小説集
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2005年04月19日(火) : 題未定・6
 

飛び起きる
記憶が混乱する

「あ?」
死んだにしては、地獄の中とは思えない光景―自分の部屋だった寝室 が目の前に広がり 記憶が錯綜し めまいがした
そういえば と、首に手をやると包帯が巻かれ、左腕はギブスで固められて動かせなかった。
そして、自分の右手側に見覚えのあるプラチナブロンドの髪を持った子供が顔を背けてスヤスヤと寝息を立てている。
その姿は、そう考えてもデイヴだった。
基地内で、FORTH 10の部屋にいるはずのデイヴだ。
しかし、ここは 捨てたはずの自宅、デイヴはいるはずがない。
この綺麗な髪の人間などそうめったにいるものではなく、アルフレッドが見たことあるのはデイヴだけだし、デイヴはこうやって寝ているところに忍び込んでくるのが好きだった。
上掛けをめくられて寒くなったのか、デイヴはうなると目を擦りながらアルフレッドの方へ転がった。
「…んー アル… アル!目 さめたの!」
急に起き上がり、あわててベットから下りようとするデイヴの腕を アルフレッドは掴んだ。
「ゴメン ね あのね、眠くて さ… アルと一緒だと安心できるから」
しどろもどろ説明しながら赤くなり、アルフレッドが握る手を外そうとする。
こんな時はどうすればいいのか、お高くとまり言い寄ってくる女やなれた女しか相手にしたことがなかったアルフレッドにはわからなかった。
わからなかったが、デイヴの手を引くと自分の胸元へと引き寄せ上掛けをかけた。
「いや……
 っと、このままいてくれ」次の言葉が見つからない。
何故デイヴがここにいるのか、質問攻めにも出来た。いつもなら、無理やり喋らせているだろう。
「俺は… 抱き枕がねぇと寝られねぇんだ」
下から見上げるかたちでアルフレッドを見ていたデイヴがうれしそうに顔を輝かせたが、すぐに曇らせた。
「ねぇ アル、怒ってる?」
もぞもぞと身体を動かし横たわっているアルフレッドと同じ高さまで這い上がってきたデイヴが不安そうに、いつもの様に眉間にしわを寄せているアルフレッドの顔を覗き込んだ。
「あのね、勝手に部屋を出て ここに来たこと。」
アルが方眉を上げると、デイヴが目に見えるほど大きく身体をすくめた。
「ごめんなさい!だって だって アルの…」
子供をあやす様に頭を軽く叩く。
怒りの感情は表現できるのだが、その他の 普通の感情をどう表現すればいいのか分からなかった。
「勝手に決めるなよ。
 俺はもう少し寝たいから、起きたら聞かせてくれ」
そして、もう一度デイヴを引き寄せると アルフレッドはすぐに眠りの世界に入った。



2005年04月18日(月) : 題未定・5
 

アルフレッドの その行為に、気をよくしたハインツは アルフレッドの首に牙をめり込ませたままベットへと倒れこむ。
と、ハインツの身体をまさぐっていた左手が ハインツの右の尻のポケットへと入り そこに入っていた銃を抜き取ると それと同じくしてアルフレッドの脚がハインツの股間を蹴り上げ、呻き 牙が緩んだところを 今度は出来た隙間から腹に蹴りを入れ、ハインツを吹き飛ばした。
「っ!!」
左の首の肉が抉られていた。
吹き飛ばした時に、突き刺さっていた牙が肉をも持っていったのだ。
血が吹き出て 左手は、銃を持てずに落としてしまった。吹き飛ばされたハインツは、ありえない という表情を浮かべながらも 人間の力で蹴ったとは思えないほどの衝撃で痛む体の痛みを振り払い 起き上がろうとしていた。
起き上がられてしまえは 後はない

