水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。


2001年12月28日(金) 2001年のまとめ

本日も水野の図書室においでいただき ありがとうございます。
明日から1月4日まで図書室はお休みです。今日は、2001年の図書室総決算を
したいと思います。とは言っても、オープンが11月19日ですので、読んだのは
35作品でしかないのですが・・笑 その35作品から・・



     ≪年末年始のお休みに、何か読みたいときの おすすめ≫


はらはら泣きたい時・乙一著『天帝妖狐』(集英社文庫)
  (タイトルに「哀しみの」をつけると読者数と売上げは倍増するでしょう)

ポロポロ泣きたい時・乃南アサ著『デジ・ボウイ』(新潮文庫『家族趣味』収録)
  (来年は乃南さんの新作がケータイ配信。乃南さんの年になるでしょう)

怖さに浸りたいなら・新津きよみ著『同窓生』(角川ホラー文庫)
  (この本、ほんとに怖いので、気分が悪くなることもあります)

強い父親とは・鈴木光司著『闇の向こう』(幻冬舎文庫『生と死の幻想』収録)
  (映画『仄暗い水の底から』鈴木光司原作・中田秀夫監督・黒木瞳主演は
   1月19日公開。『リング』から4年。おもしろそう・・)

人を恨みたい時・宮部みゆき著『十年計画』(文春文庫『人質カノン』収録)
  (一時の気の迷いで早まってはいけませんよ〜景気回復してほしい!)

寒い夜には・山本文緒著『おひさまのブランケット』(集英社文庫)
  (『プレミアム・プールの日々』とエッセイのおまけつき♪)

旅行ですか?南の島に持っていくなら・・(北の山へのスキーツアーでもOK)
     スティーヴン・キング著『スタンド・バイ・ミー』(新潮文庫)
  (ビーチもゲレンデも日差しが強いので、ホテルで読んでね)

       * * * * * * * * * * * * * *

そして、来年、ドラマ化してほしいのは・・

     唯川 恵著『22歳、季節がひとつ過ぎてゆく』(幻冬舎文庫)
     
        ☆ 高視聴率が期待できます。脚本家は新人をお願いします!


   

     いつもご愛顧いただき ありがとうございました。
     来年も 水野の図書室をよろしくお願い致します。
     みなさま 良いお年をお迎えください♪




                            See ya !
                             
                                水野はるか









2001年12月27日(木) 山本文緒著『プレミアム・プールの日々』

昨夜、寝る前に一気に読みました。
山本文緒さんの『プレミアム・プールの日々』。'87年下期のコバルトノベル大賞
の佳作となった作品です。(コバルトノベル大賞は'96年よりノベル大賞に改称)

14年前の作品ですが、今、ネット小説を読んでいるような感覚でした。
文中の「サザン」も「郷ひろみ」も「デニーズ」も健在だからですね。作品に
ハヤリものを入れるのは、10年後、20年後を考えると危険ですが、そんなこと
ちっともかまわないよ〜というサッパリとした流れ、そして文章はとてもイキイキ
としています。

物語は、高校三年生の僕のひと夏の思い出です。
市営公園の中にある小さなプールで監視員のバイトをした夏。バイト仲間の
春夫、理恵、奈緒子との楽しく輝いていた日々。ひそかに好きな奈緒子が、妻子
ある男とつきあっていることを知って悩んだこと・・

作者の巻末エッセイがあるのですが(盛りだくさんな文庫です!これで495円♪)
この作品は、その頃つきあっていた人とケンカ別れをして、突然予定があいた
ゴールデンウィークと週末に生れて初めて書いたもので、今読むと下手すぎて
茫然自失だと・・。

確かに、昨日の『おひさまのブランケット』は10作目だけあって、(わお!
2年で10作!少女小説、恐るべし!)安定したリズムを刻みますが、(ひゃあ〜
えらそうなこと言って、山本文緒様、申し訳ありませーーん! 汗・・汗)
『プレミアム・プールの日々』の方が好きです。(おっ!山本さんご自身も
『プレミアム・プールの日々』に好感を持っている、と。)

読み終えて、まず、これを書いた人は(まぁ山本さんとわかってはいますが)
どんな人だろうと思いました。ほかの作品も読みたくなりました。
これが、『プレミアム・プールの日々』の魅力です。

山本文緒著『おひさまのブランケット』(集英社文庫)収録の『プレミアム・
プールの日々』は71ページ。作家志望の友人が書いたばかりの小説を読ませて
もらっているかのような23分。
奈緒子がとてもかわいいです。

監視員のバイト、きついけど、楽しいことも・・ぜひ、読んでみて下さい。

そして、山本文緒さんは、この作品から14年後の今年、直木賞作家に。















2001年12月26日(水) 山本文緒著『おひさまのブランケット』

昨日の唯川恵さんは、'84年に『海色の午後』でコバルトノベル大賞を受賞し、
デビューしたのですが、'87年に『プレミアム・プールの日々』がコバルトノベル
大賞佳作となり、デビューしたのが、山本文緒さんです。

山本文緒さんは'92年に少女小説から一般文芸に移行し、'99年のベストセラー
『恋愛中毒』で吉川英治文学新人賞、そして2001年の今年、『プラナリア』で
直木賞を受賞されました。

今日の『おひさまのブランケット』は、集英社文庫で読みましたが、これは
'90年の作品ですから、コバルト文庫の復刻版です。

あとがきで、山本さんは、野球を見るのが好きで、高校野球もプロ野球もどっち
も同じように好きだ、というようなことをおっしゃっています。
なるほどー。どおりで、物語の最初と最後は野球場です。
作者の好きな世界を描いているので、スルスルとなめらかに読んでいけます。
山本さんが楽しそうに書いている様子まで見えるように。

野々子と周太郎は高校三年生。幼なじみでお互いになくてはならない存在です。
周太郎は野球部でキャッチャーです。念願の甲子園出場を果たしますが、一回戦
で負けてしまい・・

甲子園に出るということは、選手たちの環境をがらりと変えてしまいます。
全国から届くファンレターやプレゼント、学校には毎日他校の女の子が告白に
やってくる・・って、大変ですね〜なんとなく想像できますが・・。

まじめな優等生タイプのピッチャー、咲坂君は、迷惑なんだ!!と女の子たちに
怒鳴ってしまいますが、お気楽な周太郎はファンレターやプレゼントを野々子に
うれしそうに見せに来るあたり、ほほえましいですね。

そして、プロ入りした周太郎と咲坂君。野々子は周太郎を追って上京し、予備校
に。そこに、周太郎に好意をもつ女子高生、美衣子が現れ・・・

おひさまのブランケット(毛布)・・それは、野々子が子供の頃をなつかしむ時の
景色です。おひさまの下で、男も女も意識することなく、一緒に遊んだ日々には
戻れない・・そして、何があっても好きな人を柔らかく包むブランケットで
いたいという気持ちでもあるのです。

野々子と美衣子の間に生まれる友情が、とても気持ち良く描かれています。
周太郎と咲坂君にはハラハラさせられっぱなし・・。

山本文緒著『おひさまのブランケット』(集英社文庫)は189ページ。
ビバ!高校野球!ビバ!青春!の50分。
「おひさまのブランケット」・・心に残る暖かい言葉です。

この本には、『プレミアム・プールの日々』が収録してあります!
大賞ではなかったので、雑誌にも掲載されなかった作品です。
で、明日は『プレミアム・プールの日々』を、とパラパラ見たら、面白そうー♪
寝る前に読んじゃお〜

じゃ、また明日!






