この世界の中で
呼吸をする術を知らない人形は
ただ笑いながら椅子に座っている
女の子が駆け寄って抱きしめて
男の子が走ってきて放り投げて
お母さんが洗濯機に放り込み
猫が咥えて
それでも笑い続けるお人形
あなたに愛されたかっただけなのよ
そのために私は作られたのよ
笑顔の底に声が滲む
それでも人形はおしゃべりが出来ない
ある日ある時
不思議なお爺さんがステッキで
そっと頭を撫でてくれる
そうすればわたしは息が出来るのよ
きっと私はおしゃべりも出来るのよ
そう、きっとね
愛されるだけなんてつまらない
わたしもあなたを愛したい
希望の裏に祈りだけが響く
それでもお人形は呼吸が出来ない
未来なんてないの
人形は人形のまま
笑ったまま
おしゃべりの出来ないまま
わたしは朽ちてゆくの