2003年10月25日(土) |
【融合】−The another side of 『The diary of Sonoka』− |
理人の銃弾が放たれた直後、から話は始まる。
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理人が放った銃弾がルナの身体に当たる手前で時間を止めた。
なぜなら、「本当に」殺す気などないし、肉体が死んでしまえば、それこそわしの様に「思念体」として生きていかなければならないからだ。
ただし、本気で殺そうと思わせなければならなかったことも事実。 ルナに、弾丸に注視させる必要があったからだ。
残念ながら、わしの魔力を最大限に消費すると、わしの身体を維持することが出来ない。 そうなってしまえば、永遠に疏埜馥とルナを一つにすることは出来ない。
自分に向かって放たれた弾丸を消し去ろうとするだろうルナの隙をついて、ルナに呪文をかけ、ルナを身体から追い出した。
ルナは、呪文によって作られた、深い穴に落ちていった。 ________________________________
穴の先は、黄泉の世界。
折角戻ってきた疏埜馥には悪いが、疏埜馥を呼ぶ穴も開けて置いた。
・・・・我を呼び出すとは・・・愚かな
「いや・・・出て貰わんとわしも困るんでな」
貴様のような幽霊風情に何が出来ると言うんだ?
「さぁ・・・お前のようなバケモノとサシで殺ろうと思うほど愚かではない」
ふ・・・自らの力の無さを呪うがいい・・・・・
「さて、疏埜馥、こっちへおいで・・・」
わしは疏埜馥の気配を察して、そう声を掛けた。
この期に及んで、まだ作り物を信じるというのか?全く愚かだ・・・
「お前が言う作り物に今まで押さえつけられていた、愚かな奴は何処のどいつで?」
ルナは怒り狂い、わしは笑った。
その声に呼び寄せられるように、疏埜馥が現れた。
『旦那様・・・ただいま・・・。私・・・何がどうなっているのか・・・・』
「ん・・おかえり・・・。さて・・・このルナをどう思う?」
『え!?これが・・・・・ルナ?』
明らかに今まで見たこともないルナだった。 深緑エルフの筈なのに、肌は浅黒く、全身から紫がかった妖気を漂わせ、今にも暴発しそうな魔力を感じることが出来る。
わしは魔力に中てられ髪が逆立ち、疏埜馥は鳥肌が立っていた。
さぁ・・・二人揃って、黄泉の国で消えて貰おうか?
不適に笑うルナ。
「ああ、勝手に殺せ。どうせお前は一人じゃ此処から出ることは出来ないからな」
ふっ・・・我にそんな子供じみた嘘が通用すると思っているのか?
「ルナ、お前は何もわかってないな。術者を殺せば、魔法は永遠に解けない事ぐらいわかろう?」
そんなもの・・・我が黄泉の国ごと吹き飛ばしてくれよう・・・・
ルナの全身から漂う妖気が、ルナの体内に集まり始め、身体を紫がかった光が包み込み始めた。
そんな時だった。
『旦那様・・・これ・・・・』
疏埜馥は、ロベルトから預かった十字架をわしに手渡した。
「ああ・・・ロベルトの・・・」
『何で知ってる・・・あっ・・・』
「『わしに知らないことなど無い』」 二人で声が合ってしまい、暫し笑う。
が、そんな時でもない。
消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
ルナの叫び声と共に、紫色の光線がわしらに向かって飛ぶ。
疏埜馥を突き飛ばしてわしもかわせた筈だったが、残念ながら左足を吹き飛ばされた。
『旦那様ぁ・・・』
「・・・・・っ・・・・ルナ・・・・結構痛いじゃないか」
泣き叫ぶ疏埜馥と、笑うわし。
先ずはルシフェル・・・お前から消す・・・
「面白い・・・。お前みたいな暴力妻など、こっちから願い下げだ」 わしはぼそぼそと二つ呪文を唱える。間に合わなければ死ぬだろう。
ふっ・・・今までの事を思い返しながら逝け!
