ温かい
血染め雪
死人花
昔噺ばかりして
帰りたかったな
6臥せり瞼
指切り
8珍しい我儘
真白
10紅い接吻
11
12掻き抱く
13自称自己犠牲
14冷えていく
15懇願
16千代に八千代に
17曲り角に消ゆ
18黒猫
19錆びたかほり
20消える声
21いらないと嘘
22朱い手隠して
23発熱
24これあげる
25曇り空
26背負われた背の温かさ
27今更感
28沈むくれなゐ
29握ってて
30さようなら





2005年10月10日(月) : 1まだ温かい
 

「……生きてるよ、まだ助かる」
グチャグチャになり、意識すらないデイビッド・ボーマンの身体を抱え フランク・ミラーは涙で汚れた顔を、煙草をくゆらすアルフレッド・ミラーへと向けた。
「早く 基地に戻ろう…」
 フィルターぎりぎりになった煙草を地面へと落とすと、汚れ傷ついたブーツでもみ消し 立て寄りかかっていたMG34を抱えなおしたアルフレッドが「何を馬鹿なことを」という表情を見せる。
「再構築しねぇってことは、デイブ自身は生きたいと思ってねぇんだよ
 デイヴですらもな」
「そんな事なんかない!早く…」
「いいかげんにしろよ、「後は灰になるのみ」 だ。我侭にも程がある。お前はデイブの事だと見境がなくなる
 少しは冷静になれ!」
 いくらアルフレッドが怒鳴っても、フランクはデイブを放さず さらにぎゅっと抱きしめ、服が血に汚れる事など気にすらしていない。
 ふるふると首を振ってデイブの血の気のない顔に自分の顔を摺り寄せる。
「まだ温かいよ…… それに、死んでるのならすぐに灰になるよ」
「すぐにそうなるさ」
「なんなんだよ
 なんでそう そうやってすぐに決め付けるんだよ!
 生きてるんだよ 基地に戻ればどうにか出来るんだよ
 それなのに なんで」
「生きてる?それがか?
 俺もデイブも元から生きてやしないんだよ
 人間 いや、化物ですらない 生きてやいないんだよ
 誰も どうにも…」
「ふざけるな!
 デイブだって アルだって 喋って考えて痛みを感じて それが行きてるだよ!!生きてるんだよ
 どうだろうと構わないよ
 まだ温かいんだよ?生きてるんだよ!
 アル… お願いだから  ……俺は アルがそうじゃないって思ったことなんかないよ アルだって、人間だよ
 お願い」
 舌打ちしたアルフレッドは、MG34の確認をする。
 言われたくない事、考えてくもない事、「自分が生きているのか 人間なのか」、そんな事 議論したくもなかった
 俺は 生命体ですらないのだから…
「お前が勝手につれて帰れ
 俺は哨戒しかしない
 俺が撃ちもらした敵は勝手に始末しろ
 途中でくたばろうが、俺には関係ねぇから勝手に帰るぞ」

(終)



2005年10月09日(日) : 2血染め雪
 

恐ろしい

そんな言葉が似合う
ぴったりだよ


冬、
2月といえば、アンジェル共和国の山岳地帯は よほどの事がない限り羊飼いですら訪れないだろう
しかし、アンジェル共和国軍 VHASOFsには関係ない
VHSOFs 吸血鬼狩特殊特別部隊、その中でも「最凶」の異名を関せられているFORTH 10(雲量10 まさしく「最凶」にふさわしく淀んでいるのだ)のメンバーにはあまり関係がなかった
道がなければ自分たちが道になればいい
銃を手に立ち塞がるものあれば排除する
生きるためには生き延びる
捕虜にすら油断するな
後ろを見せれば撃たれる ……it is
彼らの障害になるものは、クソ忌々しい新雪だけであって、それすら乗り越える事などたやすい障害だった
そして、山から国境越えをしてきた軍隊と交戦をはじめたのだ

忌々しい、足を取られるような新雪など 彼には関係ないのだが…

FORTH 10
一見すれば、装備などばらばらでまとまっているような隊には見えない
しかし、各々 自分にとって最良の武装をしており、そうは見えないが息もぴったりで 視線を合わせただけで連係プレーをやってのける
見かけに惑わされ、いくつモノ吸血鬼を葬ってきたのだ
「FORTH 10に出会えば生きては戻れない」
それは嘘ではなかった
そして、その噂の張本人は………
今、最後の吸血鬼の兵の心臓に腕をつきたて 首に噛み付き引き千切った化物…デイビッド・ボーマン だろう
寄せ集め… それは、まったくの間違いとはいえないのだ
間違いではないのだ
本来なら敵である吸血鬼であるボーマンを飼うため、そして 戦場に出て彼の暴走を止めるためあらゆる術者を集めた集団 でもあるのだ

しかし、それもフランク・ミラーがデイブと組むようになってからは変った
フランクは、今まで術で抑えてきたデイブをいとも簡単に ただ抱きしめてやる という方法で暴走しかけたデイブを元の状態に戻してしまったのだから