2001年12月25日(火) 唯川 恵著『22歳、季節がひとつ過ぎてゆく』

クリスマスの夜、読んだのは唯川恵さんの『22歳、季節がひとつ過ぎてゆく』。
ホラー、ミステリー、狂気ときましたから、この辺で恋愛小説がほしくて。
クリスマスですし・・ 笑

征子、早穂、絵里子は、同じ大学・同じ学部の仲良しです。
両親を早くに亡くし、叔母からの仕送りとバイトと奨学金で暮らす征子。
平均的なサラリーマン家庭の早穂。社長令嬢の絵里子。家庭環境がまるきり違う
三人ですが、気が合い、何でも話せる仲です。

学生時代の友人って、いいですよね〜。
利害関係なく、対等につきあえます。まぁ、こんなことに気づくのは、卒業して
からですが。

大学最後の年の初夏、三人はそれぞれ新しい人生を模索し始めます。
征子は照明インテリア会社でバイトに励み、早穂は公務員試験に備えて図書館
通い、絵里子はいつも飛びまわっています。

そして、絵里子の婚約をきっかけに、三人の仲が少しずつ変わっていくのです。

この婚約者が、クールで、いい感じですーーーー!!!
どんなふうに、いい感じかは、ぜひぜひ読んでいただきたいです!
わたしが今年読んだたくさんの小説の登場人物の中で、このカッコ良さは、、、
ベスト3に入ります〜♪

    会えて幸せ・本城圭一郎さま〜♪

「愛は感じるものじゃなく積み重ねるものだ」
本城さまのこの言葉、こころしておきますっ!!

物語は静かに女の嫉妬をさぐっていきます。
本城の女性関係を密告する電話が、思わぬことに・・・

征子の恋人もからんで、いかにも恋愛小説の装いなのですが、甘くもせつなくも
ありません。それは、この三人の女性が、恋人以上に友情に目を向けているから
でしょうか。傷つき悩む彼女達は痛々しく、考えることで成長していく様子は
読んでいて、うれしくなります。

唯川 恵著『22歳、季節がひとつ過ぎてゆく』(幻冬舎文庫)は242ページ。
若さゆえの痛みに胸をぎゅっとつかまれた65分。
過ぎた日々は、まぶしいです・・・


唯川 恵(ゆいかわ けい)さんは、1955年生まれ。
銀行勤務を経て '84年、『海色の午後』でコバルトノベル大賞受賞、デビュー。
『彼女のきらいな彼女』『愛には少し足りない』『泣かないで パーティは
これから』など、主人公が、幸せを模索し成長する物語が多いように思います。

しつこいようですが(しつこい!)、本城さま、女なら誰でも、恋に落ちそー
セリフもしぐさもたまりません・・


 











2001年12月24日(月) 乃南アサ著『指定席』

クリスマス・イブにご用意したのは、『指定席』です。
乃南アサさんの短編集『悪魔の羽根』の最後の物語。
この作品だけが、季節をモチーフにはしていないようです。

とりたてて特徴のない津村弘。いつでも物静かで、淡々と仕事をする彼は、端然
と「そこ」にいるような人です。

いますいます〜。こういう人。友人に話すときに、どんな人?って聞かれるのが
一番困るタイプですね〜・・「フツーの人」としか言えなくて。

津村の唯一の楽しみは、仕事帰りに、いつものコーヒー店に寄って、いつもの
席で、いつものコーヒーを飲むことなんです。その席は、カウンターの一番右端。
津村が密かに気に入っているウェイトレスは、毎日同じような時刻に現れる津村
に、「指定席」のようにこの席を確保してくれています。

ある日、津村がその店に行くと、いつものウェイトレスの姿がなく、新しい
ウェイトレスが。津村は、このウェイトレスに反感を持つばかりでなく、自分の
指定席に他人が座っていることに我慢できずに・・・

ラストで、ゾゾッときました。怖いです。
もう一度読んだら、ゾゾッは増幅してゾゾゾゾッに・・
世間では、事件の犯人が捕まった時に、その知り合いが「ごくフツーの人です。
目立たない人でした・・」などど容疑者について話すことがあります。
そんなことを思い出しました。

狂気とは、誰もが無縁のようでいて、実は、誰もの心の奥底で息をひそめている
のかもしれません。

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)収録の『指定席』は28ページ。
身近にいる目立たない人を考えた12分。

あとから、じわじわ怖くなりました。








2001年12月23日(日) 乃南アサ著『悪魔の羽根』

毎日、寒いですね。クリスマスは雪になるでしょうか。
「雪月花」という言葉があるように、日本の冬の景観の大きな要素である雪は
小雪、細雪、深雪、粉雪、風花、六花など、たくさんの美しい名前を持っていま
すね。わたしは、雪が好きです。きれいで、幻想的で見ていて飽きません。

今日は、乃南アサさんの短編集『悪魔の羽根』からいよいよ表題作『悪魔の羽根』
です。美しい雪が、心を追い詰めていくものにもなる、そんな物語です。

そうそう、この文庫本にかけてある帯は衝撃的でした。
「降りこめる雪が、狂気に駆り立てる」・・そ、そんなぁ!!雪深い地方で
暮らす人はみな、精神のバランスをくずすのですかぁ〜!!?
そんなことないですよね〜 

主人公は、フィリピンから日本にやってきたマイラです。マイラは、大学で
日本語と日本の歴史を学び、日本に来ました。長崎で通訳をしている時に、
銀行員の夫、卓也と知り合い結婚。二人の子供にも恵まれ、宮崎で幸せに暮らし
ていたのですが、卓也の転勤で新潟へ引っ越します。

マイラと子供達は初めて雪を見た時は大喜びしますが、南国育ちのマイラは、
かつて経験したことのない寒さと毎日降る雪に、日に日に全てが面倒になり、
苛立ち、憂鬱になっていきます。

初めて雪を見た時は「小さな天使」と洩らしたマイラでしたが、それが
「悪魔の羽根」に見えてきたとき・・・

なんだか息苦しい話です。雪で遊ぶ夫と子供達を苦々しく思うマイラは、
かわいそうです。南国育ちには、あまりに違う環境です。ムリもないのかも。
そして、マイラの変貌ぶりは、どんどん凄みを増していきます。
この変貌ぶり、さすが、乃南作品です。帯に偽りなし、です。

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)表題作の『悪魔の羽根』は38ページ。
自分にとっては、なんでもないものでも、人によっては狂気の元になるのかなと
気づいた15分。

わたしが雪が好きなのは、冬生まれだからですね。たぶん・・


    












2001年12月22日(土) 乃南アサ著『秋早』

水野の図書室、オープンして1ヶ月が過ぎてました。← 今 気づいたとこ 笑
結構、読みましたねー ほとんど短編で、30分あれば一話がゆっ〜くり読めます
ので、お気に入りのものがありましたら、書店でお買い上げの上、じっくり読んで
いただけたらと思います。

さて、今日は、乃南アサさんの短編集『悪魔の羽根』の五つ目の物語、『秋早』
(あきひでり)です。

夏休みが終り、秋の行楽シーズンまでには間があろうという時期に、寛子は中学
時代を過ごした土地をひとり訪ねます。もとは、ささやかな避暑地だったところ
が、今では、ちょっとしたリゾート地になっていました。

寛子は9年前、27歳の時に、夫を車の事故で亡くし未亡人に。今は、10歳年上の
平田と不倫の仲なのですが、この先行きのない関係に苦しみ始めていたのです。

う〜〜ん、不倫じゃなくても、人と人とのつながりは、そうそう楽しいばかり
じゃありませんが・・・。

寛子は、泊まっているペンションの畑で働いている男が中学時代にほのかに思い
を寄せていた名取だと知り、不倫を清算して、名取にすがろうとします。

!!なんてこったい!!寛子は積極的です。名取を食事に誘い、瞳に力をこめて
彼を見つめたりするのです。不倫から抜けたいから必死なのかな〜
も、もしや、このまま、ふたりは・・と、こっちもソワソワですぅ。。

ところが、名取はすっかり酔っていて、車に乗ると寝てしまい、寛子は・・・

不倫を否定するつもりはありませんが、(いろいろ事情があると思うので)
「私はどうなるのよ!」とか、相手にぶつかるのは、どうかと思います〜
かと言って、相手の家庭を壊すつもりも、妻の座を乗っ取るつもりもないという
のですから、、、まったく、どうしたらいいのさっ!!でしょ、これ。

この物語、オチがついて終わるのですが、なんだか、このオチが無理につけた
感じです。オチがなくても、味わい深いのに・・最後でマンガチックになって
しまいます。読者はわがままですねーオチをほしがるくせに、なくてもいい、
だなんて。

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬社文庫)に収録の『秋早』は38ページ。
不倫がそんなにつらいなら、さっさと別れちゃえ!と言いたくなった15分。
やっぱ、不倫は良くないよ〜 どう、思います?












