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くもりのち晴れ
美雨
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2004年11月14日(日)
臓器提供意思カード


「あ、これに署名して」
とマサトに渡されたのは臓器提供意思カード。
家族の署名欄を指していた。

脳死や臓器移植になんとなくうさんくさいものを感じる私は、心臓停止後の角膜にだけ○をしているカードを持っている。

でもマサトは、脳死および心臓停止後のすべての臓器の提供に○をしていた。


しばらく考えてみた。

父がホスピスで死んだとき、その身体は私たち家族がきれいにして、服を着せた。
あたたかい父の身体が、だんだん冷たくなっていくのを感じた。
通夜から葬式、そして火葬場まで、私たちはずっと父と一緒にいた。

臓器提供をしたら、それができないということではないか?
「心臓が停止しました」「それでは」と私はマサトから引き離されてしまうのではないか?
いや、それどころか、脳死だったらまだ呼吸がある状態で、マサトは連れていかれるんじゃないか?


そんなのはイヤだ。


だから署名は拒否した。

「うん、わかった。どうせ美雨の承諾がなければ臓器提供できないから安心していいよ」
「でも、俺が死んでも他の人の身体の中で俺の臓器が生きてるっていいと思わない?」
「せっかく死ぬんなら人の役に立ちたいなぁ」

マサトの言うことはよくわかる。
私も自分のことだったらそう思う。
でもイヤ。

「あなたの死体は、他人じゃなくて家族のためにつかってください」
「死んで人の役に立つより、生きて100人の人の役に立つ方が大事だと思う」



マサトが臓器移植が必要な身になったら、移植を待つだろう。
でも提供するのはイヤなんて、矛盾している?

でも家族の死は家族のものだ。