瞬間、雨の匂い。
刹那、遅れて、顔に当たる湿気。
嗚呼、そうか、今年もこの季節が。
わずかながら郷愁に襲われる感覚。
生まれ育った地でもないくせに、
いいようもない、この締め上げるような、喰らいつくような、
「帰りたい」想い。
ここに居るべきではない。
どこかで響く声が、確実に脳を揺する。
酔ったように気分が悪くなり、そして。
いつかのような過ちを繰り返すのだ。
そうしてまた大切な誰かを失ってしまう。
迫り来る夕陽、波の永遠、白いシャツ。
君は振り向いて、そうして、泣いている。
いや、笑っているけれど、泣いている。
僕は――腕を、伸ばし、そして。
浸透してくる夜の闇、切り裂くような月明かり。
冷たくなった手。
波に、たゆたう、黒い、長い、きれいな、君の、髪――
僕も、きっと、いつか。
君のもとへ。