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■ 誤認。
「貴方は、」 リノリウムの床に、 刺々しい言の葉が叩き付けられては割れる。 先刻から少年は目の前の人物を一度たりとも正視しない。 鋭利に尖った欠片は白い床に浸透していくのか、 悪戯に足の体温を奪った。 裸足で出てきたのがいけなかった。と、今更思う。 「余程僕の事をお知りのようだ」
此処に自分の生活記録を書くのは久し振りだと想う。 しかし、いま思ったのだが、この配色は踏み締められていない新雪の中、鮮血が飛び散ったような素敵なものだと感じた。 他に言い表すならば椿か。 其方の方が印象は大分良いだろう。 けれど私の思考は何の迷いも無く、前者の方へと直結したのだから仕様が無い。
掌に収まるサイズの精密機械が、けたたましく鳴ったと思えば、其れが目覚めの瞬間なのだから最悪である。 もっと情緒あるような起き方が出来ないものか。 例えば、鳥の囀りとか。 否、そんな微かな音では起きる筈が無いのだから、飼い猫に餌を強請られて已む無く起こされる、というのが関の山だろう。 夜更けまで観ていたヴィデヲの所為もあって、布団から出るのが辛い。 温い。 更に今日は剣道の授業まである。それも昼食前の四限目に、だ。 此処まで条件が揃ってしまったら遣る事は一つだろう、と寝返りを打った。 欠伸を噛み殺すまでもなく深い眠りに落ちればいい。 勿論、学校はサボる。
妹の夢を見た。 一箇月程前から共同生活の輪から抜け出た彼女のスペィスは、消える事も狭まる事も無く、そのままだった。 彼女が居ない事で得られる開放感も、其の幾つかの調度品によって払拭され、適度な圧迫感が与えられた。
再び瞼を開ければ行動開始。疾うに剣道の授業は終っている。 今から登校すればきっと六限には間に合って、滞り無く部活に出れるだろう。 あの忌々しいコォチさえ居なければ、其れはもう快適なのだ。 三十路に近づくにつれて後退して行く彼の髪の毛、中年肥りを知らしめている弛んだ腹部の肉の塊りを思い出してしまった後、今日二度目の行動変更。 文化祭準備の手伝いをしよう。
余りに時季外れな、殆どの学校が試験真最中な中、我が校の文化祭は行われるのである。しかも哀しいかな、呆雑誌にワーストワンと書かれて反論する余地も無い程、つまらないらしい。 其れでも矢張り、行事と云う物は楽しい物だ。 全くもって纏まらないクラスに困り果て、頭を悩ませていた実行委員の相談に乗り、安請け合いをしてしまったのが間違いなのか(いや、後悔はしていない)室内の飾りつけ、遊戯、買い出し、商品の仕入れ、はたまたシフト組みまで仕切らなければならない立場に置かれてしまっていた。 忙しいのは嫌いでは無いし、寧ろ憧れの先輩との交流も増えるという、友人曰く餌もあって、なんとか切り抜けている。 それもこれも、所属している部活の新人戦が文化祭当日と見事に重なっている為、事前の手伝いしか出来ないから、と云う理由が不可ない。 そう、帰宅途中に愚痴を零すのは何時もの事で。此の不満と、発散しきっていない微かな興奮が数多の星に変わったとしてもお天道様は文句を謂うまい。
そして今日も、新しく借りたヴィデヲとCDを手に、一人部屋となった二人部屋へと階段を上る。
昨日と今日と明日で、何処が違うかというならば、精密機械に溜まる履歴とメールの数だけ。
2002年10月30日(水)
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