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2004年12月13日(月) わたしの鏡。

■去年と今年の夏、一緒に仕事した俳優の仕事を観にいく(聴きにいく)。生きる力を他者に惜しみなく分け与える、素晴らしい歌声の持ち主。
 一緒に仕事をしている間は、わたしの能力の限り、彼の才能をバックアップしようと思うし、それ以外のときは、熱心なファンになる。今夜も、ただただ彼の歌声に酔い、彼が表現者として内包する感情の振幅の大きさに舌を巻いた。
 それなのに、ロビーで会ったマネージャーが、彼が落ち込んでいるのだとわたしに伝える。で、終演後楽屋へ。わたしは、彼がどれほど素晴らしいかを言葉を尽くして伝える。ひたむきに彼の悩みを払拭しようとする。共に苦労して作品を作り上げた時間が、お互いの信頼関係を生んでいるので、彼はわたしのことばを、100%信頼して受け止めてくれる。長らく楽屋で話し合ったあとは、「○○さんが今日観てくれて、本当によかった」と、嬉しげに表情をゆるめている。
 自分のような平凡な才能の持ち主が、彼のような天才に力を与えることばを持っていることに、わたしは驚き、自分の仕事、自分の来し方を振り返る。無駄なことばかりではないのだ。

■わたしの師匠がこの秋そりゃあ名誉な賞を受けて、その受賞を祝う会が昨日開かれた。師匠の仕事に関わったあらゆる俳優、あらゆるスタッフが顔を揃えると、そこは、わたしにとってはなんだか同窓会のような様相を呈し。
 一本の仕事を共にすると、短くて2ヶ月長くて5ヶ月くらい一緒に過ごす。そして、千穐楽を迎えると、ぱったり会わなくなり、その活躍を、劇場だのテレビだの映画館だので、見守ることになる。そうして出会い、別れてきた人が、もう、これでもかってくらい集まってきて、わたしは浮かれ気味に会場を歩き回り、抱擁や握手を重ねた。
 わたしの過去、わたしの記憶が、彼らという鏡を得て、甘くも苦くも、たちあがってきた。

■わたしはナルシズムに欠ける人間な分、他者という鏡を必要とするのかもしれない。

■昨夜、荒れに荒れた恋人は、今朝には穏やかに凪いでいた。迷惑をかけたこと、わたしへの甘えを詫びて、自分の狼藉ぶりを恥じてみせた。
 彼もまた、わたしの鏡だ。
 かつて確かにいたわたし、もしかしたら在りえたわたし、目に見えるわたし、目に見えないわたし。様々なわたしがそこに映りこんでいる。


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