おひさまの日記
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今日、初めて犬の涙を見た。 ある家で飼っているタローという柴犬。
タローがいる家に用事があり行ってみると、 いまだにまだらに残った冬毛が、 夏毛と混じってでこぼこになっている。 そのみじめな様子が不憫になり、 飼い主の許可をもらってブラッシングをしてやった。
ずいぶん長いこと手を入れてもらっていない様子だった。 しばらくブラッシングを続ける。 とかす度にもこもこした冬毛がごっそりと抜け、 タローはだんだんスマートになってきた。 いつもはぴょんぴょん跳ねてじゃれてくるタローが妙におとなしい。 ふと、タローの顔を見て、私は驚いた。
つぶらな瞳がうるうるし、 両目から一筋の涙が伝って落ちていたのだ。 タローが泣いていた。 鼻がひくひくし、まるで人間と同じだった。 なんて悲しそうな顔をするのだろう。
私は知っていた。 タローはほとんど散歩に連れて行ってもらっていない。 いつも湿った薄暗い場所につながれている。 ほとんど人に触れてもらうこともない。 1日2回、決まった時間にドライフードと水をもらい、 つながれた場所でただ暮らす毎日。 体は汚れ、喉元は泥がついて固まり毛が束になっている。 だからとても臭く、体中がベタベタしている。
長い時間かけて、 触れて、ブラッシングして、 話しかけて、抱きしめて、 そうしていたら、泣き出したタロー。
犬も泣くのだ。 心が、感情があるのだ。 人間と同じだ。
私はタローじゃないからよくわからないけど、 タローは、寂しいかったんじゃ、辛かったんじゃないだろうか、 心に痛みがあったんじゃないだろうか、 そんなことを考えた。
飼い主にタローが泣いた話をすると、 彼らは興味がない様子だった。
彼らは彼らなりにタローをかわいがっているのだとは思う。 彼らなりに。
「犬はわからないんだから、いいんだよ」 散歩して、ブラッシングしたり、遊んであげたりしたら? そう言った私に飼い主が返してきた言葉だった。
彼らなりの正しさのもと、タローを飼っているのだろう。 けれど、私にタローの涙はあまりに痛かった。
帰り際、また遊びにくるね、そう言ってタローを抱きしめた。 いつもはぴょんぴょん跳ねてじゃれてくるタローが、 あの悲しい顔のまま、動かず立ち尽くしていた。
許されるものならば、そのままタローを連れて帰りたい気持ちだった。
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