痛みは …ない
ながれ落ちる血が、自分のもののように思えなかった

落とした銃を動く右腕で拾う。膝をついたというのに 腕を動かしたというのに まったく痛みはない
しかし、銃の反動は 気絶しそうになるほどの痛みをもたらし、体が後ろへと倒れる。
ハインツの心臓を狙ったはずの弾は、見当違いの場所に当り 法儀礼済銀弾ではないただの弾は、吸血鬼ハインツには 何の効果をもたらさなかった
自分の失敗と、吸血鬼へとなるように血を吸われ 今、自分は中途半端な存在になっていることだろう。しかし、そうであっても まだ・・人間であるから どうせもう 助からないという事

…どうせ助からない。俺は父親を殺そうとした
 この家で父親に逆らうとは、死を意味するのだ
 何の手も出されない

倒れても握っていた銃をずりあげ、銃口を頭に押し付けようとしたが その前に自分の視野が暗転した
気を失う寸前に、口の中に 生ぬるい 鉄の味のする胸糞悪い味のする液体が流し込まれた気がするのだが、それが何であるか思い出す前に喉を通り抜け …後は ……声が 誰かの ………



2005年04月17日(日) : 題未定・4
 

お前は、成人・・したならば ヴィルト・イルバンで陛下のもとに仕えるロイヤルガードに入るはずだったんだ
そして… デイヴ様直属の」
「今だって似たようなモンじゃねぇか 俺はあいつのお守りだ
 俺がロイヤルガード?笑える話じゃねぇか ええ?」
屋敷の匂いに、昔から付き纏っていた疼きが蘇ってきた。
どんなに否定しても、自分の中に眠る 吸血鬼ばけものの血が、人間の血を求め 人間の自分の殻を突き破ろうとしている。
「何だ?疼いてきたか?久しぶりだから辛いだろう」
ハインツは面白そうに笑い、右の親指を牙で傷つけ 血の滴る指をアルフレッドの眼前へ持っていく。
「飲みたいか?お前は先祖返りだからな …我々の血の方が好みのはずだ」
必死に視線を外そうとするのだが、滴り落ちる赤い液体から目が外せなかった。
ごくりと喉が鳴る
頭の中で押さえつけていたモノが起き出し、ぐらつく自分に囁いている

 ドウシタ のメヨ

 のンダラ らくニナルゾ

くだらない欲求を押し込めようとやっとの思いで目を閉じる。無意識のうちに振り払おうとした右腕を 吸血鬼の力で掴まれた。
「!!」
折れるのではないかというくらいの すさまじい痛みに、悲鳴が出かかる。引っ張られ、引きずり起こされたアルフレッドは、左の首筋に 熱いものを感じた

 ――Shit! Shit Fuck!!

怒りに燃えながらも、血を飲ませれば済むことだと力を抜こうとしたが、何か いつもと様子が違うような気がしたのだ。
ゆっくりと息をする。首に刺さる牙が、奥へ奥へと …奥?
吸血鬼に身体をあたえている今、自分の思考はすべて 血の為に我を忘れてさえいなければ、吸血鬼―父親に筒抜けになっている……はずだ。
急に思考を閉じてしまうと怪しまれる為、アルフレッドは 顔には苦痛の色を浮かべ、心には”逃げたい”という恐怖を浮かべるといった 難しいことをやってのけ、相手を押し返そうとするかのように 両腕で自分の血を貪っている父親の身体を弄った。