2001年12月21日(金) 乃南アサ著『水虎』

乃南アサさんの小説を読んでいると、登場人物の表情やしぐさが見えるようです。
心理描写が克明で、作品全体が緻密だからだと思います。
今日読んだ物語では、靖孝と圭介の二人の話し合う声までもが、行間から洩れて
くるようでした。短編集『悪魔の羽根』の第四話『水虎』(すいこ)です。

靖孝は、水泳教室でコーチをしています。実際は、スキューバ・ダイビングの
インストラクターが本業なのですが、外国の海で潜るための資金を得るため
水泳教室での仕事も大切にしています。

ある日、同じ高校を卒業した圭介が、靖孝にダイビングを教えてほしいとやって
来ます。俳優を目指している圭介が受けるオーディションの条件に、ダイビング
があったのです。靖孝は圭介のためにできる限りのことを教え、わずか二週間で
自由に泳げ潜れるようにしてやったのですが、圭介は役に不満を持ち、自分から
オーディションを蹴ってしまうのです。靖孝は傲慢な圭介を懲らしめようと、
夏の終りの海に誘い・・・

タイトルの水虎とは、靖孝が祖母から聞いた話にでてくる魔物のことです。
お盆が過ぎたら海に入ってはいけない。水虎が人を海に引き込む、人の舌を食って
しまう、と幼い頃に聞かされていたのです。

この水虎の話がまったくの迷信でなかったことを思い知らされる靖孝と圭介。
二人の心のゆれが細やかに描かれています。
うーん、海を甘く見てはいけません。人の気持ちをもて遊んではいけないです〜

ところで、水虎のような迷信には祖先の知恵がしのばれます。
土用波が立つ頃の突然荒れ始める海で、水難事故を防ぐため、海を畏れさせる
ために生活から生み出した伝説の魔物なのでしょう。

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)に収録の『水虎』は38ページ。
人の心の危ういゆれにドキドキした15分。
迷信だからといって、笑ってすまされないこともあるんですよね。

とても神妙な気持ちで読み終えました。








   


2001年12月20日(木) 乃南アサ著『ハイビスカスの森』

乃南アサさんの短編集『悪魔の羽根』は、日本の四季がモチーフになっています。
『はなの便り』は春、『はびこる思い出』は梅雨、そして今日の『ハイビスカス
の森』は夏の物語です。

恵一と萌木(もえぎ)は恋人関係です。結婚の話を早くすすめたい恵一は、萌木
の親友に頼んで、彼女に代わって萌木と沖縄旅行に行きます。
目的地は、慶良間(けらま)諸島、座間味(ざまみ)の海。
羽田で顔を合わせた時の不機嫌さを忘れ海ではしゃぐ萌木に、恵一はやるせない
気持ちになります。
ペンションにいっしょに泊まっていながら、萌木から、嫌らしいことをするなと
言われているんです。

んー・・、萌木の気持ちがイマイチ、わかりません。恵一はつらそう・・

三泊して帰るはずが、台風の急な接近で船は欠航し、島は孤立状態に。
仕事を心配する萌木は恵一にあたり、とうきび畑でとうとう大ゲンカをしてしま
います。激しい風雨の中、ペンションに戻った恵一は、萌木が戻ってないことを
知り、雨の中へ・・

この物語、前半が退屈で、読むのをやめようかと思ったのですが、まぁ、もう
少しもう少しと、なんとか読みました。短編の強みですね。
後半は、急に話が重くなります。萌木がオトコ嫌いな理由も解き明かされていく
のですが・・

うーん、これ、わたし的には、つかみどころがなくて、楽しめませんでした。
挫折本のカテゴリーには入れたくないので(乃南さんのファンだもん♪)、
読み終えることを目指した感じです。はふぅ・・ため息。。

解説では、と後を見たら、文芸評論家のおなぎ治宣(はるのぶ)さんは、この
作品については、なんと一行しか述べていらっしゃいません。
「『ハイビスカスの森』では台風を怖がる恋人の深層心理を主人公が解き明かす」
こ、これは、もしや、解説しづらかったのだろうか・・?

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)に収録の『ハイビスカスの森』は
38ページ。読み終えて、ため息の16分。
いつもいつも、面白いとは限らないですね。あ、わたし的に面白くなかっただけ
ですから、ぜひ、読んでみて下さい。

いっそのこと、慶良間諸島のガイドブックテイストで話を展開した方が
引き込まれたかもしれないです。

こんな日もあるさー♪ ← 常に前向きな水野です 笑











2001年12月19日(水) 乃南アサ著『はびこる思い出』

乃南アサは、のなみアサです。のなん、ではありませんのでお間違いなく。
最初に間違って覚えちゃうと、修正が難しいですよね。← 自分のこと 笑

今日は、『悪魔の羽根』の二つ目の物語、『はびこる思い出』を読みました。
あとから、じわじわくるこの感情は、うーん、何とも言えません。
怖いとは違うし、笑える話でもないし、泣かなかったし、感動でもなく、
!物語を楽しんだ!というところでしょうか。良かったです〜

結婚したばかりの美加子と聖吾は、傍目には、ごく普通の夫婦です。
スーパーに仲良く買い物に行ったり、聖吾はお風呂を掃除したり、コーヒーを
入れたり・・

美加子は、こんなのが夢だった・・って、ハンドルを握る聖吾を見つめます。
はぁ〜?そんなのが夢なんですかぁ〜?ふたりでスーパーに行くことが?なんて
読みすすんでいくうちに、そうでしょそうでしょ・・夢だったのね、と
わかってきます。

梅雨の季節。クローゼットに入れたままにしていた美加子のアルバムがカビ
だらけに!優しい聖吾は、写真を蘇らせてやろうと、写真店を回り、1/3ほどの
写真が再生されます。その中に、美加子によく似た女が赤ちゃんを抱いている
写真があり、それを見た美加子は・・

もう、めちゃくちゃ聖吾が優しいですーーー!!
美加子には、幸せになってほしいですーーー!!
美加子のしたたかさは、すごすぎ!ここまでいくと、あっぱれ!と気持ちいい
ですね〜。

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)に収録の『はびこる思い出』は
40ページ。女のしたたかさもここまでくると、気持ちいい13分。
聖吾は、このことを知ったら驚くでしょう・・
世の中には知らない方が幸せということもありますねー そうそう。。

奥さまのこと、すべて知っていると思ったら大間違い・・




2001年12月18日(火) 乃南アサ著『はなの便り』

乃南アサ著『家族趣味』の次に選んだ本は、『悪魔の羽根』です。
これも乃南さんの短編集です。裏表紙には「狂気に駆り立てるさまを綴る心理
サスペンス」・・七話収録です。順調に一日一話読むと、最後の物語はイブの
日に読むことに。まぁ、こんなイブもいいかもしれません。(どんなイブ?笑)

『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)から第一話は『はなの便り』。

恋人、優香子とのデートを楽しみにしていた岳彦に、今日は会えないという電話が
かかってきました。突然のキャンセルに苛立つ岳彦。
その三日後、彼のもとに、事情があってしばらく会えないという優香子からの
絵葉書が届きます。けんかをしたわけでもないのに、理由がわからず、不安より
怒りの方が大きくなっていく岳彦。

うーん、かわいそうですね〜岳彦。
彼女から電話はこなくなるし、かけても留守番電話じゃ・・彼女、一体、どう
しちゃったんでしょう・・?

ある時、彼女にかけた電話に「もしもし」とハスキーな声が返ってきます。
それは従姉妹で、ときどき部屋の空気を入れ替えに来てるのだとか。
そして、会社に電話してみると優香子は毎日きちんと出社していたのです。

彼女が彼を避けるのは・・
とうとう彼は彼女のアパートの前で待ち伏せします。
そこで彼が見たものは・・

彼女に何があったのか・・あったんです!
ここでは、教えられないけど、ネ ← なんだか すごい意地悪な感じ、やん。

この物語、わたしはラストを予想できました。ビンゴ!は快感ですね〜
このラストは、春ならではですね〜 ← 大ヒント!

