おひさまの日記
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2010年03月06日(土) 野菜ジュース劇場

今日、夜ごはんを食べていたら、アンナが手元のコップを倒した。
入っていた野菜ジュースがだーっとテーブルに広がった。

ほんの一瞬、私の時間が止まった。

それは1秒にも満たいない時間だったけど、
私はその一瞬の間に、自分の心の奥にダイブして、
重要な選択をしていた。

そして、次の瞬間、アンナに言った。

「あーっ、こぼした!
 もったいない、すすっちゃえ、ずずずーっ、て」

アンナは戸惑っていた。

そりゃそうだろう。
だって、今までの私だったら、

「あーっ、なにやってんのよ、もぉ!
 早くふきなさいよ!」

って、言ってただろうから。
こぼした瞬間、反射的に「怒られる」そう思ったのだろう。

「どうせこぼすならパパのをこぼせばよかったのに。
 パパは野菜ジュース嫌いだから、こぼしたら喜んだよ。
 残念だったねぇ、パパ」

「ホントだよ、パパのをこぼしてくれよ」

私の言葉にabuが便乗する。

アンナの顔がほころんできた。
怒られなかったことで安堵が彼女の中に生まれたのだろう。

どうしよ、台フキンどこ!?
あーっ、広がってく!
そこ、そこ、お皿どかして!
ぎゃーっ!
やっぱり飲んじゃえ、すすっちゃえー!
私と、アンナと、abuと、母、4人、食卓で大騒ぎ&大笑い。

ようやくこぼれた野菜ジュースをふき終わると、
abuがアンナのコップに自分の野菜ジュースをつぎ始めた。

「パパは野菜ジュースが大好きなんだけど、
 アンナがかわいそうだからパパのを半分あげるね」

一同爆笑。

夜ごはんが済むと、それぞれが自分の部屋に戻っていった。
いつもの夜がやってきた。

私は、ひとり、静かに静かに、こみ上げてくるものを感じていた。

できた、できたよ、やりたかったこと。
なれた、なれたよ、なりたかったママに。
アンナが失敗しても怒らずに冗談言って笑い飛ばせたよ。
ずっとずっとこうしてみたかったんだ。
やった、やったよ、やっとできたんだ。

目の奥が熱くなった。

アンナがジュースをこぼして時間が止まったほんのわずかの間、私の中で葛藤があった。
いつも通り怒ろうとする自分と、アンナの心を守ろうとする自分、ふたりの自分の葛藤。
ふたりは、張り詰めた空気の中で「どっちが行く?」って、
見つめ合っていたような気がする、静かに。

そして、前に出たのは、いつもの怒る自分じゃない、
アンナの心を守ろうとする自分だった。
今日のふたりの自分は戦っていたわけじゃなかったみたいだ。
いつも通り怒ろうとする自分が、アンナの心を守ろうとする自分に、
「お願い、行って」
そう言ったような気がした。

いいじゃない、ジュースくらいこぼしたって。
そんなんで死にゃあしないんだから、気にしない、気にしない。
わははは!

私の中のいつも通り怒ろうとしていた自分は、怒っていなかった。
とても穏やかだった。
あたたかさとやさしさの中で泣いていた。

「本当はずっとこうしたかったんだ、やっとできたんだ」

それが、怒ろうとしていた自分の本当の気持ちだった。
でも、それができなくて、いつも苦しんでいたのだ。
何かが溶けていくのを感じた。

それは、私自身が許せないでいた自分の一部を許した瞬間でもあったのだと思う。

自分に何が起こってそうなったのかはわからない。

人生には、時々、こうしてさりげなく、
けれど、実は、それまで限りなく積み重ねた体験の集大成として、
こんな尊い瞬間を迎えることがある。

私は泣きたかった。
悲しいからじゃない。
溢れてくるんだ、あたたかくてやさしいものが。
うれしくて、うれしくて、私は泣きたかった。

私は愛になりたかった。
大切なものを大切にして、愛しているものを愛したかった。
けれど、それが上手にできなかった。
できなくて苦しんだ。

でも、今日、私は、アンナを大切にできた。
なりたいママになれた。
うれしい、うれしいよ。

アンナも笑ってる。
ママ、うれしいよ。

本当の自分の姿になった時、
魂が震えるからわかる、あたたかい涙が溢れるからわかる。
泣けてしまうほど自分はそこから遠ざかっていたのだということも。
人間本来の姿、愛という本質から。

ただいま、ただいま。
ここは居心地がいいよ。
ずっとここにいたいな。
ずっとこのままでいたいな。
私は本当の私でいたいな。

生きてきてよかったな。
こんな瞬間を体験できたんだもの。
今日の野菜ジュース劇場は最高だった。
本当に色々あったけど、生きてきて本当によかったな。


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