僕の、場所。
今日の僕は誰だろう。
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一匹の白いうさぎがいました。
うさぎは、野原で暮らしていました。
うさぎは、白い毛皮でいられる冬が大好きでした。
「見て見て。ぼく、真っ白でしょう」
お日様に自慢して、お月様に自慢して、お星様にも自慢しました。
お日様は暖かいひなたを作ってくれました。
お月様は真ん丸く笑ってくれました。
お星様はぴかぴかと嬉しそうにしてくれました。
うさぎは誉められたと思って大喜びでした。
真っ白な毛皮が大好きなのです。
あるとき、一匹の茶色のうさぎが向こうから歩いてきました。
うさぎはびっくりしました。
冬になるとうさぎは白くなって、きれいになるのが普通です。
「どうしたの? もうすぐ冬なのに、白くないの?」
「旅をしてきたんだ。ここはとても寒いね。それに君、とてもきれいな毛皮だね」
茶色のうさぎは言いました。白色のうさぎはそれを聞いて喜びました。
「此処ではね、寒くなると辺りが真っ白になるから、ぼくたちも真っ白になるんだ」
「へぇ。うらやましいな」
「今も少し雪があるね」
白色のうさぎは、ほんの少し積もった雪を前足で触りました。
とても冷たくて気持ち良い雪です。そしてうさぎの前足と同じ色です。
その時、とても大きな音がして、白色のうさぎはびっくりしました。
「だいじょうぶ? びっくりしたね――」
そう言ってから、白色のうさぎは、もっとびっくりしました。
茶色のうさぎが、いつのまにか寝ているのです。
「どうしたの? びっくりしすぎたの? ねえ」
ほっぺたを触ってみました。茶色のうさぎは目を覚ましません。
耳を触ってみました。茶色のうさぎは目を覚ましません。
おなかを触ってみました。茶色のうさぎから赤色が出てきました。
白色のうさぎの前足は赤くなりました。
「どうしたの!? どうしたの!? 痛いの!?」
茶色のうさぎは目を覚ましません。
茶色のうさぎは目を覚ましません。
もういちど、大きな音がしました。さっきと同じ音でした。
茶色のうさぎが少しだけ動いて、赤色が跳ねました。
跳ねた赤色が、白色のうさぎの目に入りました。
目が痛いのでびっくりしていると、うさぎたちが皆怖がっている音がしました。
二本の足で歩くどうぶつの足音です。
白色のうさぎは、お母さんに言われていたとおりに、いちもくさんに逃げ出しました。
赤色のはいった目が痛くて、涙がたくさんたくさん出てきました。
赤色になった前足が、白い雪にてんてんと印をつけていきました。
その日の夜は、たくさんの雪が降りました。
次の日に、雪が止んでから、白色のうさぎはまた遊びに行きました。
茶色のうさぎを探しました。おいてきぼりにしてしまったからです。
昨日茶色のうさぎに出会ったところには、何もありませんでした。
ずっと待っていても、ひょこっと顔を出したりしませんでした。
うさぎはさみしくて、泣いていました。
目は、昨日からずっと赤いままです。でも昨日よりもっと赤色でした。
その次の日も、もっと赤くなりました。
その次の日も、もっともっと赤くなりました。
もっと、もっと、もっと、赤くなりました。
白色のうさぎは、もう、どうして目が赤いのか思い出せなくなりました。
でも、白色のうさぎの目はずっとずっと赤いままでした。
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