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)に収録の『はなの便り』は38ページ。
恋する男のひとを応援したくなった14分。

巧みにはられた伏線!乃南さんのファンになりそうです。



  ☆新潮社最新情報・新潮ケータイ文庫☆

2002年1月開始のezwebを皮切りにケータイ向けのコンテンツ配信サービス
が始まるそうです。乃南アサ、服部真澄さんの新作連載小説、星新一さんの
ショートショートを配信予定とのこと。詳しくは
こちらへ


  










2001年12月17日(月) 乃南アサ著『家族趣味』

家族って、何でしょう?
ひと言では言えないけれど、それは大きな存在で、大切なもの、そんなふうに
思っています。

乃南アサさんの短編集『家族趣味』の最後の物語は、表題作『家族趣味』です。

カコは36歳。夫と中学生の息子がいながら、仕事をバリバリこなし、恋もする
パワフルな毎日です。週に一度は11歳下の英樹とデート、もう一日は一緒に
仕事をしている坂本とデート、土曜は陶芸教室とスカッシュに行き、水曜は
英会話へ。その間に女友達と食事をしたり、残業・出張もこなすんです。

仕事も家庭も全てが趣味、楽しくてしょうがないと言い切るカコ・・って、
イキイキしてます〜(輝いてるとは思えませんが)← ヤッカミかにゃ?笑

カコの家族は、お互いを名前で呼び合ってます。
息子はひろくん、夫は亮ちゃん・・息子が母親をカコと呼んだり父親を亮ちゃん
と呼ぶのには目がテン!(古っ!)
プライバシーを尊重して、お互いの生活を干渉しません。

恋人を持ちながら、今の生活を壊すつもりのないカコは、夫に甘えたり息子を
外食に誘ったり、時々、気まぐれで家族であることを楽しみます。

うーん、これが、家族が趣味ということなのですかぁ〜?
家族三人揃って、食事をすることがないなんて、不自然で奇妙に映るのですが。
夫はともかく(なんて、夫に悪いけど)、中学生の息子の朝ごはんはどうなって
いるの?と考えるわたしは、カコにはなれないですね〜笑

そして、楽しくて楽しくて、というカコの人生はまっさかさまにストンと落ちて
しまいます。乃南さんの容赦ない落とし方には、心臓がバクバクしました。

乃南アサ著『家族趣味』(新潮文庫)の表題作『家族趣味』は68ページ。
こんなラストが待っていたとは・・の29分。
家族が趣味、なんていう人がいたら、ぜひ読んでほしいです。
家族を大切にしないとバチが当たります!



この短編集は五話収録でしたが、どれも傑作です。476円は超お買い得〜☆
明日は・・まだ考えてないんです。明日の夕方、書店で探そっと〜♪
じゃ、またね。











2001年12月16日(日) 乃南アサ著『デジ・ボウイ』

本日も水野の図書室においでいただき ありがとうございます。
急に改まった書き出しになりました。気がついたら多くのカウントに緊張して
います。

今日は、乃南アサ著『家族趣味』の四つ目の物語、『デジ・ボウイ』です。

父親の仕事の関係で海外で暮らしていた直樹は、高校受験を翌年に控え、ひとり
帰国し親戚の家に居候することになりました。
父の弟にあたるおじさん一家のその家は、おばさん、寛子姉さん、中三の彰文、
小学生の結季ちゃんの五人家族です。
直樹は同い年の彰文がいることがうれしかったのですが、彰文はいつも無表情で
笑うこともなければ、怒ることもなく、学校の様子を話すこともしません。

タイトルの『デジ・ボウイ』は彰文のことですね。
直樹は彰文をロボットみたいな奴と思い、彼の無味乾燥な性格に苛立つように
なっていきます。

そんなある日、結季ちゃんが頭を怪我して帰ってきます。
この出来事が、直樹と彰文の人生に大きく関わることに・・

読んでいて、ぐいぐい引き込まれました。
複数の登場人物に、同じひとつのエピソードについて別々の対応をさせることで
個性の差を際立たせることができるのですが、乃南さんが直樹と彰文に用意した
数々のエピソードは、どれも説得力のあるものです。
最初の「パンツの出来事」には、うひゃあ〜!!でしたが・・

そして、無感動なデジ・ボウイ、彰文が直樹にしたことは・・

乃南アサ著『家族趣味』(新潮文庫)に収録の『デジ・ボウイ』は52ページ。
まさかのラストは予想できなかった20分。
このラスト、これもある意味、大ドンデン返しです。

ラストで泣いてしまいました。
ポロポロ泣けて、どうしようもありません・・


    彰文!なんで こんなことをしたの・・
    涙が止まんないじゃん・・









2001年12月15日(土) 乃南アサ著『忘れ物』

小説を読み終えた時、「驚いた」という思いが飛び出すことがあります。
わたしのこの「驚いた」には二種類あって、どういう発想からこんなストーリー
を考えだしたのだろうかという驚きと、小説にはこんな書き方があるのかという
驚きのふたつです。ストーリーで驚くより、書き方で驚く方が衝撃が大きく、
作家の名前も忘れられないものになります。

最近では、乙一著『夏と花火と私の死体』に驚きました。
すでに読まれた方ならおわかりかと思いますが、この作品は、殺された「わたし」
の一人称によって、物語はすすんでいきます。冒頭部で死体になった9歳の女の子
が自分の死体がどこに運ばれ、どんな状態なのかを実況するかのような書き方は
この作品を強く記憶に刻みました。'96年ジャンプ小説・ノンフィクション大賞
の大賞受賞作です。

そして、今日再び、驚く作品と出会いました。乃南アサ著『家族趣味』から『忘れ
物』です。解説で、柴門ふみさんが、「悔しいと唸らざるを得なかった。小説とは
こんな技をきかすことができる表現形式なのかと羨ましくなった。とにかく見事で
ある」、と絶賛しているように、短編ながらもラストの大ドンデン返しに声もでま
せんでした。

ストーリーは、極めてわかりやすい社内恋愛ものです。
美希の上司、本橋課長は仕事もできて人望もあります。課長に憧れる美希は
頼まれるより先に、自分から課長のためにコーヒーを入れに立つことが楽しい
くらいです。「課長の今日のスーツ、素敵ね」なんて、女子社員にささやかれる
本橋課長。嫌みにならない程度のほめ方、心に傷を残さない程度の叱り方を心得て
いて、話し方は爽やかで歯切れよく、微かな香りを漂わせ、細かな気配りを決して
忘れません・・

いいですね〜こんな素敵な上司!僕のことかな?なんて、思ってますか?笑

この課長、接待では、いくら飲んでも決して乱れず、座は盛り上げても下品
にならず・・って、すごいですね〜他の課の人から、自分の上司の良い評判を
聞くのは悪い気はしません。わかりますわかります。

ある日、異動で若い男性社員がニューヨーク支社からやって来ます。
坂口隆弘、30歳すぎで独身です。途端に女子社員の視線は坂口に向けられ、
美希も坂口が気になります。美希がひとりで残業しているときに坂口が
書類を取りに戻り、それがきっかけで、ふたりは密かにつきあうようになり・・
(こういう設定、安易で好きじゃないのですが・・)

課長と美希の間の空気が少しずつ変化を見せ始め、事件は会議の時に・・

この物語はドラマ化はできません。漫画にもできません。
なぜかは、あまりに大技がきいた小説だからです。

乃南アサ著『家族趣味』(新潮文庫)に収録の『忘れ物』は54ページ。
ラストに、おお!!も わお!!も忘れてポカンとした20分。
小説でしか、この物語を楽しむことはできません・・

乃南アサ作品、面白いのに、世間では地味な存在のような・・
宮部みゆきさんにライトあたりすぎではないでしょうか。
もちろん、宮部作品は素晴らしいですが。








2001年12月14日(金) 乃南アサ著『彫刻する人』

寒いですね〜今、読み終えたところです。
乃南アサさんの短編集『家族趣味』から、二つ目の物語『彫刻する人』です。
彫刻家のお話ではありません。自分の肉体を鍛えることにとり憑かれた男の
話です。この「とり憑かれる」プロセスを、乃南さんは巧みに見せてくれます。

