るしふぇるの日記風味
日記だかなんだかわからんけど(ぉ

2002年11月24日(日) 王宮日誌12

今日は、何やら引っ越しらしい。

無論、いつもの部屋の主だが。


「・・・不味い。あー不味い。くそ不味い」

不味いのに、飽きもせずに飲むのも今日で最後。
良く味わっておけよ、とでも言ってみたいが、止めた。

「ここでお約束の・・・」

・・・期待に応えてやるのも今日で最後。

「呼んだか?」

「・・・狙ってたでしょ」

「狙ったな」


薄ら笑いと引きつり笑いを混ぜたような何とも言えない表情を浮かべながら、椅子に凭れている。

わしは、手持ちぶさたを紛らわすために煙草でも銜えてみる。
無論、この部屋は禁煙だ。
「やさぐれ」て居るとき以外は吸わない主の部屋。


「結局、コーヒーの出所がわからず仕舞いだわ」

「実はお前が作ってた、ってオチじゃないのか?」

「・・・・・・」


いつもの引きつり笑い。
結構この表情は悪くない、と思う。
先ず、わしの前以外で見せる事のない、隙のある表情。


「そう言えば」

「ん?」
コーヒーを啜ってこっちを見上げる。

「旦那が迎えに来ていたな。オールドへ行くことにしたのか?」


ぶっ、とコーヒーを吹き出しそうになっていた。
微妙に照れ笑いを浮かべて続ける。

「旦那違うっつーの・・・まぁ、そうね。オールドへ行くつもり」

「国葬が出来なくて残念だ」

「うーるーさーいー」

いつもの口癖が出るほど、精神的に安定している。
今まではそう言った事が少なかった。
いつも一緒に居ることが多かったのに、だ。
無駄に緊張するのは、良い事ではない。

きっと、そう思ってただろう。


「退屈に慣れに行くのか?」

「慣れるとは限らないけども。まぁ勝手に想像して頂戴、私の性格諸々を考えながら」

「簡単に想像出来るな」

「言わなくていいからね」


ちょっと怒った、それでいて期待感を抱いたような微妙な表情を見せる。
『当てやがる』とでも思ってるんだろう。
わしは、結局カラダを壊す限界まで頑張る姿が目に浮かんだが、それを口に出す事は避けた。
この間の呻き声が頭を掠めたからだ。


少し他愛のない話をした後、ふと気付いたように

「・・・あっ」

と言って扉の方に目をやった。


「奥まで来るなんて意外だな・・・」

「ディーヴァか」

「うん。そろそろ行かなくちゃ」

「ああ・・・そうだな」

「すぐ行くから、少し待っててー!」


久々に「女らしい」と思った。
まぁ、女、という括りが正しいのかはわからんが、そういう感じがした。


「さてさて」

片づいた机を見下ろし、満足げな表情を見せる。
ただ、椅子から腰を上げた瞬間に、少し寂しげな表情が加わる。
きっと、「何か」が無くなる事を恐れているんだろう、と思った。


鍵を握って、わしの前に立ち、この部屋に来て始めて正対した。


「・・・貴方よりお預かりしていた、追放及び省統括の権限をお返し致します」
そういって、改まった声・表情で鍵をわしの手に置いた。


「なんだ、合い鍵か?」


こうでも言ってやった方が、わしらしいだろう。
「ご苦労様」とか、慰労の言葉は要らない。と、思った。


「あーぁ・・・」
溜息混じりの笑いで返してきた。
『らしい』と思ったんだろう。


彼の待つ扉の向こうへ歩を進めていく。
手を掛けたところで振り向いて言った。


「じゃ、ね。ここじゃない何処かで、また会いましょ」

二度とは交じる事のない道のようなものだ、と思った。
元々前と後を見ていたのだから、離れれば交わりようがない。


「そうだな・・・気が向けば」

「会っても会えなくても、まぁ運命よね」


運命は自分で切り開くもの・・・そうわしは言ってきた。
切り開いた先に、もうお前は居ない。


いざ扉を開けようとした時、わしは続けた。


「その扉の向こうに」

「・・・」

手は止まった。が、振り向かない。
もう、過去はそこで止まった。
その先には未来しかない。そう思った。


「その扉の向こうに、お前の望んだ未来が待ってるぞ」

「・・・。えぇ。・・・えぇ」


・・・・扉は閉まった。



わしは、主の居なくなった、がらんとした執務室に居る。







かつて二人の望んだ未来。

・・・二度と同じ絵は描かれない。



手には、主から渡された鍵。

ふと目をやると、そこには鮮血が着いていた。


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