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僕の、場所。

今日の僕は誰だろう。



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the last night

海。

僕は立っていた。
聞こえるのは波の音、遠くを走る車の呻き。

空は町の光でほの白い。暗闇になり切れない悲しさ。
松の防風林だけが黒く、夜だということを思い出させる。
木々の中の小道を抜ければそこは一面の砂と水。

「立入禁止」と書かれたプレートを無視して、
動きを止められた首の長い鉄の塊の脇を抜ける。
水平線を邪魔しているのは、人工のコンクリート。
さらに港の明かりがただ幾つかだけ灯る。

ここは静かだ。時も思考も、何もかも止まってしまったかのよう。
波の音と、砂に遊ばれる足元だけが現実の指標。


僕のイメージの中で、白いシャツの彼女は歩く。
波が靴を濡らさないラインを測りながらゆっくりと。



傾いた月が黙って、ただ空に佇んでいる。
絶え間ない波を黒く照らしている。
星達は気恥ずかしそうに目を細めて、歌っていた。
僕はただ、そこに居た。

誰もいない。
人工の光もない。
風すらなく、ただ月の光と波の音。そして水。


ふと立ち止まった彼女は微笑む。
そして、そのまま



波の届かない砂浜は、僕に土の感覚を思い出させるに充分だ。
不規則なくぼみ、そして細かい粒子。
すべては僕を翻弄して足元に纏わりつく。
そして僕はそれすらも楽しくて仕方がない。


そして、そのまま消えてしまう。



まるで異世界のような夜の浜辺。
町の喧騒から隔てられた別空間。
今夜、そこに君を連れ出したい。

ここは、黒く輝く海辺。


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