川口恒春(つねはる)、30歳。肉体を鍛えようと思い立ったのは、恋人、可奈子
の何気ないひと言だったのです。
「富士山」・・下半身に向かうにしたがって、妙にむっちりとした肉をつけて
いる体型を、可奈子はこう呼びました。急に太ってきたのを自覚している
恒春は水泳を始めます。

水泳、いいですよ〜全身運動です♪プール通いくらいにしておけば、あんな
悲惨なことにはならなかったのです。

会社の女子社員に痩せたことをほめられた恒春は、自分の身体を美しく造って
いくことを決意し、腹筋運動を日課にします。

ふぅ〜〜ここで、やめれば良かったのにと思わずにはいられません。

寝る前の300回の腕立て伏せ、プロテイン、と美しい肉体造りにどんどん
はまっていきます。可奈子は去り、新しい恋人、純子がすぐにできますが・・
ある朝、一瞬の出来事が恒春の人生を変えることに・・

可奈子と純子が対照的です。
肉体造りよりわたしのことを考えてと言う可奈子と、恒春の身体に触れたがる
純子。どちらの女性とうまくいくかは・・うーん、わかりません。。

昨日の『魅惑の輝き』の有理子は救いようがなく、作者にも突き放されましたが
今日の『彫刻する人』の恒春にも、作者は救いの手をのばしません。
そこが、さっぱりとした読後感をつれてきます。

乃南アサ著『家族趣味』(新潮文庫)に収録の『彫刻する人』は39ページ。
狂気のはじまりは、やはり日常・・にドキッとした13分。
ムキムキした肉体はちょっと・・・です。フツーがいいです〜笑






2001年12月13日(木) 乃南アサ著『魅惑の輝き』

宮部みゆきさんは、'87年に『我らが隣人の犯罪』でオール読物推理小説
新人賞を受賞、デビューし、'98年に『理由』で直木賞を受賞しました。
'88年に『幸福な朝食』が日本推理サスペンス賞優秀作に選ばれ、'96年に
『凍える牙』で直木賞を受賞したのが、乃南アサさんです。
お二人とも1960年生まれです。

宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)の裏表紙には「日常に潜むよりすぐり
のミステリー」とありましたが、書店で手にした乃南アサ著『家族趣味』
(新潮文庫)の裏表紙には「日常に潜む狂気」と!!
ミステリーの次は、狂気の世界を覗いてみましょう。←怖い誘いです〜笑

乃南アサさんの短編集『家族趣味』から、第一話は『魅惑の輝き』。
う・タイトルからは想像できない場面の書き出しで、読むのに気力が必要です。

有理子は、お風呂さえない四畳半一間のアパートでひとり暮らしです。
飲食店で朝八時から夜零時まで働きづめの生活です。夏物のスカートは二枚、
ブラウスは五枚しか持ってないから、朝の支度に悩む余地はない・・って、

そっかー、仕事の時は制服でも、スカート、あと三枚あるといいですね〜
スカートが五枚なら、組み合わせにぐんと幅がでるのにぃ〜着まわしの基本は、
トップとボトムの数を同じにすることなんだけど〜 (オイオイ !)

有理子のお給料は、手取りで60万円以上です。(高給取りじゃないですか!)
もらったばかりの給料袋を古ぼけた布製のバッグに入れて、向かうのは
デパートの宝石売り場です。(バッグも買おうよ〜)

そこで、高価な指輪を買うと、サラ金で借金をします。この繰り返しは、
依存症でしょうか。宝石にとり憑かれ、のめりこんでいきます。
ある夜、仕事から帰り、鍵をかけ忘れて寝転んでいるところを、隣の部屋の
男が侵入し・・・

愚かな女です。宝石は借金して買うものではありませんよね〜
有理子の生活は見てられません。救いようのない女を作者も救いません。
これ、乃南流ですか?心理描写も巧みですが、生活描写もすごいです。

乃南アサ著『家族趣味』(新潮文庫)収録の『魅惑の輝き』は38ページ。
宝石の魔力を知らない自分にほっとした14分。
とり憑かれるって、怖いです・・


☆今夜、晴れていたら 夜空を眺めてみてください。
 ふたご座流星群に会えるかも知れません。





2001年12月12日(水) 宮部みゆき著『濡れる心』

「事実は小説より奇なり」・・これ、誰の言葉だったのでしょうか。
確かに、世の中には、理解できない事件がたくさんあります。理解できない
人もいます。でも、自分の理解なんて、自分の小さな尺度でしかないのかも。
今日の物語は、一文字で表すと『奇』です。ちなみに、今年の世相を表す
一文字は『戦』だそうですね。(by 日本漢字能力検定協会)

宮部みゆきさんの短編集『人質カノン』から、最後の物語『濡れる心』。

その朝、照井和子は、子ども達の騒ぐ声で目を覚ましました。
マンションのリビングルームが水びたしになっていたのです。
上階に住む大学生の部屋の給水管の接合部に、ひびが入ったのが原因でした。

うひゃーー!そんな!!築5年で、漏水ですかぁー?
マンション全体の配管の掃除は高圧力をかけてパイプの詰まりを取り除くので、
配管の痛んだ部分が圧力に負けてひびが入り、漏水を起こすことがあるのだ・・

なるほどー!! マンションの配管、一口メモですね〜

和子は呆然とします。夫の転勤で一家で松山に移り住むことにしたため、
この東京のマンションは売りにだすことにしていたのです。折りしも、
この日はオープン・ルーム。部屋を自由に見てもらおうと不動産やと計画
していたのに・・・。やがて、修理が終り、買い手が見つかります。
驚いたことに、その買い手は謝罪に来たとき反感を持った、上階の大学生
一家でした。そして、その一家には大きな秘密があったのです・・

この秘密が、おおお!!!なのです。← 興奮してます 笑
こんなことって、こんなことって、あるんでしょうかぁ〜宮部さーん!
ラスト4ページで突然明かされる秘密。しかーし、物語のあちこちに伏線が!
物悲しくもあり、奇怪でもあり・・

宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)に収録の『濡れる心』は35ページ。
面白かった〜♪の15分。
この短編集、一番のおすすめです。









2001年12月11日(火) 宮部みゆき著『生者の特権』

小説にでてくる名前が、自分と同じ名前だったことはありますか?
カッコいいヒーロー、ヒロインと同じ名前なら、まあ、いいですけど、
犯人や被害者と同じ名前だったら、気が滅入るでしょうね。

今日の物語の主人公は、田坂明子といいます。そこの田坂さん、ドキッと
しました?読み終えたら、この名前、もっと好きになりますよ。
宮部みゆき著『人質カノン』から、今日は『生者の特権』です。

深夜の街を、明子はひとりさまよっていました。
飛び降り自殺するためのビルかマンションを探していたのです。
結婚を考えていた恋人から突然つきつけられた別れ。彼には他に付き合って
いた女性がいて、明子の知らないところで彼らの結婚が決まり・・
明子は、彼の人生に傷痕を残してやるために、復讐のために死ぬのだ・・って、

早まらないでーーーー!!!
死んだって、彼は罪悪感なんて感じませんっ!!
失恋で自殺されちゃあ、日本の未来はどうなるんですかぁ〜
少子化問題どころじゃなくなります〜

これから自殺するというのに、明子は「手頃なビル」が決められません。
高すぎない方がいいとか、新しいビルがいいとか。
そんな時に、小学校に忍び込もうとしている少年を見つけます。
!放火!だと直感した明子は、少年に声をかけて、身の上話を聞くことに。
彼は小学3年生。教室に宿題のプリントを取りに行こうとしていたのです。
なぜ、こんな深夜に?と尋ねる明子に、彼は意外なほど素直にいじめグループ
に宿題を隠されたことを打ち明け・・って、

     またまた、いじめですかっ!!!!!

