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僕の、場所。

今日の僕は誰だろう。



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 少し肌寒かった。僕はバスを待つべく、青色の安っぽいベンチに座ってぼんやりとしていた。時刻表どおりに来るバスなんか無い。コートのポケットに手を無造作に突っこんで、向こう側の歩道をなんとなく眺めていた。
 英会話教室のチラシを配る女性の脇をすり抜けて足早に歩く大人たち。懐かしい学生鞄を持って笑いながら帰る中学生。自転車もいくつか視界を流れた。車道の車は少し渋滞しているようだった。車の中で談笑している仲間たち。こんなに騒がしいのに何故かとても静かだった。
 飽きてきたので首を回すと、いつの間にか僕の横に女の子が居た。この子もバスを待っているのだろうか。脇に置いた鞄の中を探るついでに、正確には探るふりをして、少しだけその子を見た。見慣れないセーラー服だった。どこの私立の学校だろうか。頬にかかる髪と眼鏡で顔はよく見えないがきっと可愛いのだろう。いや、そうであって欲しかった。それでこそこの寒い中バスをひたすら待つ事のメリットが生まれるというものだ。
 鞄の中から適当にノートを手にとって少しめくり、満足した様子を装って、もう一度それを鞄に戻す。バスはまだ来ないのか、と時刻表と腕時計を見比べようとした時、僕のコートの袖が引かれた。
「あの…」
 女の子だ。控えめに僕の顔をうかがっていて、これはもしかしたら僕がアヤシイ人間じゃないかどうかを見極められているのだろうか。僕は人の顔を凝視するのが苦手で、つい白いセーラーリボンを見ていた。どうせなのだから顔も見たかったのだが。
「…あの、わたし…探し物をしているのですが」
 きれいな声だった。透き通るような声に、何故か僕は少し照れた。しかしそれを表に出すほど僕は簡単に作られていない。
「探し、物?」
「えぇ…ずっと探しているのですが…見つからなくて……」
 ちょっと待ってくれ。この子は何を言い出すのだろうか。僕にどうして欲しいのか。探し物なんて僕には関係ないはずなのに。正直僕は戸惑う。
「それで、…えーと僕が持っているとか? 何も拾ったりはしてないけど…」
 バスが、来た。プシゥーとあの音を立ててドアが開く。乗り降りする人々。くぐもった運転士のアナウンス、そしてドアは閉まる。
 僕はまだベンチに座っていた。隣の女の子も座っていた。バスは行ってしまった。
「……あの」
「バス、良いの?」
「わたしは…えぇ。でもあなたは…」
「…ま、良いだろ。それで、その探し物って何」
 僕はどうかしたのだろうか。あと1時間待たないと次のバスは来ないというのに。
「え…」
「あと1時間だけで良いなら、手伝おうか? 座ってるよりましだ」
 情けない事に、このとき僕は初めてその女の子の顔をちゃんと見た。簡単に言ってしまえば可愛い子だ。驚いてから嬉しそうに笑う、すると少し幼い感じさえする。いくつなのだろうか。制服のセーラー服はこげ茶。少なからず好印象。よし、おにーさんちょっと頑張っちゃうおうか。
「ありがとうございますっ、アキトさん」
「へっ?」
 可愛い子を前に間抜けな声が出てしまった。目の前の女の子は嬉しそうに微笑んでいるが。
 何故、僕の名前を知っているんだ、この子は。







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