2005年04月16日(土) : 題未定・3
 

「何故 俺に固執する」
アルフレッドから取った煙草をくゆらしながらハインツは問いを返す
「何故 出て行った?」
そして、にやりと笑う
アルフレッドも同じ癖がある
相手を問いただしながらにやりと笑う―”答える気はない”というしぐさ
ハインツは、顔を背けたアルフレッドの首筋をなぞる。ぞっとして手を振り払うと、ハインツを睨みつけたアルフレッドが口を開いた
「答えてやるよ
 理由を挙げるとすりゃぁ 息子から血を飲んでまで生きたいとは思わねぇからさ」
アルフレッドの答えを馬鹿にするようにハイツンは笑った
「フン デイヴィッド・ボーマンには与えるくせにか?」
驚きに飛び起きようとしたが、体力は まだそこまで回復していなかった
「陛下には まだ伝えていないさ。お前次第だ
 もっとも、あの方は気付いているだろうが…」
ギリギリと歯を噛み締める。ここにはばれていないと思っていた。しかし、考えてもみろ、この家の事を
この家は何のためにあるのだ?ばれていない方がおかしいじゃないか
沈黙の中、ハインツの持つ煙草が焼ける 微かな音だけが聞こえる
静かに目を閉じ、息を整え考える
目を開いてハインツの方へ首を回すと、ハインツの手の中にあった煙草が一気に燃え上がり、灰へと姿を変えた。
はらはらと舞い落ちる灰を、何の表情もなく眺めていたハインツが、そのままアルフレッドへと口を開いた。
「…デイヴ様が戻る気がないのはわかっている。だがな、
 お前が一緒ならどうだ?



2005年04月15日(金) : 題未定・2
 

「まぁいい …ニコラス下がっていろ」
「しかし 」
ギロリと睨まれ ニコラスは大人しく寝室から出て行った
「さて、邪魔はいなくなったわけだ」
アルフレッドは額に手を置いた。体力も、さっきの水のお陰で少しは回復し、胸のムカつきも薄れつつある。しかし 今はほぉっておいてほしかった
「…いいのか?次は あいつが… ここを継ぐんだろう」
「私はお前をするつもりだったが?
 お前はムラっ気があるが、あいつは感情でしか動かん。」
片腕を立て、口に持っていった親指の爪をガリガリと噛む父親から視線を外す。
嫌な癖。自分にもある、やめようと思っていても いつの間にかしてしまっている癖…
「煙草をくれ」
父親の動きが止まる
「何を言っている」
「俺はもう この家の人間じゃないんだ
 あんたに敬意を払う必要もねぇ あんたの命令を聞く必要もねぇ
 煙草は、あの服の内ポケットだ
 だろう?ハインツ・・・・
息子に名前を呼ばれたハインツは、肩をすくめると ハンガーにかけられてあった アルフレッドの式典用の軍服の内ポケットからラッキーズを取り出し、息子の少し開いた口に入れてやる
「私も1本貰うぞ?」
今度はアルフレッドが肩をすくめてみせた
「一口でいい 残りを吸ってくれ」

続く



2005年04月14日(木) : 題未定・1
 

頭が重い
咽が あつい

…きもちわりぃ

目が醒めたが、一向に 自分がどこにいるのか 何があったのかなど思い出せない
頭痛は、考えることを邪魔するかのように痛み 考えようとする力を奪っていく
咽の熱さも尋常ではなく、焼けるように熱い
いや、焼け落ちそうだ
目も回るし、なにより、胸のむかつきが 今の自分を苦しめる最大の原因だったが、声も出ず 体も動こうとはしない

体を動かす事は まずあきらめて、力を抜いた

 ―俺は 何しに来たんだ どこにいる?

ベットの天井…天蓋は 見覚えがあった
痛む頭を動かすと、吐き気が襲ったが周りを見るために 少しだけ頭を傾ける。たったそれだけでも、吐き気は一気に襲い掛かってきたが、飲み込んだ

 ―んなの、殺し合いの最中の吐き気より よっぽどラク だ…

気分をごまかし、目を廻らす
汗が目に入りしみた
しかし、それがどおした

 ―…自分の へ や? おれは いえに いるのか?