『八月の雪』では、いじめグループから逃げる時に交通事故に合った充は
右足を失い、ひきこもるようになりました。
『過ぎたこと』では、いじめグループから守ってほしいという中学生が
探偵事務所にボディガードを頼みに来ました。
そして、今日の物語『生者の特権』でも、いじめが底に!
今日は、小学3年生・・はぁ・・やりきれません。。

明子は少年といっしょに夜の学校へ・・

学校に忍び込んだふたりの様子が、まるで同級生のようになって、なかなか
いいです。学校にお化けがでるという噂をささやきながらの冒険です。
自殺するつもりでいた夜に、たまたま少年と出会ったことで、明子は
本当は生きていたい自分に気づいていきます。

読み終えたとき、勇気をもらったような気が。
宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)に収録の『生者の特権』は49ページ。
失恋といじめの共通点を知った15分。
失恋自殺なんて、つまらないです。自分の人生、大切に・・

それにしても、いじめ関連短編を三日続けて読むことになるなんて・・
うーん、やりきれません。。






2001年12月10日(月) 宮部みゆき著『過ぎたこと』

地味な物語です。ハラハラもドキドキもワクワクもありません。
宮部みゆき著『人質カノン』から、五つ目の物語は『過ぎたこと』。
地味ながらも、味わいがあります。「過ぎたことだから」とつぶやいて、遠くを
見つめるお姉さんの隣に座っているような感じです。
あ、主人公は40代と思われる男性です。 笑

「私」は、探偵事務所の調査員。結婚して20数年。子どもはいなく、妻と
二人暮し。古書店街をぶらぶら歩いて、本を買うのが好き・・

うん。こういう人、いそうです〜
探偵事務所には、まだ行ったことありませんが(これからも縁がなさそう)
ちょっとのぞいてみたい気もします。

「私」は、電車の中である青年の顔を見て、はっと気づきます。
その青年は五年前に事務所にやってきた中学生に違いないと。
その中学生が事務所に来たのは、ボディガードを頼みたいということでした。
彼は学校の外でいじめにあっていて・・って、

   また、いじめですかっ!!!

昨日の『八月の雪』もいじめが底を流れていたのですが・・
彼は「私」にシャツの前を開いて、身体に残るあざを見せ、いじめグループ
のことを話します。
ところが、彼が書いていった名前も住所もデタラメのものでした・・

彼はいじめをどう乗り越えたのかわからないまま、「私」は青年の今の姿に
過去を思います。

うーん、少年側の五年間が知りたいですーー!!
宮部みゆき様。この物語、とっても美味しいスープを欲しい量の半分しか
飲んでいないようで、おかわりしたいのです〜☆

   少年側からの五年間を書いてくださいませんかーーーー!!!

「過ぎたこと」かもしれませんが・・・

宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)に収録の『過ぎたこと』は26ページ。
どんな場面も小説になるのだと感じた8分。

いじめに対して学校側のことなかれ主義には悲しくなります。。












2001年12月09日(日) 宮部みゆき著『八月の雪』

世の中、矛盾だらけです。それが、世の中なんですね。
いきなり、こんなことを言いたくなったのは、この物語を読んだから。
今日、ご紹介するのは、宮部みゆき著『人質カノン』から『八月の雪』。

いじめグループから逃げるため大通りに飛び出したところを四トントラックに
はねられた充。彼はこの事故で右足を失い、自分の部屋にひきこもる毎日を
送っていました。事故後の処理は「事故」で終り、誰にも責任はない、と
いうことに。

文中に「不公平」の文字が何度もでてきます。
充がこの事故に合うきっかけになったのは、同じクラスの飯田君の自殺が
あったのです。いじめに苦しんでいた飯田君は、長文の遺書を残して鉄道自殺
しました。飯田君も彼の両親も、再三、学校に善処を求めたのですが、学校側
は、力にならず、転校をしてはと持ち出す始末だったのです。

「これから先もずっとこんな不公平なことばかりなら、僕はもう生きていたく
ない」・・この飯田君の残した言葉が充の心を打ち、いじめグループを挑発する
ことに。その結果、充は事故で右足を失い、いじめグループは罪を問われず、
楽しく遊んでいる・・

やりきれないです。
早く元気になって、などと励ましたところで、充の心身に受けた傷は大きく、
「不公平な世の中にかかわるのはやめるよ」と言いたくなる気持ちはわかります。

そんなある日、入院中だった祖父が亡くなり、遺品の中から遺書めいたものが
見つかります。充は祖父の意外な面を知り、遺書について調べていくうちに
祖父が歴史的事件に関わっていたことを知ることに・・・

祖父の遺書を通して、生きていくことの意味と価値を見つけていこうと
立ち上がる充の姿はすがすがしく、力強いものが伝わりました。
短編のわりには重いテーマです。

宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)に収録の『八月の雪』は49ページ。
不公平な世の中にため息ついた14分。

世の中で公平なものは、時間と降り積もる雪・・





2001年12月08日(土) 宮部みゆき著『過去のない手帳』

忘年会シーズンですね〜お酒に酔うのは、ほどほどにしてくださいね〜☆
家に帰る途中で、大切なものを忘れてきたりしたら大変ですよ。

12月の寒い日、乗ったタクシーにお財布の忘れ物を見つけたことがありました。
あの時は、驚きましたーパッツンパッツンに張り裂けそうなほど膨らんだ黒革の
大きなお財布でしたから!!ぅ、ぅ、う、運転手さぁぁんん、と、うわずった声
で、わ、わ、わ、忘れ物ですぅぅぅと、そのお財布を運転手さんに。
なぜか、指紋を付けない様に気をつけて両手で挟んで渡しました。 
「運転手さーん、ちゃんと届けてくれましたよねぇ〜」笑

そんなことを思い出したのは、今日読んだ物語が、忘れ物を拾ったことから
始まるミステリーなのです。
宮部みゆき著『過去のない手帳』、これも、宮部ファンでなくても楽しめます。

和也は大学一年生。いわゆる「五月病」で、大学へ行けません。家族に気づかれ
ないように、朝は家を出てアルバイトに行っています。ある日、電車の網棚の
上に誰かが置いていったと思われる雑誌を見つけ、つかんで下ろしかけたとき、
雑誌に青い手帳がはさまれていたのを見つけます。手帳には何も書いてないのに
アドレス帳にひとりだけ女性の名前と住所が書かれていました。

そこで、タイトルが『過去のない手帳』となったのでしょうか。
ひとりだけ名前が書いてあると、気になりますね〜

和也は手帳を家に持って帰るのですが、一週間後にその名前を新聞記事の中で
見つけることになるのです。
その女性の住むマンションで放火事件があったとき、彼女の所在がわからなく
なっていたのです。彼女の失跡に興味を持った和也は・・・

何も書いてない手帳から想像する持ち主像には、どこか寂寥感が漂います。
会ったこともない手帳の持ち主を探そうとする和也は一生懸命で、大学へ
行くことができない後ろめたさと自分への嫌悪感を払拭しようとしているかの
ようでした。

過去のない手帳の持ち主と「五月病」の大学生・・
ふたりとも身近にいそうです。

宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)に収録の『過去のない手帳』は
46ページ。自分だったら・・と考えた13分。
あなたは、独りで生きられるかどうか試そうと思ったことはありますか?













2001年12月07日(金) 宮部みゆき著『十年計画』

文庫本の裏表紙のあらすじを読んで、あ、面白そう〜なんて、本を選ぶことも
ありますが、このあらすじが物語の醍醐味を半減させることもあります。
宮部みゆき著『人質カノン』の裏表紙に、『十年計画』の大事な部分がしっかり
はっきり書いてあるではありませんか!!
こ、これ、・・これを裏表紙に出したら、ちょっと◇○×%です。←口篭ってます

 えっ?早く物語の内容を、ですか?
 はーい!承知いたしました!

わたしと40代半ばくらいの女性の会話ですすむ物語です。
彼女の語る身の上話を聞くことになったわたし。
話題は運転免許から始まりました。彼女が運転免許をとろうと決めたのは
ある人を殺そうと思ったからなのです。

ひゃっ〜〜そんな動機で運転免許とる人がいたら、怖いですー!
そういえば、車は走る凶器なんていいます。
交通事故に見せかけて殺そうなんて!!警察を甘く見てはいけません。
というか、それ以前に他人を傷つけてはいけませんっ!!