ルナが二度目の光線を発射した時、わしの前にアイリッシュとユマと理人が現れた。
一つ目の呪文だった。
ルナはその虚像に光線が当たる前に道筋を変えた。
真っ暗な黄泉の世界に、空間が現れた。
「どうした?なんで撃ち抜かない?」 わしはルナを煽る。
くっ・・・・まだこんなモノが残っているからだ! ルナは自分の胸を自分の手でぶち抜き、中から固まりを取り出した。 それはわずかに残っていた疏埜馥の意志。 それがルナを躊躇わせた。
次は・・・・そうはいかない・・・・ 一段と魔力を上げたルナが、全身の気を集中し始めたその時、二つ目の呪文を唱え終わった。
「さて・・・ルナ・・・今までいろいろありがとう・・・愛する者を自分の手で消し去るのはいい気分じゃないが・・・それも天命だったと諦めよう・・・」
消えろ!・・・ルシフェル!!
わしの持つロベルトの十字架から黄金の光が放たれ、ルナの紫の光線を飲み込んだ。
そして、光線は打ち消し合うことなく「光の矢」となって、ルナの体内に突き刺さっていった。
ぐっ・・・・ルシフェル・・・何をした・・・・
『旦那様・・・・ルナは・・・・ルナはどうなるの?』
ルナの体内に刺さった光の矢に、ルナの気が集まっていく。 今までのように、暴発する気配もなく、一点にただ集まっていった。
わしは、残った魔力を集め、一つの球を作った。
「疏埜馥、ルナ、ロベルトから貰った十字架は、お前達を作った親そのものだ」
え!? 『父さん・・・母さん・・・?』
「いろいろあって、もうこの世には存在していないが、その意志はナイフになり、この十字架になって今も存在している。わしが死んで尚、ここに居られるようにな」
二人は、ただ呆然としていた。
「お前達を、この十字架に入れる。そして、もう一度両親から産まれるんだ。新しい一人の女として。 疏埜馥もルナも、その精神は生きる。どちらが居なくなっても、二人は生きていけない。 いいか?ルナ。疏埜馥を消していたら、お前は月の魔力に吸い寄せられて消えていく運命だったんだぞ。 疏埜馥が今までフィルターみたいな役目をしていたから、月の魔力に中てられなくて済んだんだ。 よく覚えておくようにな・・・・」
疏埜馥・・・ 『ルナ・・・。今度こそ二人で一人だよ・・・・』 うん・・・
二人が二人の意志を確認し合った時、球体が二人を包んだ。 そしてそれは、ロベルトの十字架に吸い込まれ、消えた。 十字架の中心には、ルビーが輝いている。 わしはそれを抱いて、暫し黄泉に漂っていた。
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《ルシフェルさん・・・》
どれくらい経っただろうか。 わしの消された足も戻り、大分魔力が戻った頃、黄泉で声を掛けられた。
「ああ・・・ルナの・・・」
《いろいろありがとうございました・・・》
「いや・・・自分の愛する者の為ですし・・・」
《やっと・・・これであちらに行けますよ・・》
「そうですか・・・・。それは良いのか悪いのかわしにはわかりませんが」
《ああいう娘にしてしまった・・・私の心残りが晴れたので・・・良いことだと思います・・・》
「もしよかったら・・・」
わしはその人に耳打ちした。 そして、呪文をかけた。
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黄泉の世界から出てくると、弾丸の止まったままの我が家に着いた。
持ち主の居ない身体を、弾丸より前で抱きしめ、十字架を首から掛けた。 ルビーは輝きを失い、代わりに持ち主の居ない身体に生気が戻る。
わしは時間を戻した。
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『旦那様・・・・ただいま・・・』
「ああ、おかえり、疏埜馥・・・」
『・・・姉さん?』
「ああ、姉さんそのもののお帰りだ、少年」
『いちいち少年って言うな!』
今度は突っかかって来られても当たってしまうので避けた。
「ちょっとだけ良いモノをみせてやろう」
わしが指を弾くと、そこには二人の「死んだ筈」の母親が現れた。
「黄泉の国で会ったから連れてきたんだ。10分しか居られないけど、まぁ、勘弁してくれ」
『『お母さん・・・本物の・・・・』』 二人は駆け寄って、母親と抱き合って再会を喜んでいた。
親子三人で話している間、わしは疏埜馥の中のルナに話しかけた。
「さっきは痛かったかい?わしは凄く痛かったぞ・・・」
空には、眩いばかりの満月。 今日はまた、ルナに逢いそうな気がする。
−FIN−
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