おひさまの日記
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2005年12月27日(火) ここまで来たら武勇伝と言わせてほしい

今日からアンナがスポーツクラブのスキー合宿に出かけた。

待ち合わせの某駅までママ達が送り、
そこから先生と子供達が東京駅に行き、
新幹線で新潟に向かって旅立つという朝の始まりのはずだった。
しかし、そこには思いもよらない展開が待っていた。



朝、私は、アンナと、仕事で送りにいけないあるママから預かった女の子の2人を連れていた。
成田駅で他の2人のママと2人の子供と待ち合わせ。
ママ3人、子供4人が成田から電車に乗った。
少し走ったところで車内アナウンス。

「次の停車駅は、下総松崎(しもうさまんざき)〜、下総松崎〜」

ママ3人は固まった。
次は酒々井(しすい)で停車のはずよね!?
てことは…

私達は反対行きの電車に乗ってしまったことを瞬時に察した。
どうする!?
都内とは違って、電車が山手線並みには走っていないので、
今から成田に戻ったら間違いなく間に合わない。
どうする!?

私の頭がチャカチャカと回転し、
新幹線に乗る東京までダイレクトに連れて行けば間に合うことに気づいた。
携帯からヤフーの路線検索をしてみて間に合うことを確認。
ゆとりを持って新幹線に間に合いそう。
先生に電話して、東京まで行って、新幹線の改札で待ち合わせることにした。
一件落着。

そして、しばらく別ルートながら東京駅に向けて電車に揺られていると、突然電車が止まった。
車内アナウンスが流れる。

「沿線火災があったために、この電車はしばらく停車いたします。
 お急ぎのところご迷惑をおかけし誠に申し訳ありませんが、しばらくお待ちください」

なにーーーっ!?
しばらく待てだーーーっ!?
待てないっ!!!!!
新幹線行っちゃうんだよ!!!!!

ママ3人顔面蒼白。
子供達は逆方向の電車に乗ったことも、沿線火災で電車が止まって遅れそうなことも、
まったく気にする気配はなく、無邪気にじゃれている。

電車の運行が再開する時間によっては新幹線の出発時間間に合わないかもしれない。
あとは神頼み。

5分も待っただろうか、運転がようやく再開された。
うん、今ならまだ間に合う。
そう胸をなで下ろすと、また車内アナウンス。

「電車が遅れたために、上野行きのこの電車、我孫子が終点になります。
 お急ぎのところご迷惑をおかけし誠に申し訳ありません」

なにーーーっ!?
上野まで行かないだーーーっ!?
じゃあ我孫子で乗り換えかよーーーっ!?
乗り換えの電車がすぐに来なかったらアウトじゃん!!!!!

しかし電車の中、焦っても慌てても仕方ない。
乗り換えのつなぎがいいことを、ひたすら神頼み。

我孫子に到着すると、幸いなことに乗り換えの電車がすぐにホームに滑り込んできた。
ラッキー!これなら間に合う。

そそくさと乗り換え、胸をなで下ろすと、預かって連れていた女の子が言った。

「おしっこ」

えっ…!?
お、おしっこ…!?
おしっこですか…!?
それは、その、つまり、トイレに行くってことだよね…!?

走り続ける電車、次の乗り換え駅までゆうに30分、
その女の子はへの字口になっていて、ガマンの限界を迎えている様子。

わかったよ、わかった、おばちゃんわかったよ…、おしっこしようね…。

私は一緒にいたママふたりに先に東京駅に向かうように言って、
アンナとおしっこ娘を連れて次の駅で途中下車した。
旅は道連れ、世は情け、彼女達は心配して降りようともしてくれたけど、
おしっこ運命共同体によって全員が遅刻の危機に陥ることはできない。

途中下車した駅でトイレを済ませたおしっこ娘とアンナの手を引いてホームに戻ると、
これまた絶妙なタイミングで電車が来た。
私達はその電車に飛び乗った。
子供達に焦った顔をしてはいかんと楽しく話などしつつ時計を見ると、なんとか間に合いそう。
ここまでトラブル続出なのに間に合いそうなんて、すごい。

もうこれで大丈夫、そう胸をなで下ろすと、車内アナウンスが流れた。

「この先で危険信号が発信されたため、この電車はしばらく運行を中止いたします。
 お急ぎのところご迷惑をおかけしますが…」

なにーーーっ!?
またですかーーーっ!?