この女性、なぜ、その人を殺そうと思ったのか、淡々と語っていきます。

むむむ・・それは、あんまりな話。
同情します。
でも、事故に見せかけて殺しても、そんな状況なら警察は事情を聴きに来る
でしょう。

そして、彼女が考えた遠大な十年計画とは・・・

最後で明かされるふたりの会話のシチュエーションの意外さに、おおお!!!
さすが、宮部みゆきさん。短編も唸ります。

宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)収録の『十年計画』は22ページ。
美味しいエスプレッソを味わったような 7分。
十年って、過ぎてしまうとあっという間ですね・・

裏表紙のあらすじは読まない方が 100倍 楽しめます♪












2001年12月06日(木) 宮部みゆき著『人質カノン』

スティーヴン・キングの作品は、長編が多いですね。
日本で長編が多いというと、宮部みゆきさん。
『模倣犯』『クロスファイア』『理由』『火車』『龍は眠る』などなど、
宮部さんの本のイメージは、“重い”です。内容も本も“重い”。
でも、ご安心を。短編集もあります。気軽に宮部さんの世界を楽しむための
一冊『人質カノン』(文春文庫)から、今日は表題作『人質カノン』。

ミステリーです。
OL 遠山逸子(いつこ)は、忘年会帰りの午前1時、駅からアパートまでの
途中の商店街にあるコンビニに立ち寄ります。逸子を入れてお客は3人。
中間管理職風な男。大きな黒縁眼鏡の中学生の男の子。
「動くな」の声に、逸子がレジの方を見ると、フルフェイスのヘルメット・
黒い革ジャンの男が店員に拳銃を!!

コンビニ強盗です。言うまでもありませんが。
いやですね〜ゆっくり買い物ができません。← まったく他人事

この強盗、お金を奪って逃げるのですが、去ったあとに遺留品が。
これが、なぜか 赤ちゃんのおもちゃのガラガラ。
犯人は・・

なるほど。
犯人がなぜガラガラを落として行ったのか、よーく、わかりました。
謎解き以上に面白いのが、コンビニで人質になった3人です。
逸子は割れた鏡を見て、お気に入りのパンプスでなくて良かった。かかとが
傷だらけになるところだ、なんて考えるんです。
眼鏡くんも管理職さんも、逸子と以前からの知り合いのように打ち解けていて。

コンビニならでは、という面白さと味わいです。
宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)収録の『人質カノン』は46ページ。
身近なコンビニでありそうな、身近で短いミステリーを堪能した13分。
コンビニに入るときは、フルフェイスヘルメットは取りましょう。







2001年12月05日(水) スティーヴン・キング著『スタンド・バイ・ミー』

乙一さんが「現代日本ホラー小説界の若き俊英」として注目されているのなら、
「アメリカ・モダンホラーの旗手」として次々にベストセラーを生み、
映画化された作品も多いのがスティーヴン・キングです。

多くの作品から選んだのは『スタンド・バイ・ミー』。
映画は観ていないのですが、小説を読んだら、映画の方も観たくなりました。

「なににもまして重要だということは、なににもまして口に出して言いにくい
ものだ・・なににもまして重要だというものごとは、胸の中に秘密が
埋もれている・・」
34歳になった人気作家のゴードンが、20年前の帰ってはこない少年時代の日々
を回想して語り始めます。

1959年、アメリカ・オレゴン州の小さな田舎町。
文学少年、ゴーディをはじめとする12歳の仲良し4人組は、ラジオニュースで
知った行方不明の少年が列車に轢かれて死んでいるのではと考え、死体を
探しに出かけます。

クリスの「おれたちが死体を見つけて知らせるのさ!ニュースにでるぜぇ!」
って、一躍ヒーローになりたい年頃なんですねー探し物の冒険なら、死体
じゃなくて他のものにしてほしかったですけど、「海賊の宝」はムリか・・笑

家族には何て言うのかと切り出すテディ、キャンプを装うため自宅の裏庭に
テントを張るバーン。4人がそれぞれ生き生きと描かれています。

不安と興奮を胸に4人は目指す鉄道の線路へ。
線路を歩いているときに汽車が来たり、川でヒルに襲われたりしながら、彼らは
友情を育んでいきます。明るく元気な彼らにも悩みがあり、打ち明けあって
お互いになぐさめあうところはじーんときました。

たった2日間のこの冒険が彼らの心に忘れられない思い出を残すことに。
探していたものは・・・・

スティーヴン・キングの自伝的小説のようでもあります。
ゴーディの文学少年ぶりは随所に。好きな作家の新作が入荷したかどうか
2日おきに店に確かめに行くあたり、感心します。

そして、ゴーディの良き理解者、クリスの言葉は胸を熱くしました。
「いつか きっと、りっぱな作家になれるよ」とゴーディを励ますクリス。
「おまえが会うやつらは、おまえの作品をわかってくれる」
「おまえが聞かせてくれた話は、おまえ以外の人じゃおもしろくないんだよ」
「あんな作品をいっぱい作れるなにかを与えてくれた神さま・・」
「子どもってのは、誰かが見守っててやらないと、なんでも失ってしまうもん
 だし、おまえんちの両親が無関心すぎて見守っててやれないってのなら、
 たぶん、おれがそうすべきなんだろうな」
・・す、すごすぎ!クリス!これで、12歳・・

その後、バーン、テディ、クリスの人生は・・

「少年時代」という歌がありました。井上陽水さんの。
あの歌を聴くと、なんだかせつなくなります。
胡弓奏者のヤン・シンシンさんの「少年時代」も胸に染み渡る曲です。
ヤンさんは演奏会でこの曲を演奏する前に、「ある会に招待された時、先に
ステージで歌っていた合唱団の少年の歌声に、自分の少年時代を思い出し、
涙ぐんだ中で浮んだメロディです」とお話してくださいました。

スティーヴン・キング著『スタンド・バイ・ミー』(新潮文庫・山田順子訳)
は、287ページ。子どもの頃の冒険をふっと思い出させてくれた100分。
原題は『The Body』・・素敵な邦題がついて良かったですね〜
名曲『スタンド・バイ・ミー』同様、小説も名作です。

15ページにわたる「はじめに」には、キングがホラー作家としてのレッテルを
はられることについて、編集者とのやりとりが興味深く綴られています。
当時のアメリカは、ホラー小説だけを書く作家は生活が苦しかったようです。
編集者は、キングに言います。「きみは絶対に成功すると思うよ」
小説を読み終えてから、もう一度、「はじめに」を読んでみて下さい。
 涙がこぼれました・・



スティーヴン・キングは、りゅうごさんに教えていただきました。
りゅうごさん、ありがとうございました。













2001年12月04日(火) 鈴木光司著『無明』

一週間にわたって鈴木光司さんの短編集『生と死の幻想』を読んできましたが
今日はいよいよ最後の物語『無明』です。
無明とは、仏教用語で、煩悩にとらわれ真実について無知であること。
最も根本的な煩悩のひとつです。昨日の『抱擁』からくるりと変わって『無明』。

短編集に収められる小説の順番は、CDアルバムの楽曲順を思わせます。
激しい曲の後にスローバラードがきて、その後はメロディラインがはっきり
している曲がと、飽きさせません。

さて、物語ですが、男は車に妻と二人の娘を乗せ、山道を走って知り合いの
ログ・キャビンを目指していました。
車を運転しながら、かつて山の霊気を感じたときのことを思い出します。
吉野から熊野へ至る大峰山の中腹にバイクを走らせたときのこと。
奥吉野の天川村にバイクで行ったときのこと。釈迦ヶ岳から弥山の
山頂に向かったとき、両足とも義足の行者といっしょになったこと・・

そして、奥駆け修行の修験者たちが唱えた般若心経へと思いを広げます。
「行け、行け、彼の岸にともに渡らん 悟りに幸いあれ」
・・これが、多くの宗教家が捉えている般若心経の締め括りの部分の解釈とは!
初めて知りました。
彼は般若心経を「いかに人生が残酷であろうとも、この世は美しく、生きている
以上は清濁併せ呑むほかない」と考えます。

般若心経を考えながら運転していたからではないでしょうが、道に迷った末に
車は袋小路に・・
そこでとんでもないものを目撃するのですが・・

この目撃を書くために『無明』はあるようです。
いいえ、『無明』のラスト3ページのための短編集『生と死の幻想』です。

家族を守るために、毅然と立ち向かう父親、カッコいいですーーー!!!