わけがわからん とため息をついたところで 寝室と応接間とをつなぐ扉が開き、男が2人入ってきた

 ― くそ! そうか…

「やぁ アル、お前のへばっている姿は なかなか見られる物じゃないな」
先に入ってきた男がからからと笑い、精一杯睨みつけるアルフレッドの額に手を置いた
「…少し きつ過ぎたか」
「いえ、兄さんには これくらいでも足りないでしょう?
 軍じゃ、好きなだけやってるんだろ?ねぇ 兄さん?」
動きやしない と思っていた足を おもいっきり突っ張ると動いたので、そのまま後から喋った 自分の弟に蹴りを入れる
うまく相手の鳩尾に入ったは入ったのだが、今 自分は体の自由が利かないことをすっかりと忘れていたので、けりが入ったあと、その反動で自分もベットから落ちてしまった
「くっくっく 相変わらずだなアル?
 それにしてもニコラス、お前は本当に…」
「…すいません 父さん まさか動けるとは…」
きっと睨みつけられたニコラスは、口を閉ざした
「さぁて アルフレッド、もう薬は嫌だろう?」
起き上がれずにいたアルフレッドの体を軽々と持ち上げベットに戻した男は、アルフレッドが浮かべる歪んだ笑みの数倍も厭らしい笑みを浮かべ顔を近づけた
声をあげようにも、咽の熱さに声が出ない
鼻をつままれ、半ば開いた口に水が流し込まれる
「ただの水さ」
確かに、父親が こういうことで嘘をついたことは無かった
そのまま、水を食道へと流し込む
「ずいぶんと くたびれてるじゃないか…」
ため息交じりで父親が呟く
まだ声は出なかったが、焼け付くような咽の痛みは治まり、呼吸のたびに痛みをこらえる必要は無くなり 普通に息が出来るようになった。変な事で体力を消耗せずに済むのはありがたかった
特に この家では…
「 …なぁアルフレッド 戻ってくる気はないか?」
父親の問いかけに、後ろにいたにニコラスが抗議しようをしたが 家長である父親に逆らう事など出来るはずもなく、こぶしを握り締めると一歩下がって押し黙った
怒りに燃えるその目は、父親ではなくアルフレッドに注がれていた

そんな弟の事など、気にもせず というより、見えていないアルフレッドは、答えるだけの力で 薬に犯され震える手を上げ 髪を掻き揚げるという行動に移した
じっとりと汗ばんだ髪… かなりの量を打たれたのだろう

脇に立つ男を見上げる
自分より 若い姿の父親に、父親と同じものになった弟
そして、それを拒み 年を取る事を選び 家から出た自分

何を今更…

俺は自ら 放棄したんだ
あの男の命で動き、あの男の利益のために同族を殺すより、
人間として 人間に害を及ぼす化物を殺すほうを選んだ
何があろうと、俺は 人間のままでいいと
例え、デイヴがそれを求めても、俺は人間のままでいいと…

続く



2005年04月06日(水) : ココロ ノ ヒメイ
 

マーティンの部屋の前で別れ、アルフレッド・ミラーは自分の部屋ーVHSOFs FORTH10の宿舎の一番奥 へと足を進めた
新隊員の歓迎会は夜遅くまで続き、切り上げた今は日付も変ってしまい、部屋で待っているデイヴは もう待ちつかれて寝てしまっただろう とゆっくりと廊下を歩いていく
デイヴは吸血鬼のくせに、人間と同じサイクルで生きているせいか お子ちゃまでもあるから、あまり夜更かしは出来ない
もし、求められて抱いたとしても次の日の遅くにしか起きてこない

 ――嫌ではないんだよな…

デイヴといるのは嫌じゃないし、デイブとなんら変わりなかった
違うかもしれないが、違う訳ではない
同じようだが、違う…

考えても仕方がないさ とため息をつき、ドアを空ける
「うっ!」
生臭い臭いが部屋から流れ出る
思ってもみないところから、ありえない臭いが流れ出て 流石のアルフレッドも声を漏らした
 ――デイヴは?
慌てて部屋へ飛び込み、灯りのスイッチを入れる

しばく状況が飲み込めなかった





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Photo : Festina lente
Design : 素材らしきもの の館