あああ…
もういい、もういいよ…
ご迷惑をおかけされてますよ…

先に行った2人のママと2人の子供はギリギリ間に合うだろう。
おいらは、おいらは、非常に危険だ。
ぽつぅ…んと孤独。

少ししてやっと電車が動き出した。
そして、次の乗り換えの駅まで来ると、
ここからが本番とばかりに、人をかき分けつつ、時にぶつかりつつ、
子供ふたりを連れて疾風のごとく乗り換えのホームに向かって走った。

今まさにドアが閉まりそうな京浜東北線がホームにいたので、
子供ふたりと彼女達のでっかい荷物をそれにぽーんと放り込み、私も飛び乗った。
ギリギリセーフ。
勝負は東京駅に着いてから。
迷わずに待ち合わせの改札まで辿り着けば、滑り込みで新幹線に乗れるはず。

東京に到着、新幹線発車まであと少し、
私は再び疾風のごとく子供2人を連れて猛ダッシュした。
今日は運動会か?
走ってばっかりだよ。

しかーし!

待ち合わせ場所の乗り場が見つからない。
確かにそばまで来ているはず、この辺のはず、私は錯乱気味。
ここまで来て間に合わずにおれるか!
近くにいた若い駅員さんに訪ねる。

「八重洲中央口の近くの南乗り換え口はどこですか?」

彼が答える。

「はぁ〜?
 中央口に南口はありませんから、その乗り換え口はありません。
 責任持てませんから教えられません」

デフォルメなし、まさにその通りの素晴らしい対応だった。

はぁ〜?って、君は摩邪か!?
しかもそれが客に対する態度か!?
だがしかし、怒っている時間すらない。
私がマッハの速度で急いでいたことを幸運に思いたまえ、青年よ。

「違うんです、違うんです、『八重洲中央口の近く』の、南乗り換え口です」

「ですから、中央口なのに南ってのはないんです」

「じゃあただの南乗り換え口はあるんですか?」

「それならそこを右です」

えええっ、やっぱりあるんじゃない、南乗り換え口っ!

やっと教えてもらった集合場所に到着すると、
先に行ったママ2人が待っていてくれて、
まさに、まさに、まさに、まさに、まさに、ギリギリで、
アンナともうひとりの女の子も団体様ご一行に合流することができた。

楽しんできてね、ぎゅうぅっ、ちゅっ、なんて感動のお見送りをする間もなく、
彼女達は先生にひっぱられ、新幹線乗り場に消えていった。

終わった…。
長い長い闘いだった…。

私と2人のママは顔を見合わせて大笑いした。

限界ギリギリの3時間を振り返る。
本当にスゴかった。
まるでマンガのように、あまりにも色々なことが立て続けに起こるので、
実は、私、途中からおかしくて仕方がなかったのだ。
ゲームみたいなハラハラドキドキの中で、ワクワクしている自分がいたのだ。
なんとも刺激的な3時間だった。


  電車の乗り違い
     ↓
  沿線火災による一時運行停止
     ↓
  終点変更のため乗り換え
     ↓
  おしっこで途中下車
     ↓
  危険信号による一時運行停止
     ↓
  非常に礼儀正しく場所を教えてくれた青年駅員
     ↓
  ギリギリセーフ


うーん、スゴイ、スゴイよ!
マンガみたいだ!

そんなドラマチック体験を終えてようやく成田に戻り、
駐車場から車を出そうと切り返していると、

「ンガガガガガガガーーーッ」

というものすごい音がした。
そう、駐車場の柱に車のバンパーをこすった音だった。

クライマックスはこれか。

そして私は確信した。
これで子供達の厄は全部落ちたな、楽しいスキー合宿になるぞ、と。

私の頭の中では、

♪武勇伝、武勇伝、武勇伝でんででんでん、レッツゴー!

が、ぐるぐる回っていた。

ここまで来たら武勇伝と言わせてほしい。

今日の出来事でひとつだけ言えることは、
最悪の事態と、それを脱するための最高のものが、
両方仲良くくっついて用意されていたということだ。
人生ってそういうモンかもしれない。


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