鈴木光司著『生と死の幻想』(幻冬舎文庫)収録の『無明』は37ページ。
般若心経にほんの少しだけさらりとふれた10分。
愛する者を守るためには、強くなくてはいけない・・

あとがきで、著者は「どんなに悪行がはびころうとも、死が間近に迫ろうとも
世界は生きるに値するし、常にその覚悟を持っていたいと思う・・」と。
六編の主人公が、妻子を持つ平凡な一市民であることに大きな意味が
あるように思います。
家族を守るために、『無明』の父親が最後に言った言葉がこの短編集の
焦点を表しています。
なんと、父親は言ったのか・・・本を読んでみてください。

明日は、外国の作家を・・お楽しみに!














2001年12月03日(月) 鈴木光司著『抱擁 』

抱きかかえる、という意味ですね・・抱擁。照れますぅ〜
大正・昭和の初めの頃の小説みたいなタイトルですが、これも鈴木光司さんの
作品です。短編集『生と死の幻想』の五つ目の物語。

この物語は、う〜ん、照れますぅーー。
どういうふうに紹介したら良いのか、えぇ〜っと、ちょっと、困ってますぅ〜

昨日読んだ『闇の向こう』は、ミステリー&ハードボイルド風だったのですが
この『抱擁』は、まったく逆です。
登場人物は、男と女です。抱擁ですから・・照れ照れ

離婚したばかりの理英子は、1歳になった娘と二人暮しです。
仕事を通じて五日前に知り合ったばかりの藤村が理英子の家を訪ねてくる
ところから物語は始まります。
理英子の家は清水市。藤村は雨の夜、東京から高速を飛ばしてやってきます。

土曜の夜九時、電話をかけてきた藤村。
「ぼくが今、どこにいるかわかりますか?」← 近所まで来たと言いたいらしい
「雨が降っているのね」← わたしはいつも冷静よと言いたいらしい

結局、理英子は家までの道順を教えて電話を切ると、薄く化粧をし直したり
するんです。突然やって来たわりには、藤村はプレゼントを忘れません。

「理英子は、今晩のことは成り行きに任せようと決めていた」って、これ、
ちょっと、いいのだろうか・・
藤村には奥さまがいるではありませんかっ!!
理英子の娘は耳が不自由で、藤村の2歳の息子は先天性の心臓病で、と
境遇が似ているところでふたりの仲は急速に接近します。

そして、ふたりは夜が明けるまでいろいろ話し込み・・
その四日後、思いがけないことが・・

これって・・不倫、なんですが、不倫小説(ってどんな小説かよくわかりま
せんが)にならないところが、鈴木光司流なのでしょうか・・
不思議な読後感です。

鈴木光司著『生と死の幻想』(幻冬舎文庫)収録の『抱擁』は33ページ。
鈴木光司さんの文学的鉱脈の幅広さを感じた10分。
急に訪ねてこられたら、困ります・・それも雨の土曜の夜に・・











2001年12月02日(日) 鈴木光司著『闇のむこう』

「いたずら電話」は自分には関係ないと思っていませんか?
セールスの電話が煩わしくて、電話帳には自宅の電話番号を載せていないと
いう人もいますが、普段の生活の中で、無防備に自宅の電話番号を記入してい
ることがあります。CDの予約票、ビデオ会員の入会申込書、初めて行った
歯科医院での問診票、美容院のポイントカード、ほかにもたくさんありそうです。
もし、悪意を持った誰かがその電話番号を知ったら・・

鈴木光司さんの短編集『生と死の幻想』から、今日の物語は『闇の向こう』。
面白いです。昨日の『キー・ウェスト』では身勝手な父親に激怒!したのですが
『闇の向こう』の戦う父親に感激しました。。

1DK のアパートから郊外の分譲マンションに移り住んだ深沢良明と妻、絵梨子。
まもなくかわいい女の赤ちゃんが生まれ、新居での生活に家族は満足。絵に
書いたような幸せな生活を送っていました。ところが、そんな生活を脅かす
いたずら電話が・・。いたずら電話は執拗に続き、良明は留守番電話に買い替え
ます。しかし、いたずら電話はエスカレートし、その話の内容は深沢家の生活の
様子に及び、とうとう良明は警察署に出向き、ことのあらましを届けます。

怖いですねー電話魔は、部屋の中を見ているかのような話をするのです。
これじゃあ、家にいる妻はたまりません。

良明は、偶然、電話魔の正体を知る手がかりをつかむことに・・
そして、良明が電話魔にとった行動は・・

ミステリー仕立てがいい感じです。
妻のために、ここまでやる夫が本当にいるでしょうか・・いてほしい!

鈴木光司著『生と死の幻想』(幻冬舎文庫)収録の『闇の向こう』は85ページ。
日常の中の恐怖を感じ、愛する家族を守る父親に感激した27分。

わたしの電話はナンバー・ディスプレイです。便利な機能です。
ナンバー・ディスプレイの申し込みは、局番なしの 「116」
出たくない番号を登録しておくと、着信音を鳴らさずに専用の応答メッセージ
で対応します。ただ、公衆電話を使われると、どうしようもないんですよね〜
迷惑電話の相談も局番なしの 「116」へ




2001年12月01日(土) 鈴木光司著『キー・ウェスト』

昨日の『乱れる呼吸』は息苦しくなるような物語でした。
場所は集中治療室という、一種の密室みたいなところでしたし。
打って変わって、今日の物語は、同じく鈴木光司さんの短編集『生と死の幻想』
から『キー・ウェスト』・・なんて開放的な響き♪集中治療室のあとだけに
この言葉だけで、心が弾みだすようです。

キー・ウェストは、アメリカ本土から最南端の島です。
フロリダ半島の南端からメキシコ湾へと連なる珊瑚礁の小さな島々。
海の上を走るハイウェイ、「セブンマイルブリッジ」はその名の通り全長
7 マイル、約 11 Km。キー・ウェストを愛したヘミングウェイの家もあります。

コバルトブルーの海、ぬけるようなブルースカイ・・
あ〜行ってみたいーー!!キー・ウェスト!セブンマイルブリッジをドライブ
したいです〜ラジオから流れる陽気なリズム・・うるわしのキー・ウェスト!

あ、そこで、物語なんですが、← 突然クールダウン 笑
娘と旅行中の渥美達郎は43歳。4年前に交通事故で妻と3歳の長男を亡くして
います。フロリダ半島をドライブ中に、小島を見つけた達郎は何かに引き寄せ
られるかのように、小島に泳いでいくのです。

車に12歳の娘を残したまま!外国で、英語も十分に話せない娘をひとりにする
なんて!とんでもないお父さんです!!それなりの理由もないのにっ!!

小島に泳ぎ着いた達郎は密林を覗いたり、かつての集落あとを歩いたり・・

だんだん冒険小説のテイストに。ここだけを読んだら、誰が書いた小説か
わからないなぁ・・と思った頃に、

「・・・海底から伸びる海へびを見て、彼は直感的に DNA を思い浮かべた」
やはり、鈴木光司さん、二本の絡まり合う黒いへびに遺伝子の本体である
DNA の二重螺旋をもってくるあたり、DNA に特別な思い入れを感じます。

そして、達郎は娘が待つ場所に戻ろうと泳いでいたとき・・

この物語は、好き嫌いが分かれそうです。
わたしは、あまり好きにはなれないです。バスターミナルで行方不明になった
スーツケースが示唆する意図はわかるのですが・・
娘を残したまま、トランクス一枚になって泳いでいくお父さんなんて、

        キライですーーーーー!!!!!!

鈴木光司著『生と死の幻想』(幻冬舎文庫)収録の『キー・ウェスト』は
35ページ。愛していた妻を亡くした男の哀愁にふれそうになったあと身勝手な
父親に激怒した10分。
お父さん、知らない国で娘をひとりにしないでっ!←怒って読み終えるのは珍しい

『キー・ウェスト』= 明るい物語と思い込んではいけない・・





  


水野はるか |MAIL
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