「…やっぱりデイブには赤が似合う
 特に 血の色は きれいだな」
あまり言葉を発しず、そして感情が表れないボーマンが静かに声をかけたフランク・ミラーへと振り向いた
「汚れたな」
「何が?」
足元の地面を見やる
血で真っ赤になった雪があった
「血染めの雪? 綺麗じゃないか
 綺麗なものは汚すためにあるんだよ」
「じゃぁ 汚れているものは」
珍しく、デイブが問うてきた
相変わらず感情は浮かんではいなかったが、心は葛藤してるのだろう
自分の存在に
「さぁ… 前の汚れが見えないように汚すか、きれいにして また汚すか」
「だったらいい お前が汚してくれれば」
意外な告白に、フランクが驚く
「ヘリが来たようだな
 また雪が降れば見えなくなる
 「またきれいに」なるんだ。そうしたら汚しにくればいい」

FORTH 10が引き上げた後に
死体も何もない
死んでいったのは吸血鬼であり、
残ったものは
赤く 綺麗な 血に染まった雪だけだった




2005年10月08日(土) : 3死人花
 

「嫌な花だな…」
 デイヴィッド・ボーマンが呟く
 亡くなった隊の者を追悼し、皆が引き上げた後も残ったデイブと、そして従軍牧師でありながらも自ら前線へ赴き銃を取り敵を撃つマーティン・エイブラハムは墓地の片隅に咲く花を見た
「…リンちゃんたちのコミュニティの 日系墓地に咲く花だよね
 あっちは こっちと違ってなんだか暗い感じがするよね。あそこには似合ってるけど、こっちには似合わない ね」
 差し出された煙草を受け取り、火をつける
 ボーマンは相変わらずの無表情だし、感情をあらわにする事など滅多にない。そんな人間がつぶやいた言葉 「嫌な花だな…」 何を思っているのかはわからないが、喋りたくなければ喋らなくともいいし、別に 聞こうとも思わない。無言の中にだって会話はある。マーティンはそう思っている
.........死人のための花みたいだ
 きっと、戦闘中のことでも考えているのだろう。自分のせいで死なせてしまった。もっと早く自分が飛び出し敵を殺していれば死なずに済んだかもしれない。そう、自分自身を責め、彼岸花に その感情をたたきつけているのだろう。ボーマンの呟きを聞こえない振りをして、マーティンは牧師用の服のしたから赤い液体の入ったビンを取り出した
「やるだろ?」
 ボーマンの顔に驚きが走る
「…生臭坊主め」
「主の血、命の水 さ」
 グイっと煽ってボーマンに差し出す
「…まぁ、そんなもんなんだろうな」





2005年10月07日(金) : 9 純白
 

リヒャルト・スコルツェニ

白は、婚礼の衣装にして穢されるための色
その白さは高貴でありながらも、
何にでも染まり、どんな色とも交じり合い そしてどんな物にも穢される

その服は、純白であって、
それは皇帝に身をささげる色である。
婚礼の衣装であり、死装束でもある。
まさしく、
皇帝に仕えるものにはうってつけの色
皇帝以外に穢す者はいない

穢したくなる色 それが 白



2005年10月06日(木) : 16 千代に八千代に
 

「永遠なんてものなんか ないさ」
あの男が言った言葉はそんな言葉だったか…

永遠
そんなものはない
わかっているが、人間から比べれば 彼らは永遠に近い

彼はその永遠の世界へといってしまった
「死」ではない
人間と
化け物と呼ばれる「吸血鬼」へと

千代に八千代に生きる存在へと

我々はそれすらかなわない
千代に八千代に

永遠の縁のない、
それでいて求めて恋焦がれる世界へ
彼は行ってしまったのだ

もう、違う時間を生きる存在へとなってしまったのだ



2005年10月05日(水) : 5 帰りたかったな
 

「終わりだな…」
紫煙を吐き出しながら、アンジェル軍VHSOFs FORTH10のエンブレムをつけた、薄汚れた戦闘服を着た男が呟く。
傍らにいた、ヴィルト・イルバン皇国のロイヤルガードの制服に身を包んだ青年が 男の言葉に顔を上げた。
「終わったんですね ようやく…」
すい終わったタバコを地面へと落とすとブーツの先でもみ消し懐からまた新しいタバコを取り出し銜える。

長い沈黙が辺りを包んだ。
聞こえるのは、いまだ抵抗を続ける敵を駆逐する砲撃の音だけ。
その音も、はるか遠くに だった。

「 …帰りたかったな」
「え?」
男の呟きに、青年は声を上げてしまった。
この男が、そんな呟きなどするとは思っていなかったのだ。
「いや、いいんだ。もう二度と仲間の元へは帰れないんだ。
 でもな、俺を受け入れてくれる唯一の場所だったんだ… … 」
男の苦悩が、青年も味わったことがあった。
そして、今でも「帰りたかった」と思うこともあるのだ。

二度と帰れない あの場所へ





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