文ツヅリ | ||
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2005年02月16日(水) 【沖土】 ワナビー! |
「買ってきましたぜー」 「ああ、悪ィな」 なんてことはない。煙草が切れたとイライラするアンタをちょいとからかってから、使いを頼まれてやったのだ。 もともと今日は巡回が別で、自販機はこっち、俺の担当区域にあったから。 少しぐらいはパシられて差し上げやしょう。 見廻りが終わってから橋の真ん中で落ち合う約束をして別れた。 たまには待ち合わせなんてのも味があっていいだろィ? とは言え、わざわざ頼まれた銘柄を買ってやる必要なんざない。 小銭を入れて赤いランプの点灯を確かめると、両手で全てのボタンを同時押し。 コトン、と軽い音を立てて落ちてきたそれは白いパッケージ。嬉しいことに土方さんの好む銘柄ではない。 (ま、惜しいっちゃ惜しいよな、こないだは青だったから) 言い訳を見繕うのも煩わしく、片手でお手玉をするように弾ませながら所定の場所へ直行した。 だって土方さんのことを考えながら気もそぞろに町をふらつくよりは、瞑想に徹してじっと待ち侘びる方が、遥かに時間を有効に使っていると思いませんかィ? * * * 「早かったな。そっちのが時間かかると思ってたんだが」 「ええまあ、」 ショートカットしてますから、とは言わないでおこう。 前触れもなく箱を下手でヒョイと投げると、まるで当然の如く、片手でなんなく受け取った。 パッケージを確認すると渋い顔をしたが、ニコチン中毒の彼にはとにもかくにも摂取が優先。早速開封して火を付ける。 深く、溜息に似た調子で吐いた煙は普段とは少し違う香りがした。 何の気はなしに俺も一本、と拝借する。 俺はマッチもライターも持ってないので、土方さんの煙草の火を借りようと、自分がくわえた煙草を支えながら先をくっつけた。 近づく顔には、まだ何か気に食わないとでも言うように眉間にシワが寄っている。いつものより軽そうだから物足りないのだろうか。 ジ、と紙だか草の焼ける音がすると灯が二つになった。 離れて、火を付けるのに要した分だけ吐き出すと、欄干に凭れながら箱の文字を眺めた。3ミリグラム? そりゃ少ないかもねィ。 「んだァこれ? スースーする」 お気に召さなかったのはタールの量だけじゃないらしい。商品名の下、それより小さな字で書いてある単語に目を通す。 「えーと、クールバニラ? げー気持ち悪ッ」 「お前が文句言うな! なんでてめェはいっつもいっつもランダムで買ってきやがんだ!!」 「っかしーなァ。武蔵に確かめたんですけど」 「なお頼りねェよ!!!」 「まぁまぁ、武蔵にも悪気はなかったんですよ多分」 「武蔵はいい! 悪ィのはテメェだァァ!!!」 そんなツッコミは聞き流して、また箱をくるくると空に投げては受け止める。 雲よりも鮮明な白が少しだけ気に入った。 「これもすっきりしていいじゃありやせんか」 「……いらね」 まだ半分も吸っていない煙草をピン、と指で弾いて、踵で火をすり潰す。 俺もそれに倣うように火を消してから、最後に肺に残った煙を吐き出した。 しかし、もともと得意ではない。吸ったといっても知れたもので、出ていくそれは土方さんのより数段淡い色を振り撒くと、すぐに大気に混じって消えていった。 珍しいと思った匂いも最初だけ、吸ってみりゃ煙草は煙草だった。 「ちゃんと買ってこいよ」 「だって臭いんだもん、赤いの」 「バァカ、あれがいいんだよ」 くぁ、と口を覆いながら欠伸をすると共に伸びをすると、ポケットをまさぐりながら歩き始める。 「どこ行くんですかィ?」 「煙草。もうお前には頼まねェよ」 「次はちゃんと買ってきまさァ」 「前も、その前もそう言ってたけどな」 「その前の前もねィ」 「てめッ自覚あんじゃねーか!」 でもその俺に頼んでるのはアンタなんですぜ? なんて、口には出さずに呟いてみたり。 人知れず優越感を噛み締めながら、背中を丸めてゆっくりと歩いていく男の後ろ姿を追い掛けたのだった。 <終> ×‐‐‐‐‐×‐‐‐‐‐× ハイ。(挙手) 煙草よくわかりません!! 家にキャスター?かなんかがあったのでそっからこんなオハナシ。 トシのはマルボロじゃないとは思いつつ、かっこつけてるトシを夢見てます。 しかもマッチとか使ってたら萌えてたまらない。爆笑 普通にマイセン吸えばいい。 調べてから直すかも……。(順序が逆です) ---------- ちょび訂正。 つかクールバニラって出たばっかなん?笑 |
2005年02月11日(金) ★[ 06.真夜中] |
ひそりと足を忍ばせた。 寝静まった頓所内。 多少踏み付けたくらいで起きるような過敏な男がここに居るとは思えないが、やはり気が引けるので、足先でまさぐるように人を避けて通った。 障子を開けると、夜の冷えた風が顔の横を擦り抜けていくので、こちらも気付かれない内に素早く閉めた。 ゆるゆると不規則に髪を掠う夜風は心地良く。 なるべく床を軋ませないよう庭に向かった。 裸足のまま降りてみる。ひや、と冷えた地面が足の裏をくすぐった。 と、庭がやけに明るいので、空をつと見上げる。 なるほど、一面に広がる漆黒に、白く冴え冴えとした月がふっくり肥えている。満月だろうか。 その周りにたゆたうは薄衣のような雲。ゆらゆらと丸を蝕んでいく。 掌を翳した。 月の燐光が、五つの指を淡く縁取った。 そして、ゆっくりと手を差し出す。 届かないとわかっていても、つい手を伸ばしてしまう愚かしさに自嘲しながら。 手の内に月を閉じ込めて、どこか手に入れた気になって、握りしめれば空気が逃げるだけ。 そんな無意味な行為を何度繰り返したことか。 光はただ静かに降りゆくばかり。 風は一瞬にして体温を掠う。 袷の胸元をかき寄せても、隙間から入るそれは体中の表面を撫でては遠くへ。 いつか指を動かすことさえ億劫になっていく。 完全に足は捕われていた。 ──ザワ、ザザ 草が互いに擦れ合う音は不穏な心の音と重なっていた。鮮明でない視界の歪みに溶け込んでしまったそれは姿を見せないまま、神経を逆なで続けた。 ──ザワ、ザザ、ザザ 四方八方から、まるで狙われているようだ。ぐるぐると、囲まれでもしたかのようにそこら中から大小の音がする。 ぐるぐる、その場でただ足を踊らせている。酷く滑稽であることは解っている、しかしただそうすることしかできなかった。 逃げ場など何処にある? ──ザワ、ザザ、ザザ ──ザワ、ザザ、ザザ ああ、それだけじゃない。雲だ。雲が同じリズムで迫っている! ──ザワ、ザザ、ザザ ──ザワ、ザザ、ザザ ──ザワ、ザザ、ザザ ザッ、 ゆらり、雲が流れて。 月が、流れた。 <暗転> ×‐‐‐‐‐×‐‐‐‐‐× で? みたいな。 最近なに書いてもこんなカンジになるんですよー。前回然り。 早く普通のお話が書きたいなー。 エグいくらい甘い沖土でも書こうかな。笑 これ土→近でもいける、ってか寧ろそっち?; |
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