水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
2002年09月28日(土) |
村上龍『ハワイアン・ラプソディ』 |
せつない話のつもりで読むと、ちょっと違うような・・。 いい意味で、期待を裏切られました。 舞台はハワイ、年老いたスーパーマンのお話です。
頑なに自分のスタイルを守るスーパーマンには、いかに生きるべきかと 問われているような感じ。 「自分のスタイルを守れば後悔しなくても済むんだ」と話すスーパーマン、 カッコいいですーーーー! そうそう、自分のスタイルを持っていれば、余計な物欲に振り回されることなく、 自分に不相応な誘惑に乗ることなく、納得のいく人生を送れそうです。 自分のスタイルを持つ、つまりは、今を賢明に生きるということでしょうか。
「せつない話・山田詠美編」(光文社文庫)第七話は、人生の理法を忘れかけた 人々への人生哲学案内にして、小説の楽しさもたっぷり。
せつなさ:☆☆、しかーし、面白さ:☆☆☆☆☆☆ シャーベットが食べたくなりました。笑
「せつない話・山田詠美編」(光文社文庫)を読み始めてから、いろんなものに 敏感になっております。んー、せつなさ感度が高まるばかりで、目に映るもの、 頬を撫でる風にさえ・・せ、せつない・・あぅあぅ、、秋です〜。
第六話は、『庭の砂場』。短編の名手・山口瞳の世界にふんわり包まれました。 死んでしまった弟の思い出を丁寧に丁寧に語る兄のお話。 生きているときは軽蔑していた弟にも、良いところはあった訳で、兄弟って、 特別な絆なんですね。
この兄が記憶に留めている、幼児の作った詩に、ドキッ! 子どものつぶやきは、真実をまっすぐ見据えていて、ハッとさせられることが あります。そして、無駄な飾りがないから、記憶に残るのかもしれません。
せつなさ:☆☆☆☆
8月15日、終戦を東北の小さな農村で迎えた小隊。アメリカ軍に引き渡すため、 武器弾薬を集結することになったとき、歩兵砲のカバーが無くなっていたこと から大騒ぎに。豚革のカバーは……。
砲口のカバーさえ、陛下から賜った神聖な武器と考える日本兵たちを、軍隊教育 のせいだと考える冷めた目の「ぼく」は、恋愛なんて馬鹿ばかしいと言いながら、 言葉とは裏腹に、一途な恋をする隊員を温かく見守っているようです。
戦争中に、本当にあったのではないかと思えるようなお話。 「せつない話・山田詠美編」(光文社文庫)第五話は、どんな時代も恋する気持ち は同じだと教えてくれました。
恋が終わったとき、恋が始まる・・言いえて妙です。
せつなさ:☆☆☆
2002年09月23日(月) |
八木義徳『一枚の絵』 |
読んだ後、ひたひたとせつなさの波が寄せてきました。 初めて見た一枚の絵に、郷愁に似たなつかしさを感じる男のお話です。 なぜ、その絵に心惹かれるのか、その男はゆるりと過去の記憶を辿ります。 そして、謎解きが終わったあと、男の胸をよぎるものは……。
これが、どんな絵なのかは、ぜひ読んでみて下さい。 絵を描いたのは、斎藤真一・・と言ったら、美術に詳しい方は想像できる でしょう。 夕暮れの海、すすき野、女旅芸人、などが文章をセピア色に染めていきました。
視覚と聴覚に訴えてくる不思議な小説です。 読んでいるのに、見ているような、読んでいるのに、聴いているような。 「せつない話・山田詠美編」(光文社文庫)の第四話、『一枚の絵』。 静かな秋の日に良く似合います。
せつなさ:☆☆☆☆
ホワンと香水の香りが立ち昇るような作品です。うーん、この妖しい雰囲気は どこかで……!森瑤子ワールドを思い出します。森瑤子のゴージャスな恋の話は、 胸にもたれますが、田辺聖子の『恋の棺』は、それほど濃厚ではありません。
恋の棺・・わかるようなわからないような言葉です。 「われら、山頂の黒き土におほいなる穴をうがち、人知れず恋の棺を埋めむ」 という西條八十の詩を思いながら、19歳の甥と恋に落ちる29歳の叔母。
こ、これも恋ですか?甥と叔母って、なんというか嫌悪感があるんですが!! この叔母、ちょ、ちょっとイヤな感じです。ふたりで食事しているときに、 甥の考えていること、感じていることを、今、こう考えているに違いない、感じて いるに違いない・・って、ひとりよがりですよ。棺に入っているのは甥だけみたい で、むなしくなっていきます。
「せつない話・山田詠美編」(光文社文庫)の第三話『恋の棺』には、せつなさ は感じられず、甥の気持ちを弄ぶ叔母に一抹の寂しさが……。こんな寂しい叔母 との恋はせつないです。ということは・・やはり、せつない話なのかも。
せつなさ:☆☆☆
2002年09月18日(水) |
瀬戸内晴美『けものの匂い』 |
寂しさやせつなさは、感じなければ気持ちは穏やかかもしれませんが、これらの 感情は、生きている実感を知るためのかけがえのないものなのかもしれません。
「せつない話・山田詠美編」(光文社文庫)の第二話は、夫と娘を置いて家を出た ある女の話、『けものの匂い』。 流れていく「私」の身の上にぐいぐい引き込まれていきます。
瀬戸内晴美自身、その人生は波乱万丈。尼僧・瀬戸内寂聴(じゃくちょう)の 人生として、TV「知ってるつもり」で紹介されたので、ご存知の方も多いのでは。
動物園で身を寄せ合う二頭の虎の描写が、ずんずん胸に迫って、ヒトも動物なんだ とふっと哀しくなりました。
せつなさは、寂しさに限りなく近いけれど、全く違うもののようです。
せつなさ:☆☆☆☆
2002年09月14日(土) |
吉行淳之介『手品師』 |
せつなさをキーワードにした短編集「せつない話・山田詠美編」(光文社文庫)の 第一話です。せつない話といったら、山田詠美の『天国の右の手』(「贅沢な恋 愛」収録・角川文庫/2002.4.13記)が私的には一番なので、「山田詠美編」にまず 惹かれました。あれほどせつないお話を書く山田詠美が選んだ日本と欧米の14編。 しばらくの間、極上のせつなさに浸れるでしょうか。
手品師・・これが、マジシャンだと違った印象になりますねー。 うーむ、タイトルからもせつなさが香ります。 少年が、酒場で働く少女に手品を見せるお話。命懸の手品の裏にあるものは……。 その手品に立ち会うことになった倉田が偶然知った少女の秘密は……。
倉田の最後の呟きが、巧く効いています。 真面目な少年を見つめる世慣れた小説家・倉田には大きな存在感があります。 誰もがくぐりぬける場所があり、過ぎてしまえばなつかしい時期なのですね。 (ほら、あの頃は若かったね〜って、思い出すことあるでしょ?)
せつないという感情は、心の成長の過程で芽をだしてくるものなのかもしれません。
せつなさ:☆☆☆
昨日、尾河直哉氏の講演会に行ってきました。 サン=テクジュペリの「星の王子さま」についてのお話だったのですが、 この作品がなぜ人を惹きつけるのか、少しわかったような気がしました。 大人の童話といわれる訳も。 子どもの頃に読んだきりで……という方は、もう一度読んでみて下さい。 子どもの頃には気づかなかったことを発見すると思います。
講演会の帰り道、星空はすっかり秋。 素敵な本と出会いたくなりました。
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