庭で友達とはしゃいで遊んでいると、時々、母が窓から顔を出して僕を呼んだ。
「ケーキが焼けたからいらっしゃい。手を洗ってね」
幼かった僕は顔いっぱいの笑顔でうんと頷いて、仲の良かったその子と手を取って洗面台へと駆けていったものだ。
何故か今でも鮮明に覚えているのが、いちごのタルトだ。大きくないタルトだけれど、いちごが綺麗に並んでいて、つやつやしていて、僕も僕の友達も目を丸くして嬉しがっていた。
たぶん、春だっただろう。
友達は遠くへ引っ越してしまった。
赤くてつやつやした、微かな酸味を思い出させるいちご。遠い昔の、少し悲しい思い出とともに、今こうしてまたいちごのタルトを食べている。一緒にはしゃいだ相棒の名前さえ思い出せないが、幼い僕の寂しさを慰めるかのように、目に鮮やかなストロベリー・レッドがきれいに並んでいる。