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2004年06月18日(金) 書かなかった時間。

●旅先にいる。地方公演が開けたところで、観客からは熱狂的に迎えられた。
 
●書かない間、実に、実に、濃密な時間を過ごしていた。
 大きな仕事を抱えて、やりがいもあり、やれなやるだけ結果がかえってきて、それが自分の喜びになった。
 恋もしている。もうこの歳になったら恋愛の始まりのわくわくどきどきなんて面倒くさいだけだろうと思っていたわたしが、20代の頃のように、ちょっとした駆け引きに心ときめかせている。昨年のように現実的なことに惑わされず、ただただ恋をしている。

 そういう間、仕事はするし、自分の仕事のための書き物はするのだけれど、毎日毎日の自分のよしなしごとを、書き留めようとはしなくなってしまった。ここに書き続けていたものも、自分のノートに書きためていたものも。
 
 それが自分にとって、健康的なことなのかどうか、よくわからない。何か大事なことを忘れているような気もするし、過ぎていく日々のことなど書き留める必要などないのだと開き直る節もある。
 
 
●恋人は、かつてニューヨークで同時多発テロが起こったとき、わたしに電話をかけてきて、「10メートル四方のことを考え続けている自分が、分からなくなってしまった」と言った。
 10メートル四方というのは、その時彼が図面を引いていた劇場のことだ。
 大きな世界の中で、一人の自分が人生を賭けている狭い世界のことを考え、彼が自分の居場所を疑った瞬間だった。

 世の中は、わたしの知らないところで、動き続けている。報道に乗ることだけでも、追っかけていると、いっぱいいっぱいになる。
 それら全てに無視を決め込めるほど、このところのわたしは、仕事が楽しく、恋する相手と過ごすことが楽しかった。

 その自分を疑う時間と、疑うことも忘れて人生を謳歌する自分が、交錯している。

●ホームページの扉に掲げている、アイザック・ディネーセンの言葉を、よく思い出す。その言葉を長く長く噛みしめていると、文字に起こしていないだけで、やっぱりわたしは自分の時間を、どこかに書き留め続けているような気もしてくる。


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